四.観察
「その後、彼は二度と現れませんでした」
細く綺麗に伸びた白い指が、クリップボードにペンを走らせる。あの紙に、今、私が話した全ての事柄が、赤裸々に綴られている。そう思うと、あの男の指で私の "中" が暴かれた感覚を思い出して、とても興奮した。
「そして、そのことで妊娠も、病気もありませんでしたが、母にはとても怒られました。長い期間、関係が続いただけ儲けなのに、しつこくしたら、評判が落ちて次の男が捕まらないでしょう、と。そのような内容でした」
しばらく書き連ねた後、ピシッと一本の線を引いて、ペンが止まった。サラサラで艶がある黒い髪を耳にかけて、同じくらい黒い、大きな潤んだ瞳がこちらを見る。
「その出来事を、千松さん自身は、どのようにお考えですか?」
凛とした声。彼女が首筋を舐められたら、どのような声で悦ぶだろうか。案外、ヤギのような、それこそ雌豚のような汚い声を上げるのだろうか。
「どのように、という具体的な答えは、なかなか出しかねますが……強いて言うなら、基盤、になり得る事だったと思っています」
「基盤、と言いますと?」
「最近の噂では、未成年のうちに性的交渉を経験しない人間は未熟なまま発達していくと聞きました。彼から男の扱いは学びましたし、母から女の体も学びましたから、その辺の大人よりも多くの経験……成熟が進んでいると捉えても間違いではないと考えます」
カウンセラーは紙と見つめあって少し考えた後、再びペンを走らせた。本当は、ただ気持ちよかったなぁ、くらいしか思っていない。適当なことを言っただけなのに、可愛い人だ。名札が目に入る。安達。下の名前は、確か、カウンセリングが始まる前に聞いた、由香、だったか。安達由香。あたし、ゆか。なんて、からかわれたこともあったんだろうか。我ながら、くだらない妄想だな。
「分かりました。とりあえず、今日のところはお時間ですので、また後日、お話を聞かせてください」
クリップボードを伏せて、安達先生は次の来院予定が書かれたメモを私に差し出した。次はどんな話をしよう。すでに待ちきれない思いで、部屋を出た。
裸腑【同性愛作品】 虎丸 旭 @Asahi_Toramaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。裸腑【同性愛作品】の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます