第2話 Oタクの悪ノリ/俺を泣かせるもの(黒歴史)

 放課後、これからの計画を立てようと創の部屋に集まった。

 過去に何度か来たことのある部屋だが見慣れない棚が一つ増えている。上から布が覆っていて何が入っているかはわからない。

鞄と腰を下ろすが、三人ともかなりソワソワしている。この調子なら午後の授業をまじめに受けたやつはいないだろう。俺を含めて。

「まずどうするよ、何からやる?」

「まてまて、まずどうやってするかだろ」

「その前に根本的なことを聞いていいか?」

 創と最終的には一番ノリノリになるタイプの男、直哉の会話を遮る。

「なんだよ真樹」

「ベルトは?」

 ヒーローである以上変身アイテムは欠かせない、しかしこの歳になるとわかるのだが、あの手の玩具は高い。とても高校生が軽い気持ちで買えるものではない。

「昔買ってもらったやつとか、塗装剥げててボロボロだぞ?それでいいならあるけど……」

「俺も手元にはないな。中学上がるときに整理して中古屋行きにした気がする」

「ふっふっふ……その点に関しては安心しろ」

 創が不敵に笑う。今ならヒーローより悪役の方がハマるだろう。

「これを見たまえ」

 そして棚を覆っていた布を剥がした。

「「――おおっ」」

 思わず俺も直哉も感嘆の声が出た。

 そこには状態のいい歴代ライダーのベルトが陳列されていた。

「どうしたんだよこれ。集めるにしたってかなり金が要るんじゃないか?」

「知り合いに特撮好きのおじさんがいてな。土下座して借りてきた」

 玩具のために土下座するとは……。

「安い土下座だな」

「うるせえ!いいんだよやりたいことに比べたら土下座の一つくらい」

「でも本当にいいのか?傷でもつけたら……」

「ああ、これは使う用らしいから多少は平気だ」

 使う用ということは展示用とか保管用もあるのだろうか。流石大人、金を持っている。

「……まあ、今年以降のお年玉がもらえないことに比べたらプラスだから……」

 創が天井を仰ぐ。

 ……流石高校生、金がない。

「涙吹けよ、ヒーローが泣いたままじゃかっこつかないだろ」

「は?泣きながらボロボロのヒーローもかっこいいだろうが」

「あ?」

 ここからしばらく創と直哉のヒーロー談議になったので割愛。言わずもがな途中で俺も混ざった。


「そんで、どうする?」

「昼休みの動画みたいなのにするのか?」

「一応そのつもりだったけど……まずいかな」

「まあ個人でやる分には大丈夫だろ。前回注意書きも入れたし」

「あんなそういうこと言うなよ……」

 ようやく本題に話が戻った俺たちは、まずは方向性から決めることにした。

「でだ、お前ら動画編集できるか?」

 創が俺たちを見る。深い意味はないが少し嫌な予感がする。

「俺はやったことないな」

 直哉が首を振る。深い意味はないが非常に嫌な予感がする。

「だよなあ、そんな動画配信者みたいなことできるやつなんて……おぉっとぉ?」

 創がわざとらしくこっちを見る。

「そこにいるのわぁ?動画投稿三日坊主さんじゃああーりませんか?」

 今世紀最大級にゲスな笑顔をしてきた。

「え、真樹お前……」

「違う、中学生の気の迷いだ」

「『はいどうも、まさきチャンネルです☆』」

「思い出させるな!」

 机を叩いて叫ぶ。後悔と恥辱と創の腹立たしさに絶賛ブチ切れ。

「『今日はこちらのゲームを……』」

「だああ!お前を〇す!そしてその様子を撮影して望み通り『まさきチャンネル』復活の一個目の動画にしてやる!」

「おい落ち着け、そんな動画上げたらアカBANされてしまう!」

 創に掴みかかろうとする俺を直哉が羽交い絞めにする。

「タイトル!『友達ハンター実況プレイパート1』!」

「開き直るな!レーティングZどころの騒ぎじゃないぞ!」

 もうヤケクソだった。右手に握りしめたシャーペンごときで何ができるというのか、そんなことも考えてなかった。



「まあ……創が悪い」

「ごめんて」

「……もういいよ」

 当時は輝いてたはずなのに、いつの間にか変色して黒ずんだ思い出が黒歴史なんだなと、また一つ大人になった。

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