後編(閲覧注意)

※残酷な描写あり、グロテスクあり


ごきげんよう、イリヤ・シュナイザーです。突然ですが何とグリミナス王国の元国王のウルスラ・グリミナス、元王妃のマリア・グリミナス、元第二王子のカイル・グリミナス、その後諸々が我が国に亡命をしたと知らせが入りました。亡命者の中にはラメセス・グリミナスの名はなかった


【イリヤ・シュナイザー】

「それにしても驚いたわ。まさかうちに亡命するなんて。」


【ユリナ・イスファルト】

「はっ、知らせによりますれば、ウルスラ殿の実弟であるミカロス・グリミナスがクーデターを起こし、自らが国王の座に就任したそうです。ウルスラ殿もやむを得ず、我が国に亡命したのでございましょう。」


【イリヤ・シュナイザー】

「ミカロスがクーデターを起こしたということは戦争は起こるわね。」


【ユリナ・イスファルト】

「えぇ、間違いなく。」


私たちは別荘で戦争が起こるのを確信していた。そのころ皇宮ではシュナイザー帝国の皇帝とグリミナス王国の元国王の対面が行われていた


【イザリナ・シュナイザー】

「これはこれは、お久しぶりですな、ウルスラ殿。」


【ウルスラ・グリミナス】

「はい、お久しぶりでございます。」


【イザリナ・シュナイザー】

「ウルスラ殿、なぜ我が国に亡命した?」


【ウルスラ・グリミナス】

「もはや国を追われた我等には帰る場所がございません。頼れるのは貴国しかないと思い、亡命をいたしました。」


【ジョエル・シュナイザー】

「よくも、そのような事がヌケヌケと申せたな!元を正せば貴様の愚息と愚弟のせいではないか!」


【イザリナ・シュナイザー】

「落ち着け、ジョエル。ウルスラ殿、国を追われた原因を作った我等を恨まぬのか?」


【ウルスラ・グリミナス】

「いいえ、元を正せば我等の不徳の致すところにございます。貴国に恨みはございません。」


【イザリナ・シュナイザー】

「それでどうしたい?国を取り戻したいか?」


【ウルスラ・グリミナス】

「いいえ、国を追われた時点で、私は国王失格にございます。我等の処遇は皇帝陛下にお任せいたします。」


【イザリナ・シュナイザー】

「神妙な心掛けだ。」


【ウルスラ・グリミナス】

「恐れ入ります。」


【イザリナ・シュナイザー】

「それで、そなたの実弟のミカロスは我が国に攻めてくるのか?」


【ウルスラ・グリミナス】

「はい、恐らくは。」


【ジョエル・シュナイザー】

「バカ息子の次は愚弟か。」


【イザリナ・シュナイザー】

「ジョエル、控えておれ。宰相。」


【シュナイザー帝国の宰相】

「はっ!」


【イザリナ・シュナイザー】

「直ちに軍備を整えよ。戦の支度だ!」


【シュナイザー帝国の宰相】

「承知いたしました!」


【イザリナ・シュナイザー】

「大都督!」


【大都督】

「ここに!」


【イザリナ・シュナイザー】

「そなたは軍を率い、侵略軍を壊滅すべし!1人も残さず皆殺しにせよ!」


【大都督】

「承知いたしました!」


それと同時期にミカロス・グリミナス新国王は全軍に檄を飛ばしていた


【ミカロス・グリミナス】

「諸君、これより我等はシュナイザー帝国に宣戦布告をする!我等が生き残るには戦争しかないのだと!」


全軍は静かにミカロスの演説を聞きつつ、内には激しいほどの闘争心が今にも溢れようとしていた


【ミカロス・グリミナス】

「シュナイザー帝国は敵である!彼の国(かのくに)に情けは無用!略奪、放火、陵辱、思う存分行え!我等の力を奴等に思い知らせるのだ!」


【全軍】

「オオオオオオオオ!」


【ミカロス・グリミナス】

「いざ出陣!」


