不安という名の流砂

 私は砂時計の中に住んでいます。


 砂時計はとても大きくて、大体九十年ぐらいで全ての砂が落ちます。


 普段は砂の上にいるのですが、最後の砂が落ちる時、私も下に落ちてしまいます。


 もちろん、落ちたら死んでしまいます。




 私は今日も砂漠を歩いていました。


 砂漠と言っても砂しかないわけではありません。そこには色々なものがあります。


 学校や職場と言った建物もありますし、七五三や入学式などの行事もあります。思春期や、更年期などのライフステージも、嬉しさや悲しさと言った感情だってあります。


 私は今日も砂の上を歩いていました。そしてその時、私は流砂に踏み入ってしまいました。足元にちょうど流砂ができたと言った方が正しいかもしれません。


 その流砂は不安そのものでした。


 流砂はどんどん私を飲み込んで行きました。私の体はどんどん下へと沈んでいきます。このままではいつか私は砂時計の下へと落ちてしまいます。


 私は助けを呼びました。するといろんな人が私を助けようとしてくれました。その人たちの支えのおかげで、私は流砂の中でも何とか持ち堪えることができました。


 しかし、彼らには、私を流砂からひっぱり出す事はできませんでした。私を救う事はできなかったのです。


 私は彼らを少しだけ恨めしく思いました。どうして救ってくれないのかと。支えはいつか崩れていきます。そうなれば、私はまた流砂に飲まれていってしまうでしょう。支えは一時的なものです。


 そして、私は何故彼らが私を救えないかに気づきました。彼らもまた、砂時計の中にいたのです。彼らもまた、不安という名の流砂に足をとられ、飲み込まれないように必死に生きていました。


 私はその時悟りました。私を救えるのは私だけということに。すると、私の身はフワッと軽くなり、砂に浮くようになりました。流砂が消えたわけではありませんでした。しかし、もう流砂は、私を飲み込む事はできませんでした。私は流砂がちっとも気にならなくなりました。


 そのうちに時間が沢山経ち、最後の一粒が落ちました。それと同時に私の命もさらさらと落ちていきました。砂時計の下、上からは真っ暗で何も見えなかった世界へと落ちていきました。


 私はずっと眠っていました。たくさんの砂に包まれて、心地よい気分で眠っていました。しばらく経つと砂時計が大きく動き始めました。その音で私の眠りは浅くなりました。上下がひっくり返っているのかな、と私は寝ぼけた頭で考えていました。




 気づくと私は砂の上にいました。もう何も覚えていないけれど、とりあえず目の前の砂漠を冒険してみようと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編広場 如月冬樹ーきさらぎふゆきー @kekentama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