第3話 編集と撮影とベルトジャンケン

 華のない創の部屋で、話し合いは続いていた。

「というわけで編集は真樹に丸投げという形でどうだろう」

「どうだろうじゃねえよ」

「異議なし」

「異議あれ」

 そして俺の黒歴史の発掘と同時に仕事が決まってしまった。なにこのダブルパンチ。

「つってもフリーの編集ソフト二、三個使ったことがあるくらいだぞ。そんなんでああいう動画できるのか?」

 かつて俺が使っていたソフトは大手の配信者や投稿者が使うような有料の優良ソフトではなく、無料で使えるパソコン備え付けのソフトとネットから拾ってきたフリーソフトくらいだ。

「上手いことクロマキーでああだこうだして合成すればいけんじゃね?」

「雑かてめー」

クロマキーとは特定の色を映像から抜くことで主に背景を透過させる技法だ。いわゆるブルーバックやグリーンバックなどを用いる。

たしかに俺たちの映像はそれでも大丈夫だが、問題は使用する映像にある。

「でも劇中の映像をくり抜くのは難しくないか?背景が一色ってわけじゃないだろ」

「お前ならいける」

「信頼に訴えかけるな」

「頑張ればなんとかなる」

「根性論もやめろ」

 言い出しっぺのくせに具体的な計画が何もないところが創らしいというかなんというか。

「実際、今まで使ったことのあるソフトでそれは可能なのか?」

 直哉が聞いてくる。知識としては知っているだろうが、実際にその手のソフトを使ったことあるのは俺だけのようだ。

「可能っちゃ可能だと思う。でもそこまでガッツリ映像加工なんてしたことないから時間はかかるだろうな」

 所詮は扱ったことがあると言っても素人でしかない俺の技術で、満足のいくものがすぐにできるかと聞かれれば不可能と答えるほかない。

「どのくらいだ?」

「一週間はかからないと思うけど、まあ三日くらいか。最近触ってなかったから操作確認からしないといけないし。……けどクオリティの期待はするな」

 答えて思ったがいつのまにか俺が担当することを前提に話を進めてしまった。実際編集作業はやっていると楽しいので、まあ仕方ない。今回は頑張ってやろう。

「いやあ俺は変身できれば満足だから」

「バカだから違いがわからないだけだろ」

「ところでその変身に使う映像はどうするんだ?スマホで撮るのか?」

 直哉の発言にまたひと悶着ありそうだったので、別の話題で先手を打つ。というかこいつ煽りすぎでは。FPSゲームで絶対エンカウントしたくないタイプだ。

「ああ、媒体はその予定。ただ場所がなあ……」

「ここじゃダメなのか?」

「だって普通家の中で変身とかしないだろ?」

「鎧フルーツは自室で変身したぞ」

「そんな限定的な話はいいんだよ。そんなわけで外に撮りに行こうと思っていた」

 たしかに屋外でのほうが『ぽく』はあるだろうが、致命的欠陥があることを忘れてはいけない。

「高校生がそろって玩具つけて外で変身ポーズとか、恥ずかしすぎないか?」

「俺も少し抵抗あるんだが」

 考えてみてほしい。歩いていたら高校生三人がヒーローの変身ポーズをばっちり決めながら撮影に励んでいる様子を。……その目撃者がもし同じ学校ないし同級生だった場合、その三人の高校生活は終わる。

「大丈夫だ、過去にベルトつけておもちゃ屋行くと限定商品が買えるキャンペーンがあった」

 何がどう大丈夫なのだろうか。

 というか貰えるんじゃなくて購入権が発生するだけって、なかなか前衛的な企画だな。

「冗談はさておき、人目のつかないところならいいだろ。川、というか橋の下とかどうだ?ちょっと距離はあるけど人も来ないし変身場所としては申し分ないと思うけど」

「それならまあ、いいか」

「決まりだな。よしじゃあ行こう」

 せめてもの妥協、といったところだろうか。

「え?今から?」

「なんだよ当然だろ」

「早朝とかの方が人いないし安全じゃないか?」

「は?俺が起きれるわけねえだろ」

「きれいすぎる逆ギレやめろ」

「それに……お前は明日まで我慢できるのか?」

 今度は俺が直哉に煽られる。

「生憎、できるといえるほど大人じゃないな」

 俺も所詮はガキの感性だったようだ。

……はいかっこつけるのやめやめ。

楽しければいいでしょ。大人になって見つかるより今の方がダメージ少なそうだし!

「っしゃあ行くぜ。お前ら、俺のホッパー(ロードバイク)に追いつけるかな!?」

「ふっ、俺のエクステンダー(ママチャリ)を舐めるなよ!」

「マッシグラー(ママチャリ)の底力を見せてやろう……」

 各々が一個ずつベルトをつかんで立ち上がろうとする……が。

「「「うん?」」」

 俺と直哉と創の手は、同じベルトを掴んでいた。

「おい、離せよお前ら。早く行こうぜ」

「いや、これは俺が使おうと思ってたやつだからお前が離せよ」

「おいおい、借りてきた俺に選択権があるのは常識だろ?」

「「「……」」」

 ……思い出補正は同い年の間では偏りが激しいらしい。

 別に三人で使いまわせばいいだけだし、なんなら種類が増えると俺の作業量も比例して増えるわけだが、今はそんなことよりもプライドが先行していた。


 いろんな意味で、変身までの道のりは遠い。

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全力でする自己満足 冬木 論理 @lonely-logical

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