ミカロス自らが率いる親征軍は直ちにシュナイザー帝国の国境を突破し、破竹の勢いで数々の砦を破り、兵士たちが近隣の村々を襲い、略奪、放火、陵辱を行った


【ミカロス・グリミナス】

「ハハハハハハハ!そうだ、もっとやれ!我等の強さと恐ろしさを奴等に教えてやれ!」


ミカロスは連戦連勝を重ねて、次第に天狗になっていくのである。王国軍の連戦連勝の快進撃の後にある1つの問題に直面した


【兵糧官】

「申し上げます!兵糧が少なくなってまいりました。」


【ミカロス・グリミナス】

「兵糧が・・・・」


破竹の勢いで進軍したと同時に兵站線(へいたんせん)が伸びきってしまい、補給路の問題に直面したのである


【ミカロス・グリミナス】

「一旦、進軍を止め、この地に駐屯する。」


【大将軍】

「それで、どこへ布陣をいたしますか?」


【ミカロス・グリミナス】

「あの山に布陣をいたす!」


ミカロスが指差した方向に一際大きな山があった


【大将軍】

「あの山にございますか?」


【ミカロス・グリミナス】

「あの山なら軍も駐屯ができ、敵の動きが一望できる!」


【大将軍】

「畏れながら、山に布陣するよりも水源の確保のために河川のある地で布陣した方がよいと思いますが?」


【ミカロス・グリミナス】

「兵法には山は水源の宝庫であると書かれている。水源の心配はない!」


【大将軍】

「ですが・・・・」


【ミカロス・グリミナス】

「くどい!これは王命であるぞ!」


【大将軍】

「・・・・承知いたしました。ですが我等は河川近くに布陣します。」


【ミカロス・グリミナス】

「勝手にせよ!」


ミカロス率いる親征軍は大将軍率いる軍だけを残し、山へ布陣した。残った大将軍は僅かばかりの兵を河川近くに布陣した。一方、シュナイザー帝国では大都督率いるシュナイザー帝国軍が進軍していた


【シュナイザー帝国兵士】

「申し上げます!敵はクロノス山とクロノス川近くに布陣いたしました!」


【大都督】

「クロノス山に布陣している軍はいずれの者か?」


【シュナイザー帝国兵士】

「畏れながら、クロノス山に布陣しているのはグリミナス王国国王率いる親征軍でございます!」


【大都督】

「ふっ、グリミナスの国王は自ら死地にはまったようだ。クロノス山には水は僅かしかないのに。」


大都督はクロノス山には水源は僅かしかないことを知っており、勝利を確信した


【大都督】

「それでクロノス川近くに布陣している軍はいずれか?」


【シュナイザー帝国兵士】

「畏れながら、大将軍率いる僅かな軍が駐屯しております!」


【大都督】

「だったら、抑えの軍だけを残せばよい。全軍に告げよ!我等はクロノス川近くに布陣する!」


大都督は水源確保のために軍を駐屯させ、軍はクロノス山を囲んだ


【ミカロス・グリミナス】

「何!水は僅かしかないだと!ちゃんと確かめたのか!」


【グリミナス王国兵士】

「はっ!僅かな溜め池のみにて湧き水等の水源がございません!」


ミカロスに一瞬の焦りが生まれた


【ミカロス・グリミナス】

「下山じゃ!すぐに下山せよ!」


【グリミナス王国兵士】

「畏れながらそれは無理でございます!敵は既にこの山を囲んでおりまする!」


【ミカロス・グリミナス】

「何だと!」


ミカロスは山頂から見渡したら、シュナイザー帝国軍が囲んでおり、蟻の這い出る隙間もなかった


【ミカロス・グリミナス】

「あぁ、我が天運尽きたり。」


ミカロスは策に溺れ、自ら死地に迷い混んだことに気付いたのである。あの時、大将軍の忠告を聞いていれば良かったと。一方、クロノス川近くに布陣していた大将軍は救援に向かったが、抑えの軍がガッチリと固め、破ることができなかった


