夏休みへのカウントダウン
1学期の期末テストは終わった。教室の中は休みを挟んで3日たった今も、そんな解放感に染められている。しょうがないとは思った。だってもう夏休みが目前だから。誰を見ても笑顔で、何処を見ても夏休みの予定を話している。そんな中で私は__。
「……先輩と遊びに行きたいなぁ」
机に倒れ伏せて恥ずかしい願いを口の端から漏らすだけ。江奈が背中を優しく撫でてくれる。
「元気出して、凪津。応援するからさ」
「ありがと、江奈」
私が椅子に座り直すと江奈は向かいの席に座った。暫くは日曜日をどう過ごしたかを話していたが、たった1日の話はすぐに尽きる。
「そういえば凪津は、今までどのくらいその先輩と遊んだことがあるの?」
「うーん、数え切れない」
「それ、もう付き合ってるで良くない?」
「……違うし」
「でも、いつも2人っきりなんでしょ」
「先輩友達居ないから」
「昨日居たじゃん」
「そうだけど……」
「そもそも、凪津は先輩のことが好きだよね」
「そうだけど、そうじゃないっていうか」
「どっち」
「う~~……好き、かも」
「ハッキリしないなぁ」
「江奈はいつもハッキリしてて良いよね」
「そういう性格だもん。それより、夏休みまで残り少ないけど、先輩の彼女の枠が埋まるまでの時間も残り少ないかもよ」
「うん。一昨日、あの後さ……良い雰囲気になってたから。でもさ、学年が違うし。ただの知り合いだし。先輩がどう思ってるか分かんないし」
「そっか……えい」
「江奈?」
頬を両手で挟まれた。挟むその手は温かくて、じんわりと心に沁み込んでくる。
「振られたら、一緒にケーキを食べに行こう。たくさんね。だから、勇気を出して」
「江奈……ありがとう。江奈が振られたらその時も食べに行こうね」
「ふ、振られたりしないからっ」
学年が一緒じゃない。好きになった特別な理由もない。けど私には記憶がある。小学校の、中学校の、高校の記憶がある。ただ一緒に遊んだだけの、何でもない記憶。でも、大事な……ずっと大事にしていきたい、これからも欲しいと思った記憶だから――――!
いつもと同じように朝に送ったメール。先輩なら今回も見てくれるだろう。
目の前を歩く人 笹霧 @gentiana
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