完結編(閲覧注意)

※残酷な描写あり、グロテスクあり


ごきげんよう、イリヤ・シュナイザーです。【クロノス山の戦い】が終わり、大勝利を修めた大都督率いる帝国軍は、国民から熱狂的な声援を受け、栄光ある凱旋を果たしたのである。その知らせを別荘で知ることになりました


【イリヤ・シュナイザー】

「これで当分はグリミナス王国も大人しくするでしょうね。」


【ユリナ・イスファルト】

「えぇ、クロノス山にてグリミナス王国軍は壊滅し、ミカロスは敵前逃亡、まさに勝利の女神が我が国に微笑んでくれたのでしょう!」


【イリヤ・シュナイザー】

「端から見れば、グリミナス王国軍の自業自得に見えるけどね。」


【ユリナ・イスファルト】

「おっしゃる通りです。けど、ミカロスが討ち取れなかったのが残念です。」


【イリヤ・シュナイザー】

「もはや国には帰れないでしょうね。味方を見捨てて敵前逃亡するのは最低な行為よ。ましてや国のトップに立つ御方なら尚更ね。」


それから数週間後、グリミナス王国は降伏を通達した。自国の国王が味方を見捨て、敵前逃亡したことを知り、もはや抵抗は無意味と悟ったのだろう。父は再び大都督に命じ、軍を率いてグリミナス王国へ向かって進軍した。その道中、元グリミナス王国の国民たちが貢ぎ物を捧げると共に御禁制(ごきんせい)を要求した。大都督は国民たちの要求を受け入れた


【大都督】

「よいか、降伏した者に乱暴狼藉を働く兵士たちは死罪にせよ!それとは別に食料を提供せよ!」


大都督の発した禁制を兵士たちは忠実に守り、また食料を分けたことで元グリミナス王国の国民たちはシュナイザー帝国に心服し、道案内をする者が現れた。そしてようやくグリミナス王宮が見えてきた


【大都督】

「あれがグリミナス王宮か。」


大都督率いるシュナイザー帝国軍は進軍し、城下町へ入った。町は既に人がいなくなっており、ゴーストタウンのような様相だった


【大都督】

「まるでゴーストタウンだな。よほど【クロノス山の戦い】の負け戦が影響したのだろうな。」


そう、【クロノス山の戦い】はグリミナス王国の城下にも嫌でも伝えられ、一目散に逃亡を開始した国民たち、止めるはずの兵士たちも国民とともに逃亡し、貴族たちも我先に領地へ帰還したのである。グリミナス王国が降伏したのも、もはや戦える状態ではないことの表れとなったのである。そして軍はグリミナス王宮に到着した。グリミナス王宮から宰相が出てきた


【元グリミナス王国の宰相】

「元グリミナス王国の宰相にございます。」


【大都督】

「シュナイザー帝国の大都督である。」


【元グリミナス王国の宰相】

「此度は降伏を受け入れていただき、誠にありがとうございます。」


【大都督】

「いいえ、降伏を申し出ていただき、感謝いたす。これで我が国の面目が立つ。」


【元グリミナス王国の宰相】

「畏れながら、ウルスラ様は御無事でしょうか?」


【大都督】

「心配御座らん。ウルスラ御一行は丁重にお迎えいたしておる。」


【元グリミナス王国の宰相】

「それを聞いて安堵いたしました。」


【大都督】

「1つ尋ねるがミカロス殿はこの国にはおられぬのか?」


【元グリミナス王国の宰相】

「はい、残念ながらこの国へは帰ってきておりません。我々はあの御方の好き勝手なお振る舞いに散々、苦しめられました。国民はあの御方を憎みつつ、慕うものは誰1人おりません。」


【大都督】

「国王であったウルスラ殿を追い出し、我が国に侵略し、そして味方を見捨てて敵前逃亡したミカロスはまさに不倶戴天の仇、必ず見つけ出してくれるわ。」


【元グリミナス王国の宰相】

「はい、我等も全力を上げて、見つけ出す所存にございます!」


【大都督】

「神妙なお心掛けであるな。それともう1つ・・・・ラメセス殿下はいずこに?」


【元グリミナス王国の宰相】

「ただいま、地下牢に幽閉しております。」


【大都督】

「そうか、ならば会っておくか、では案内しろ。」


【元グリミナス王国の宰相】

「はっ!」


宰相の案内で大都督は地下牢へ入ったとたん、鼻につくほどの強烈な悪臭がきた


【シュナイザー帝国兵士】

「うう!」


【大都督】

「うう、何だ、この臭いは!」


【元グリミナス王国の宰相】

「私が先に参ります!ここでお待ちを。」


宰相は急ぎ、地下牢に入った。大都督たちは悪臭に耐え切れず、外で待っていると・・・・


【元グリミナス王国の宰相】

「ふあああ!」


宰相の驚く声に大都督たちが駆け付けた。地下牢に入った大都督たちは腰を抜かしている宰相を見つけ、近づくと・・・・


【大都督】

「こ、これは。」


大都督たちが目にしたのは、グリミナス王国、元王太子であるラメセスの死体だった。既に腐敗しており、折しも季節は夏、死体にはたくさんの蛆(うじ)が湧いていた。その姿を見た兵士たちは我慢できず外に出て、嘔吐した