【大将軍】

「くそ!」


大将軍は後悔していた。あの時、強く諫めていればこんなことにならなかったことを・・・・ヒューン


【大将軍】

「ぐっ!」


大将軍の額に魔力矢が刺さり、戦死した。一方、クロノス山に布陣しているグリミナス王国軍に大都督が勧告をしてきた


【大都督】

「聞け!グリミナス王国軍の諸君、大将軍は戦死した。もはやお前たちを助ける者はおらぬぞ!」


シュナイザー帝国軍兵士の持っている長槍に突き刺さっていたのは大将軍の生首だった


【グリミナス王国兵士】

「あぁ、大将軍様だ!」


【将軍A&B&C】

「大将軍!」


変わり果てた姿を見た将軍の兵士たちはショックを隠せなかった。これでは不味いと思ったミカロスは・・・・


【ミカロス・グリミナス】

「全軍、大将軍の死を無駄にするな!援軍は必ず来る!それまでの辛抱だ!」


ミカロスが叱咤激励したが、全軍の心中は不安でいっぱいだった。水源がわずかしかない山、少ない兵糧、そして大将軍の死、もはや勝ち目がないことを薄々、感じていたのである。シュナイザー帝国軍は持久戦の構えを取り、グリミナス王国軍の補給路を断った。ミカロスの命で下山を試みた兵士たちはシュナイザー帝国軍の持つ最新鋭の魔力砲と魔力投石と魔力矢の嵐に手も足も出ず、失敗を繰り返した。そして恐れていたことが起こった。溜め池の水が尽き、兵糧もなくなったのである


【ミカロス・グリミナス】

「皆の者、もう少しの辛抱だ!何とか持ちこたえよ!」


ミカロスは再び叱咤激励したが、兵士たちの士気は低かった。もはや軍が全滅するのは時間の問題だった


【空腹の兵士A】

「腹減った。」


【空腹の兵士B】

「飯、飯・・・・」


【水を欲しがる兵士A】

「み、水をくれ。」


【水を欲しがる兵士B】

「誰か、水をくれ。」


兵士たちは兵糧と溜め池の水が無くなった後、ひたすら食料と水を求めていた。空腹や喉の渇きを紛らわすために馬や雑草やカエルや虫や尿、やがては死んだ味方の兵士や生きている味方の兵士を殺して肉や血液を飲食する始末である。人間は食料がなくても、水と睡眠があれば、2~3週間は生きられるが、水分を取らないと4~5日程度で死んでしまうのだ


