同じ境遇
充は、男の子のことを教えてくる様子はあまりない。名前は
もうすでに、養子縁組を交わして、戸籍にも市役所に提出済みとなっていた。
私たちの間には子供がいない。というより、私が作りたくないのだ。それを充は理由も知っているはずだ。
次の日「雪乃、今日は頼んだぞ」と彼は会社に出かけて行ってしまった。今日一日をどう過ごせばいいのか分からない。
嫌な記憶を思い出した。実の母親だ。あの人は毎日、昼は寝ているか、男と遊んで、スナックで夜は働いていた。たまに、知らない男の人が家に来ていたこともある。1日を水のみでしのいでことあった。いつも私は存在しないのかというほど、「お前ってホント邪魔」「うるさい」など罵声を浴びせられたこともあった。早く母親から離れたかった。だから、高校に行かず寮が完備された工場で働いた。そこに営業マンとして来ていたのが充と出会った。そして付き合いこととなり、同棲を申し込まれ、結局は結婚した。当初、充に子どもは作りたくないと言っていた。何となく、産むことも、子どもを育てることに、自信持つことができなかった。今はよく分からない。やっぱり、充との子どもがほしい気持ちもある。
部屋に戻ると、隅に男の子が立っていた。たしか、名前は陽太だっけ。何かに怯えた様子で、俯いている。私が怖いのかもしれない。たぶん、同じような境遇で育ってきたのだろう。あの時の私は知らない大人に何をしてほしかったのだろう。
目線を合わせるように、しゃがみこみ、「おはよう。ご飯にしようか」自分なりの精一杯の結果をだしたつもりだった。ただ何の反応もなかった。私は「何がしたいの!」と怒鳴っていた。
さらに、陽太は萎縮するのに怯えきっていた。なんで、充は陽太と2人きりにしたのだろう。何も分からないので、とりあえず、そのままにしようと思った。無理に関わろうとしても、また怒鳴ってしまうことはわかってから。
キッチンで気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。やっぱり、子どもは苦手だ。スーパーなどでもそうだが、泣いている子どもを見ると、怒りが沸いてくる。一度、充に「他人をコントロールは出来ないよ」と言われたことがある。そんなつもりはないが、やはり、私は沸点が低いのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます