三.依存


しかし、心も、体も、心頭滅却すれば、というか、要は考えよう次第であった。

この二年間、地獄を天国に変えられたように。冷ややかでも、母が私を見てくれたように。母が持つ唯一の愛を、男と分け合えた時間は、私にとって久しく味わっていなかった家族団欒の時間とさえ思えたし、最近では感謝まで抱くようになっていた。


「そろそろ、飽きてきたなって」


宴もたけなわ、生ゴミのように床に散らかる二頭のペットを見下ろし、ズボンに落ちたタバコの灰を払いながら、男は言った。


「母親と娘を両方同時に、そんなのなかなかないって思ってたけど、さすがにそろそろ、飽きたわ」


半笑いの言葉は、ちょっと背中を掻いてくれ、そう言う時のような軽さだった。母は濡れた肌もそのままに床に寝そべったまま、ふうん、とだけ返事をした。

その場で、私だけが戦慄していた。

このままでは、毎晩の楽しみが無くなってしまう。私の体を這う両腕、舌、視線、寂しい穴を埋めてくれる肉の栓。そしてなによりも、彼がいてくれなければ、母が私を見てくれることも、触れてくれることも無くなってしまう。


「もう、してくれないんですか」


彼は一瞬、とても驚いた顔をして、次に、とても興奮した顔をした。


「じゃあ、もし、妊娠したり、病気になったりしても、俺のせいじゃないって言える?」


ズボンを下ろし、男が迫る。ベッドのフレームが、聴き慣れた軋みをあげた。


「それで、もしそうなっても、俺のせいじゃないから、お金も出さないし、責任も取らないし、二度と会わなくなるけど、それでもいいって約束できる?」


既に私の膝の間に体を挟み込んだ彼は、避妊具をつけていなかった。


「ちょっと!お金は出してもらわないと困るんだけど!」


母が起き上がって声を荒げたが、それよりも私の声の方が大きく響いた。

ああ、天国には先があった。テレビや本で知った通り、本当の触れ合い、何の隔てもなく一つになるって、こんなにも。


「きもち、いい」


規則的な音と、母の文句と、私の声。

何も考えられないフリをして、目を閉じた。

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