【大都督】

「誰も気付かなかったのか!」


【元グリミナス王国の宰相】

「地下牢の事は牢番に任せておりましたが、その牢番はどこかへ逃亡いたしました!」


【大都督】

「何と哀れな姿に成り果てたのか。」


かつてはグリミナス王国の王太子として生まれ、次期国王と約束されながら、一時の過ちによって国が滅亡し、最後は誰にも看取られずに孤独死をしたのである。後にミカロスの妻と子供たちは捕らえられ、見せしめのためにギロチンの刑に処されたのである


【ミカロスの妻】

「旦那様、お怨み申し上げますぞ。」


【ミカロスの子供たち】

「父上!助けて!」


ミカロスの妻は夫を怨み、子供たちは父に助けを求めたが刑に処されたのである。グリミナス王国最後の国王であるミカロスは未だに逃亡、ミカロスの妻と子供は死刑、そして元王太子であるラメセスの死亡が、シュナイザー帝国にも伝えられた。そう、イリヤの下にも届いたのである


【イリヤ・シュナイザー】

「そう、ラメセス殿は誰にも知られずに死んだのね。」


【ユリナ・イスファルト】

「イリヤ様。」


【イリヤ・シュナイザー】

「かつては国同士の政略結婚で結ばれ、ラメセス殿との間には愛はなかったけど、今にして思えば、哀れだわ。」


【ユリナ・イスファルト】

「イリヤ様、これも御役目にございます。」


【イリヤ・シュナイザー】

「分かってるわ、分かってはいるけど、私も一人の人間、一度は恋というものを知りたかったわ。」


【ユリナ・イスファルト】

「イリヤ様。」


【イリヤ・シュナイザー】

「貴方はどうなの?一時は恋仲だったのでしょう?」


【ユリナ・イスファルト】

「私ですか?むろん、あの御方を心から愛したことは一度もございません。」


【イリヤ・シュナイザー】

「そう。それよりも許せないのはミカロスよ、国が滅び、妻子を処刑されたのにも関わらず逃亡を続けるなんて!」


【ユリナ・イスファルト】

「今、探索を続けております。しばしお待ちを。」


一方、息子であるラメセスの死は元国王であるウルスラの下にも届いた


【ウルスラ・グリミナス】

「あの大馬鹿者が・・・・」


【マリア・グリミナス】

「ううう。」


【カイル・グリミナス】

「兄上。」


ウルスラたちをラメセスの死を悲しんでいた。かつては国を危機に陥れた元凶として憎んでいたが、グリミナス王国が降伏した今、あるのは親子の情だけとなった


【ウルスラ・グリミナス】

「あの時、この手で殺しておけばよかった。」


ウルスラは後悔していた。ラメセスを自らの手で死なせておけば、地下牢で孤独死をすることはなかっただろう。一寸の親心がラメセスを殺すことを躊躇い、生かし続けたのである。その後、グリミナス王国は解体され、領地を分配され、最大の功労者である大都督は称号は上級伯爵のままだが、領地を加増され、皇帝の姪を大都督の息子の妻にする等の褒美を与えられた。その作業も終わったころ、ウルスラは皇帝からのお召しを受けた


【ウルスラ・グリミナス】

「お召しにより参りました。」


【イザリナ・シュナイザー】

「うむ、そなたを呼んだのは他でもない。そなたに侯爵の称号を授け、領地を与える。」


シュナイザー帝国の家臣の称号である侯爵とは日本でいう江戸時代の外様大名クラスの立場である

例として公爵は親藩大名クラス、伯爵には二種類あり上級伯爵は譜代大名クラス、下級伯爵は旗本クラスに分類され、子爵は御家人クラス、男爵は地方豪族クラスである

侯爵は領地は広く階級は高いものの、政治(国政)への関与が全く認められないのである。ウルスラはこの時、皇帝の意図に気付いた。もはやグリミナス家はシュナイザー帝国で外様の家臣として生きていかなければいけないのだと・・・・


