ぎんいろ(仮)
琉水 魅希
前世
第0話 水凪朱里と白銀真希の願い
しんしんと雪が降り続け、辺りの景色を真っ白に染めていく。
土も、草も、木も、山も、建物も、動物も、人も。
全てを白に染め上げていく。
そんな白一色の世界に異を唱える
そこには辛うじて人と分かるシルエット。
その中心には紅い色。
白い装束に白い肌、白い雪に覆われているのに目立つ紅の色。
「ぁ……ま」
声は今にも死んでしまいそうな程擦れた弱々しい少女のもの。
その小さな声に反応するのは、
燃えるような真っ赤な瞳、白の隙間から覗く黒い髪。
甲冑の隙間から垣間見える筋肉は健康と丈夫の証。
少女の容姿とは正反対だった。
ゆさゆさと男は少女の身体を揺らす。
まるで揺らすのを止めたら少女が死んでしまう事がわかっているかのように。
命の揺らめきを止めないように。
身体の紅は傷痕から流れる命の鼓動、血液。
その量は多く、痛みをとても耐えられない、命は助からないだろう事は垣間見れる。
白の世界に染まる紅一点はそれほどの致命傷だった。
彼女の弱々しい唇が言葉を紡ぎ出そうと筋肉が震えはじめる。
「しゅ……ま。
「あぁ、あぁ。」
肯定するかのように朱里と呼ばれた男は少女を肯定するかのように励ます。
「こ、今度生まれ変わる時は、2人共一緒に……いっしょに倖せに……」
その言葉を最後に少女は喋らなくなった。
彼はそんな少女にしがみ付き、抱き寄せて叫ぶ。
「あぁ、今度生まれてくる世界では、俺達は2人一緒だ。一緒に倖せになるんだ。」
「だから真希。お前を独りにはしない。」
そうして彼女の銀色の髪が……光り輝いた。
まるで『その願い、叶えてしんぜよう』とでも言っているかのうように。
銀糸の伝説に倣い、願い事を叶えるかのように。
真希の命を対価に、銀色の髪の数だけの願いが……
彼女、白銀真希の
この白の世界を光へと導き、
この国の主、
敵国の主、
残ったモノは魂のない抜け殻の
泣いても笑っても叫んでも恨んでも
願いは今世では叶わない。
来るべく来世へ
朱里は願う。
「――――――――――――」
しんしんと降り続ける雪はただ、いつまでも世界を白く染め上げていく。
銀色の髪が雪に成り替わったように。
光を吸収した白は、銀色に。
白銀真希がこの世界そのものになったようだった。
この世界そのものが白銀真希となった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あーなんかしっくりこないラストだ。」
机のパソコンに向かって一人の人物が独り言を漏らす。
シナリオライターである彼は最後の願いのシーンで納得がいっていない。
雪が降り積もる中、真希が来世で一緒になろうと願い命を落とし、朱里が抱きしめ嗚咽し来世で一緒になろうと決意する。
そのシーン自体は決まっていた事。
だが終わり方に納得しきれず、しかしその違和感を拭えないまま、上書き保存のボタンを押し一度書き終える。
そして閉じられたパソコンは二度と開かれる事はない。
彼らを描いたパソコンは物理的に壊れたのだから。
納得のいかない2人の最期もまた彼の頭の中で描き切れていない。
しかし朱里と真希のデータは……
銀糸の願いによって叶えられる。
シナリオライターの彼の思考すら超えて。
「来世こそ、
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