第2話 人間の本質として自分が一番可愛いは変わらない。

 「あ゛?」

 男達の一人、つんつん頭(トサカとも言う)の男が声のした朱里の方へ首だけを向ける。

 「何邪魔してくれてんの?今水ぶっかけてお掃除中なんだけど。」

 別のところから声が聞こえる、主として責めていた女とは別のくるくるパーマ(頭がくるくるパーかもしれない)の女が答えた。


 「お前達の言う掃除とは、何も言い返せない女一人に寄って集って言葉と物理の暴力に身を任せ、バケツの水をぶっかける事を指すのか?」

 事実をありのまま口にするのは、きっとこの集団はオツムが弱いという揶揄を込めての意趣返し、挑発でもあった。


 「は?暴力で停学明けのお前が何いってくれちゃってんの?」


 「それとこれは別だろう。お前達がやってるのは第三者から見てもイジメだ。見ていて何もしないクラスメイトもどうかしているし、ここまで来て漸く重い腰を上げた俺も然程変わらないのかもしれない。」

 だけどな、と続ける。


 「直接危害を加えるお前達が正しい道理はない、どうせ言っても謝らないのだろうからこれ以上は止めておけ。」


 苛めなんてのは他者が強制的に反省を促しても真の意味で謝罪などしない。

 表面上でも謝るのはマシな方である。

 クラスの誰もが止めないのは、この数名の生徒がクラスの自称上位者であることと、苛めの矛先が自らに矛先が変わらないための逃げであった。

 誰だって自分が一番可愛い、それは朱里だって否定は出来ない。


 別に親が権力者でもない、有名企業等の役員というわけでもない、本人の成績が特段良いわけでも、運動が特段優れているわけでもない。

 いつのまにか出来上がっているクラスのランク付け。

 一体いつの時代から出来たのだろうか。


 実にくだらないこの暗黙の制度は、ある意味では社会の縮図でもある。

 学校の中でそれらを体験する事で、社会に出てからの理不尽な上下関係に対応……


 そんなわけあるかと思っているのが水凪朱里である。

 だからこそ、誰もがいじめを見て見ぬするクラスメイトにも腹が立ったし、イジメている本人達にも苛立ちを覚えている。

 当然自分自身にも。


 真っ直ぐな性格が必ずしも得をするわけではないが、損をする世の中であってはいけない。

 人が決めた事とはいえ、法だとか倫理だとか、社訓だとか校則だとかは、人間が人間のために決めた事だ。

 犬や猫に守らせるために作られたものではない。


 それを理解するのに高校生は子供だから理解出来ない?

 そんなはずはない、幼稚園児じゃあるまいし、一から十まで指示しなければ何も出来ない・考えられないでは、ほんのすぐそこである18歳も19歳も20歳も何も変わらないという事になる。

 その理屈で言えば0歳も40歳もほとんど変わらないという事になってしまうのだが。


 きっとこの数名の生徒達は理解しない、しようとも思わない。

 実際のところはともかく、これまでの対応を鑑みれば朱里にそう思われていても仕方ないだろう。


 「さっきから何を言ってんだ?お前が口を出す筋合いはねぇ。それとも何か?お得意の暴力で止めてみるか?」

 そう言った男は自らの頬を差し出し、殴ってみろよと言わんばかりにパンパンと掌で叩いた。


 「挑発か。そうやって揚げ足を取るのは構わないが、止めるのか止めないのかどっちだ?」


 沸点が低いのは彼らの方だった。。

 朱里の言葉に思わず拳が出ていた。


 しかし朱里はあっさりとそれらを躱す。


 「なに、ダッサ。避けられてやんの。」

 くすくすと笑いながら女の一人が揶揄った。


 「どっちが暴力的なんだか。」


 何度殴りかかっても避けられるため、一人が矛先を変える。


 朱里ではなく床に座り込んだ水浸しの少女、白銀真希の顔に向かって拳を……

 

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ぎんいろ(仮) 琉水 魅希 @mikirun14

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