【ウルスラ・グリミナス】

「ありがたき、幸せ!」


ウルスラはすぐさま、受け入れた。かつては対等な関係だったが、今では主君と家臣の関係になったのだ。ウルスラは甘んじて、己の運命を受け入れたのである


【イザリナ・シュナイザー】

「ではウルスラ侯爵よ、早速、任地へ赴け!」


【ウルスラ・グリミナス】

「畏まりました!」


ウルスラが退出した後・・・・


【ジョエル・シュナイザー】

「父上、宜しいのですか?」


【イザリナ・シュナイザー】

「あやつは弟と息子とは違って己の分はわきまえておる、それに牙の折れた獣は恐ろしくも何ともないわ。」


命を受けたウルスラはすぐさま家族を連れて、任地に赴く途中、ある場所へ立ち寄った


【ウルスラ・グリミナス】

「お久しぶりでございます。イリヤ様。」


【イリヤ・シュナイザー】

「御無沙汰しております、ウルスラ侯爵。」


そう、かつて息子の元婚約者であったイリヤの下を訪れていたのである


【マリア・グリミナス】

「此度は謝罪が遅れてしまい、誠に申し訳ありません。」


かつての王妃が国を追われ、今は侯爵の妻として自分に跪く姿にいささか心が痛んだ


【イリヤ・シュナイザー】

「もはや、過ぎたことです。どうか頭をお上げください。」


【ウルスラ・グリミナス】

「恐れ入ります。」


【イリヤ・シュナイザー】

「お久しぶりですね、カイル殿。」


【カイル・グリミナス】

「はい、お久しぶりでございます。」


【イリヤ・シュナイザー】

「そなたとはこのような形で再会したくはありませんでした。」


【カイル・グリミナス】

「全ては我等の不徳の致すところにございます。」


【イリヤ・シュナイザー】

「そう。ならいいのだけど。」


【ウルスラ・グリミナス】

「それではイリヤ様、我等はこれから任地に赴きます。」


【イリヤ・シュナイザー】

「そう、気を付けて。」


【ウルスラ・グリミナス】

「ありがとうございます。」


ウルスラたちは一礼した後、馬車に乗り、任地へ向かった


【イリヤ・シュナイザー】

「出てきていいわよ。」


【ユリナ・イスファルト】

「はっ。」


【イリヤ・シュナイザー】

「自分の息子の浮気相手である貴方がここにいると知ったら、どうなるでしょうね。」


【ユリナ・イスファルト】

「もはや二度と会うことはないでしょう。」


【イリヤ・シュナイザー】

「それもそうね。」


イリヤとユリナはウルスラの馬車を遠くから見送った。その後、ウルスラの乗る馬車に任地を赴く途中・・・・ヒヒーン!


【ウルスラ・グリミナス】

「何事だ!」


【御者】

「前方に怪しき者が!」


ウルスラは馬車戸を開けて、覗くと、継ぎ接ぎだらけのボロボロの服を身にまとい、薄汚れた浮浪者が立ち止まっていた


【???】

「おお、お懐かしや。」


【ウルスラ・グリミナス】

「お前は・・・・」


ウルスラはその浮浪者に身に覚えがあった


【ウルスラ・グリミナス】

「ミカロス。」


【ミカロス・グリミナス】

「おお、親愛なる兄上!ミカロスにございます。」


何と、浮浪者の正体はウルスラの弟でグリミナス王国最後の国王であったミカロスだった。薄汚れているが、忘れもしないその姿に・・・・


【ウルスラ・グリミナス】

「何しに現れた?」


【ミカロス・グリミナス】

「兄上が侯爵として任地に赴くと聞いて、ここで待っておりました!」


【ウルスラ・グリミナス】

「そうか。」


【ミカロス・グリミナス】

「兄上、我等、兄弟力を合わせて、グリミナス家を再興させましょう!そして共にシュナイザー帝国へ復讐を果たしましょうぞ!」


【ウルスラ・グリミナス】

「ミカロス。」


【ミカロス・グリミナス】

「はい!」


ウルスラは馬車から降りて、ミカロスに近づいた


【ウルスラ・グリミナス】

「私もお前に会えて嬉しいよ。」


【ミカロス・グリミナス】

「兄上!」


二人は接近し、ミカロスが兄を抱擁しようとした瞬間・・・・ブスッ


【ミカロス・グリミナス】

「あ、兄上。」


【ウルスラ・グリミナス】

「お前のせいで、ここまで落ちてしまったわ!」


ウルスラは仕込みナイフを出し、ミカロスの腹に深く差したのである。それだけではなく、ナイフには猛毒を塗ってあるのである。腹からはおびただしいほどの血があふれていた


【ウルスラ・グリミナス】

「お前のせいで、私は国を追われた!帝国に亡命をした!帝国の臣下に成り下がった!私の受けた屈辱をここで晴らす!」


【ミカロス・グリミナス】

「お、おのれ。」


ミカロスは激痛と猛毒に苦しみつつ、その場で倒れ、死亡した


【ウルスラ・グリミナス】

「おい、こやつの首を陛下に届けよ。」


【家臣】

「はっ!承知いたしました。」


ミカロスの首は皇帝の下へ送られた。その首は城下に晒され、人々から石を投げつけられ、サッカーボール代わりに蹴られ続けた。グリミナス王国最後の国王であるミカロスが死んで、この戦争はようやく終結したのであった。国を追われたウルスラ・グリミナスはシュナイザー帝国で侯爵家として家を再興することができ、シュナイザー帝国の家臣として家名を存続できたのである。その後、イリヤ・シュナイザーは、イリヤを懸想(けそう)をする公爵の子息に嫁ぎ、後に3男3女を儲け、幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし!



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同盟国同士の婚約破棄 マキシム @maxim2020

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