星渡し②
あのあと、星巫女たちにつれられて、ナタリエとマイクがやってきた。彼らにとっては現在二人目の星渡しであり、細かい説明は省略することができた。
「ちょうど店を手伝ってくれるやつが欲しいと思ってたんだ。」
「さすが姫様ね」
「全ては運命としてつながっています。それもまた縁としての結びです」
ナタリエは自身が羽織っていたスカーフをマリーの首へかけ、彼女が手にしていたブローチで留める。「なくさないように」といったナタリエにマリーは照れくさそうに笑って「よろしくお願いします」という。
あのブローチはこの国オーディスの住人である証拠と同時に、彼らを管理する代物である。エリア間の移動は特に規制されていない、中央区と月殿以外は基本的に通行フリーだ。しかしその代わりといってはなんだが、それぞれの行動や発言は全て記録される。メティスにある国立図書館へその全てがデータとして収められる。
まぁ、全てが検分されるわけじゃないし、引き出さない限り確認はされないわけだけど。
ナタリエとマイクは子供が好きだ。何も問題ない。それは二人が胸につけているにごりない青色のブローチからも伺うことができる。三人に別れを告げ、ナレイシュと共に一度月殿の中央転移陣に戻る。まずは月人の麗愛奈に、経過の報告をしなければならない。
「そういえば姫様。彼女のことを10歳程度と思っておいでのようですが、彼女は16歳だそうですよ。」
「うそおっしゃい」
「姫様より年上です」
中央転移陣に戻る道すがら、聞きなれない音を聞く。何事かとナレイシュを振り返るが、彼もまた「存じ上げません」というように、首を振った。近くなればなるほど大きくなる。若干の予想はついたが、信じたくない。私がこの世でもっともといっても過言ではないほどに嫌いなあれだ。
「ねぇ。ナレイシュ、開けてくれない」
「かしこまりました。」
中央転移陣の重厚な扉を開くと、その音はもっとクリアに聞こえてきた。音と言ったらみんなに怒られるかもしれないが、私にとっては音だ。「おぎゃあ」という忌々しい赤ん坊から発せられる音。鳴き声である。
ナレイシュから「姫様」と促される。
発動した覚えもない転移陣に赤ん坊が転がっていた。おそるおそる転移陣に乗るが、うんともすんともしない。そのまま、赤ん坊のそばにいき、抱き上げる。カツカツと音を鳴らしながらナレイシュのもとへ戻っていった。
ナレイシュは星巫女たちから通信パッドを受け取り、私へ視線を飛ばす。何事かと聞くと「一応麗愛奈様より連絡は入っていました。急遽だそうです。」と返ってくる。
「まぁ、この国のシステムの例外はあの女しかないわよねぇ」
「その通りですね。」
「ほかになんて」
「なんとも。とりあえず預かっていてほしいという内容です」
なんて雑な。え、託児所じゃないんですけど。そもそも私に子育てできるわけがない。これは、もうこの国の、私のルールに則るしかないわ。考えるのが面倒くさいとかそういうあれじゃあない。
「今すぐ、ナタリエたちを呼び戻して」
「えっ」
「この子もナタリエ立ちのところへ星渡しするわ!」
彼らはすぐに戻ってきた。転移陣を発動させていないためブローチの作成ができていないが、もともと中央の人間は ブローチがない。そう思わせておけばいい。マイクは「荷が重すぎます」と主張するので、私はナレイシュに微笑みかける。
「少々お待ちを」といって出て行った彼は、ものの数分で戻ってきた。
「イミテーションになりますので、エリア間の移動はできません。」
「ありがとうございます」
「お礼なら姫様に」
ナレイシュが作ったものを見つめる
それは、本当によくできていた。確かにパパも色付きガラスなら簡単に作れると言っていたような気がする。この男は本当になんでもできるのだ。魔法じゃない。錬金術だ。私は、まず錬成陣を編むのを調べるところからじゃないとできない。
そうして、本来なら面倒事を押し付けられた形になったナタリエたちだが、私たちに感謝してデメティウスに帰っていく。本当に、いい人たちばかりなのだ。本当に、こんなだから私が私になってしまう。
「姫様。お茶にしましょうか」
「なんだか疲れたわ。クレープにアイスクリームのっけてちょうだい。牛の」
「牛は貴重品ですよ姫様。ムルムルの生乳のアイスクリームがありますからそちらにしましょう」
「好きにしてちょうだい」
今日は1の日だったか。このあとは外出もなく勉強である。さっきはマリーに私が一番偉いとはいったが、勉強はきらいだ。なにせ自分はまだ14歳なのだ。優しいナレイシュという側仕えが、厳しい家庭教師として現れるのは、あと何時間後だろうと、時計の確認すら躊躇するレベルだ。
彼女は今日も星をひろう さくらりづ @1hatimutu
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