朱里と真希の出会い。
第1話 停学明け
1学期もあと少しで終わる7月半ば。
既に衣替えも終わり夏服でも暑いと感じる毎日。
雨が降ると思えばそれは梅雨の残りなのか、それとも台風か。
あと少しすれば蝉達の|鳴き始める≪ハーモニー≫で騒がしくなる、そんな7月中旬。
夏休みまで日が近いからか、それとも期末試験が終わったからだろうか。
各生徒達は気が緩み始めていた。
じりじりと照らす太陽光が、紫外線が肌を照らし焼き始める。
久しぶりに登校してきた男子生徒、
彼がそう感じるのには複数の意味があった。
この7月の太陽による攻撃と、2週間の停学明け。
しんどい理由はそんなところだ。
元々クラスに馴染めているとは言い難いが、停学の理由は暴力によるもの。
ただし、いきなり殴ったわけではない。
彼は自分の名前を馬鹿にされたために手をだした。
親から貰った名前に誇りを抱いている。
彼はその
女みたいな名前とか、可愛い名前と他意を以って接する事を許せない。
女性みたいな名前ですね、と自己紹介の時とかに言われる分には構わない。
馬鹿にする意味で言われる事が許せないのである。
それでも暴力に変わりはない。
当然然るべき処遇は受ける。
それが停学2週間。
ただし、要因を作った生徒も3日の停学を受けてる。
そもそも名前を馬鹿にしなければ起きていないのだから。
2週間振りに登校してきた朱里は、奇異な目で見られる事は覚悟している。
停学も1回ではないため、少し距離を置かれているのもまた現状だ。
周囲も名前を馬鹿にする事で怒らせるとわかっていそうなものだが、学生というものはこういうところで学習能力が足りないのかもしれない。
面白半分で馬鹿にする生徒はゼロではない。
ガラララと扉を開けると、教室にいた生徒は一瞬朱里を見る。
しかし暴力による停学のため、極力接しないように考えていた。
そのため直ぐに視線を外す生徒を非難することは出来ない。
コツコツと歩を進め、自分の席に座るとカバンから教科書やノートを取り出し机にしまう。
ふと周りを見渡すと、銀色の髪をした生徒が数人の女子生徒を中心に囲まれているのを発見した。
(あれは確か2年になってから転校してきた……)
彼女は日本人の両親を持つ日本生まれの日本人だ。
両親も原因は不明だと言っていたと本人の口から語られているのだが、幼少の頃から髪の色は銀色だったそうだ。
それを綺麗だと言ってくる子もいれば、気持ち悪いとちょっかいを出してくる子もいると、以前言っていた気がすると朱里は思い出していた。
彼が彼女のそんな過去を知っているのは、転校当初はその容姿から話しかけられる事も多く、勝手に聞こえてきたからである。
決して会話をして聞き出した情報ではない。
ただ、どうやら様子がおかしい事に気付いた。
はっきり何を言っているのかわからないが、彼女は何かを責められている。
囲んでいる生徒らは何か怒号のような言葉を浴びせているのが表情で何となく理解出来るからだ。
(いじめ……か?)
なぜ朱里がそう思ったのか。
それは若干聞き取れる言葉からの推測だ。
「あんたがあの人の気を引いたんでしょ、認めなさいよっ。」
「無害そうなナリしてこのビッチがっ。」
鐘が鳴り教師が来るであろう時間がくると彼女らは散っていった。
このやり取りは休み時間の度に行われていた。
(やれやれだな。あの人が誰かも知らないし。本当に彼女がどうにかしたのかは知らないけど……)
(悲痛そうだな。全然反論しないし。それに小突かれてもな。)
彼女は殴られたりこそしていないものの、後ろに押されたり足を踏まれたりしていた。
途中の休み時間からは男子生徒も混じって彼女を責めていた。
何があって彼女を責めているかわからないが、見ていて気持ちのいいものではない。
そろそろ我慢の限界も近い……と朱里は思っていた。
クラスの誰も止めないのは……
彼ら彼女らがこのクラスでは地位的なものを得ているからだ。
誰が決めたのか、どうやって決めたのか知らないが、彼ら彼女らは勝手にクラスの支配階級だと思っている。
そしてそれを勝手に認め、受け入れている他の生徒。
停学を受けた事のある朱里はそもそもその枠の外の存在として扱われている。
ここで手を出すわけにはいかない。
停学明け初日に、真実のわからない事に首を突っ込んで、再び暴力沙汰というわけにはいかない。
保身と言われてしまえばその通りなのだが……
それでも限度はある。
ここまで聞こえてきた内容では、彼女に非があるとは考えにくい。
あの人とやらが勝手に彼女に惚れたかなんかで、そのあの人とやらが好きだと思われる真ん中のキーキー女が言いがかりをつけている。
朱里はそう理解した。
男子生徒の一人が彼女を突き飛ばし、誰が持ってきたのかバケツに入った水をぶっかけた。
「やっ」
彼女は突き飛ばされた事で尻もちをつき、純白のショーツが丸見えになっていた。
そこに水を掛けられた事で頭からずぶ濡れとなる。
誰も何も言わない。
それはきっと何も言わない者も含めておかしいのだ。
悲痛そうな顔をするなら助けに出ればいい。
止めに出ればいい。
それすらもないのなら、確かにいじめというのは見ているものも同罪と言われても仕方がないのかもしれない。
先ほどの彼女の声は弱々しかった。
ガラッと椅子を後ろに下げて立ち上がる。
立ち上がったのは朱里であるが、彼女の傍にいる生徒達は誰も気付かない。
見ているだけだった生徒達が数人目にしただけだ。
ほとんどがびっくりしたのと、余計なことはしないでくれという視線であった。
「そこまでにしたらどうだ。」
朱里はひたひたと歩を進め、彼ら彼女らの元まで歩いて、言い放った。
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