珈琲は月の下で

モカコ ナイト

ヤツとの攻防

 深夜。心地のよい眠りに落ちたその静けさの中、ガサゴソと引き戸を掻く音が夜の静寂を静かに崩し始めた。


 眠りの波は遠退き、その音に神経は集中する。


 こんな夜中に、部屋の引き戸を掻いて開ける侵入者は一体………。

 まさか、泥棒!?こんな夜中に………一体何処から!?


 布団の中、一人暮らしの俺の心は何時にない緊張に見舞われた。


 どうしよう?大声を上げる?誰かに助けを求めるのなら、早い方が良いのかな?


 グルグルと脳裏には、心配事が駆け巡る。心は焦りと緊張に、半ばパニック寸前だ。


 ガラッ。小さなその音は、人が通るには余りに小さく短な物音だった。



 カサカサ。今度は、人の頭を軽く掻く仕草。柔らかくソフトなタッチでは有るが、時折尖った何かが当たってくる。


 まさか……一体何の凶器を使用しているんだ!?


 スリッ……。


 突然、額の辺りに掠めた感触は布のようなそうでないような、滑らかで柔らかな感触だった。


 スリスリスリ……。


 その後もしばらくその感触は続き、俺の意識は夢の中へは帰れなくなっていった。

 一体、この侵入者の目的はなんだ!?

 何が目的で、こんな真夜中に!?


 そんなことを考えながら、布団から出ようか、出まいかをまだ悩む。


 カサカサカサカサ………。


 侵入者は今度は、布団の縁を引っ掻きだした。


 しかし、俺はまだ寝ている時間なんだ。意地でも起きてやるものか!


 カサカサカサカサ………。


 さっきほどよりも、段々とヤツが込める力が増している。

 どうやら俺が起きないことに、イライラしだしたようだ。しかし、今は夜中。こんな夜更けに、一体何の用だと言うのか………はた迷惑なヤツだ。


 ヤツには、常識と言うものが無いのか!?



 ガブッ!!


「いてっ………!!だあぁぁ、わかったよ!起きる、起きれば良いんだろ!?」


 ついにヤツは常套手段に出た。これはヤツの最終兵器。その名も『頭をガブリン』だ!!


 カチカチ!


 起き上がり、灯された室内灯の下、侵入者のヤツと目が合う。



 ゴロゴロゴロゴロ………。


 勝ち誇ったように鳴らされる喉は、『やったね♪』とでも言っているのか………。


 現在の時刻、朝の3時。俺の出社時間、朝の7時………。


 二度寝したら寝坊する。これ確実。


「なんだよ、こんな時間に………」


 『にゃ~ん♪』



 ヤツは………キジトラのヤツは、トテトテとキッチンに向かっていった。そして、ヤツのエサ場の前に鎮座する。


 座ったまま振り返り、俺を見上げて更に一鳴き。


 『にゃ~ん♪』


 メシか………。


 そういや、昨日は残業で遅かったんだっけ?それで、ヤツはその時ガッツリ寝てた。


 メシは………………………忘れてたか。



「悪かった。今やるよ」


『にゃおん♪』


 カリカリカリカリ………。


 やっともらえた十何時間かぶりのメシに、小気味の良い咀嚼音をたてて、ヤツはメシを食べる。


 寝るには、中途半端。起きるにはまだ眠い。


 コーヒーでも入れるか。



 淹れたてのコーヒーを片手に、眠気覚ましを兼ねてベランダへ。

 メシの終わったヤツも当然とばかりについてくる。



 空を見上げればまだ星空は瞬き、淡く白い月が、西の空の遠く彼方へ去ろうとしていた。



『にゃ!』



「お前にも何かわかるのか?」






             ――完――

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珈琲は月の下で モカコ ナイト @moka777

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