第五十三時限目
「桂太っ…」
菜緒が目に涙を溜めながら桂太君の頭を撫でる。
(あたしのせいで、皆がこんなにも苦しんでるなんて…)
あたしがした恋は間違いだった
あたしがした恋は
台風の様に周りを巻き込んで
そして、悲しみだけを残す…
(拓…拓はきっとあたしを突き離す為にわざとあんな言い方したんだよね…?)
校舎へと繋がるドアを開ける時、あたしは後ろを振り返った。
あたしの目が勝手に追ったもの…
それは、もう一つの校舎へ繋がる入り口へと歩き出した拓の後ろ姿。
(拓…)
「結芽…?」
菜緒に呼ばれ、あたしは無意識に足を止めていた事に気付く。
「あ…ごめん」
「あのさ結芽…」
「急ごっ、授業始まっちゃうよね」
何かを言い掛けた菜緒の言葉を遮り、顔を正面に戻そうとした時…
拓が歩くの辞め、その場に踞った。
(あ…)
「た…」
体が勝手に中庭へと進もうとする。
「結芽っ」
「あのっ…拓が…」
「結芽ちゃん…」
菜緒があたしの腕を掴み、その後ろで桂太君が顔を横に振った。
「今結芽が行っても結芽が泣くだけだよ?」
「でもっ…」
「結芽ちゃん…あいつにも、少し考える時間与えてあげよ?」
走ればすぐ抱き締めに行ける距離
でも
それが出来ない事が『恋人』じゃ無くなった証…
(拓…ごめんね…)
蒸し暑さを肌で感じる今日
あたしと拓は別れた。
ほんの一時だけの甘い恋…
それはこんな結末の為に用意されたものだったのだろうか?
そしてもうすぐ夏休み。
『いつか時間がそれを色褪せてくれる…』
そんな願いを胸に秘め、 あたしの毎日は何の形も表す事無く過ぎて行った。
後編へと続きます。
書籍化作品。虹色の約束。中編 結芽 @niziiro-yume
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