珈琲は月の下で タンブラー
『よお、ディザスター。元気か』
『おはようございます、同志。
朝早くからありがとうございます』
『ここのところ、変な夢を見ると訴えている人が何人もいるのです。私自身も調査をしたのですが、原因が見つかりませんでした』
『そっちで原因が分からないんなら、どうしようもできないんじゃないか?』
『ですから、細かい調査をお願いしたいのです』
***
手前の液晶に映し出された少女は頭を下げた。
中途半端にかけた月だ。
夜空には星が適当に散らばり、星座を描いている。
その様子は夢に出てきた同じ顔をしたあいつとよく似ていた。
つまらなさそうに立方体とやりとりしていた。
SF映画でもない限り、地球では見られない光景だというのに。
タンブラーに入ってる珈琲を傾ける。
同じ顔でも俺よりアイツが持った方が格好つきそうだ。薄型のデバイスでも添えれば完璧だな。
珈琲の味を転がしながら、夢を思い出す。
本当に内容も濃かったから、映画でも見たような満足感があった。
夢の舞台は研究所みたいな施設で、ガラスケースに収まっていた立方体をディザスターと呼んでいた。無数に走っている光は血管を思わせる。
手前にある液晶は少女を映しており、立方体の持つ意思や感情を伝える装置の役割を担っているらしい。
夢の主人公は俺と同じ顔をした誰かだ。
いわゆるドッペルゲンガーという奴だろうか。
ジーンズにスニーカーというかなりラフな格好をしていた。
アイツは立方体と少女を交互に見ながら、話を進めていた。変な夢を見る人が増えているとかなんとか言っていたような気がする。
俺の見た夢もどうにかできるもんならしてほしいもんだ。
「ディザスターか……」
どんな経緯があってそのような名前がついたんだろう。立方体の受け答え自体は不自然ではなかったし、アイツのことを「同士」と呼んでいた。
つまり、同じ目的を志す仲間ということだ。
あの施設を見た限り、かなりの科学技術力を持っている。
ディザスターと呼ばれた立方体も人間とやりとりが可能な上、人々からの信頼も厚いように見えた。
国家公認の研究所といったところだろうか。
高給取りなんだろうなあ、あんな格好してても。
うらやましいもんだ。
それに比べ、俺は『魔界』とかいう異世界について研究している。人々からは本当に必要なのかと疑われ、非難の目で見られる。
誰もやらないから俺がやっているだけの話だし、あのまま放っておいてもいいことはない。
絶妙なバランス関係を保つために、俺はまだまだ必要だと言われたばかりだ。
「ままならないなあ……」
ため息混じりの呟きは月以外、聞いていなかった。
珈琲は月の下で/思いつく限り書いてみた短編集 長月瓦礫 @debrisbottle00
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