【将軍A】

「陛下、兵糧と溜め池の水が底をついてから数日が経ちました。兵士たちは衰弱しきっております!」


【ミカロス・グリミナス】

「分かってる。」


【将軍B】

「陛下、援軍が来ない以上、いたずらに時を費やすだけにございます!」


【ミカロス・グリミナス】

「分かってる!」


【将軍C】

「陛下、いっそのこと降伏を・・・・」


【ミカロス・グリミナス】

「降伏だと!奴らが我らを許すと思うか!降伏等、もってのほかだ!」


ミカロスの発言に将軍たちは黙ってしまった


【ミカロス・グリミナス】

「お前たち、下がっておれ、一人で考えたい。」


【将軍A&B&C】

「はは。」


将軍たちを下がらせた後、ミカロスは・・・・


【ミカロス・グリミナス】

「もはや全滅は時間の問題、グリミナス家の血筋を残すためにも、私は生き延びなければならぬ。」


ミカロスの心に邪な思いが住み着いた


【ミカロス・グリミナス】

「もはや国には帰れぬ、帰れば間違いなく殺される、だったら身を隠して生きるしかない。」


ミカロスはそういうと立ち上がり・・・・


【ミカロス・グリミナス】

「転移魔法。」


ミカロスは転移魔法を唱え、そのまま姿を消した。ミカロスがいなくなった事を知ったのは、そう遅くはなかった


【将軍A】

「陛下はどこにいるのだ!」


【将軍B】

「まさか、逃げたのか!」


【将軍C】

「あの詐欺師が!」


将軍たちが信奉していたミカロスの正体を知り、絶望に陥り、裏切り者として恨みと憎しみを抱いた


【将軍A】

「もはや、やむをえん、降伏するしかない!」


そして将軍Aは白旗を掲げ、シュナイザー帝国陣地へと向かい、大都督と面会した


【大都督】

「これはこれは、何用でしょうか?」


【将軍A】

「我らは降伏いたします。」


【大都督】

「ほう、降伏を。」


【将軍A】

「何卒、我等の命を持って将兵の命をお助けいただきたい!」


【大都督】

「そうですか、まあ降伏していただけるのであれば、我らとて問題ありませんが、陛下の許可なしにやるわけにはいきません。どうか、それまで待っていただけますかな。」


【将軍A】

「兵たちは衰弱しきっているのです!どうかお願いします。」


そういうと将軍Aは平身低頭で懇願をした


【大都督】

「困りましたな。では1日待っていただきたい。すぐに早馬にてお知らせいたすので・・・・」


【将軍A】

「分かりました。」


そういうと将軍Aは元の陣地へと向かった


【大都督】

「降伏だと?誰が許すか、そんなもの。帝国の領地で好き勝手した落とし前はつけねばな。」


大都督は号令をかけ、総攻撃の準備をした。一方、そのころ将軍Aは将軍B&Cを呼び、交渉の報告をした


【将軍A】

「以下の通りだ。」


【将軍B】

「奴等は我等が飢え死にするのを待っているんだ!」


【将軍C】

「やはり許していなかったな。」


【将軍A】

「もはや降伏できない以上、我等に残されているのは玉砕のみ!」


【将軍B】

「こうなれば潔く散ろうぞ!」


【将軍C】

「こうなれば直ちに下山するぞ!」


将軍たちは兵士たちを集めた


【将軍A】

「諸君、敵は我々の降伏を認めないそうだ。」


【将軍B】

「もはや一か八か下山し、逃げ延びるしかない!」


【将軍C】

「皆の者、ここで飢え死にするか、玉砕覚悟で逃亡するか、ここで決めよ!」


すると兵士たちは覚悟を決め・・・・


【兵士たち】

「下山します!」


もはや助かる見込みがない以上、潔く散ることにしたのである


【将軍A】

「よし、夜陰に紛れ、山を降りるぞ!」


【兵士たち】

「おおおおおおお。」


もはや兵士たちの掛け声も僅かしかいない。一か八かの大勝負が始まる。そして真夜中・・・・


【将軍A】

「よし降りるぞ。静かに進め。」


将軍Aの指示のもと、静かに下山し始めた。中腹辺りに差し掛かると・・・・ヒューン、ドカーン!


【将軍A】

「敵の攻撃だ!突撃せよ!」


将軍Aの号令のもと、敵陣地へ突撃をかけた。夜襲を警戒していたシュナイザー帝国軍は山に向けて、魔力砲、魔力投石、魔力矢の雨を降らせ、グリミナス王国の兵士たちにぶつけた。グリミナス王国の兵士たちは1人また1人と数を減らしていき、やがて将軍たちにも被害が及び、将軍たちは戦死した。兵士たちは何とか、敵陣地から逃げ延びたが、衰弱しきった体が言うことを聞かず、すぐに追っ手に捕まり、殺されるのである。夜明けになった頃にはグリミナス王国の兵士たちの原型を留めていない死体が溢れ出ていた。中には手足が吹き飛んだ者や、上半身や下半身がない者や、腸(はらわた)が飛び出たり、脳味噌が丸出しの死体もあった。クロノス川はグリミナス王国の兵士たちの血で真っ赤に染まっていた。将軍含めグリミナス王国軍は壊滅したのであった


【大都督】

「敵の総大将がいないところを見ると、部下を置いて逃亡したか。」


ミカロスは転移魔法を使用した後、国には帰らず姿を眩ましたのである。この戦いを【クロノス山の戦い】と呼び、グリミナス王国滅亡のきっかけになったのである



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