悪役令嬢に転生したはいいけれど、私は本を読んでない

梓川瑞乃

第1話

どうしたものか。


私は困り果てていた。


見渡す限り広がる、手入れされた木々たち、青々とした芝生。


私は、周りに人の気配がないことを確認し、ごろん、と大の字で寝転がった。


今日はなんて天気が良いのだろうか。青い空を見ていると、心の中に溜まっているモヤモヤが浄化されていくようだ。草の香りが心地よい。


私の悩み事とは、すなわち、婚約者のことである。


「絶対、思い人がいると思うのよね…憶測だけど」


彼の名前は、ルイス=グレーン、グレーン家の四男で、彼の家は、この国に住むものなら、一度は耳にしたことがあるほどの名家である。彼の父はグレーン公爵。つまり、彼は公爵家の人間である。


一方わたしは、ソフィー=ヘドレン。騎士と商人の間に生まれた、貴族というよりかは、限りなく平民に近い存在である。これといって、取り柄はない。


私、ヘドレンとルイス様は親同士が決定した、政略結婚することになっている。それが、決まったのは、私が六つ、ルイス様が八つの時だったらしい。


公爵家に生まれたルイス様が、わざわざ、商人の娘である私を配偶者とするメリットが見つからないのだ。


グレーン家が、商人の力を借りて、何かの事業を始めようとしているのだろうか。


その可能性は低い。私の母方の祖父は、商人の中ではトップクラスの経営の腕を持ち、着実に金銀を増やしてはいるが、その程度では、公爵家の足元にも及ばないだろう。


そうでないとすると、ルイス様を公爵家から追い出すために…?

いやいや、それは勘ぐりすぎだろう。


グレーン家の現当主、つまり、ルイス様の父の後を、四男のルイス様が継がない、もしくは、継げない事情があったとしても、わざわざ公爵家から追い出すほど、当主様は冷たいお人柄ではないと思う。


「あーー、もう、次から次へと、問題が降り注ぐなあ、もうっ」


私は、寝転んだまま、乱雑に右手で草を掴み、腹いせに任せて、空に放り投げた。


もう一つの問題。それは。



私がこの世界の人間ではないということである。

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悪役令嬢に転生したはいいけれど、私は本を読んでない 梓川瑞乃 @azu_mizu_0370

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