第28話

 後日談。


 中止を迫られていたダム建設は無事に進行。黒鱗村は埋め立てられることになった。村人達は全員、高羽市に移住した。


 龍の呪いと恐れられた匂いによる禁断症状は、羽賀の指揮の下に対策がされた。匂いによる中毒というのなら、対策は簡単だ。徐々に量を減らして、摂取しない時間を増やせば良い。


 また村にいた龍堂以外の龍人たちにも、別途対策が施された。というのも、龍人の匂いの放出をなんとかしなければ、第二の黒鱗村が出来てしまうだけだ。匂いの放出は、龍人達にだけに特別な器官があってそれが原因だということが判明した。


 羽賀は薬によってその器官を衰えさせる提案をした。龍人達は現在、開発された薬を服用して様子を見ている状態だ。


 龍人には特別な器官があるという事実は『龍人を殺害すると呪いが発生する』という言い伝えに繋がってくる。匂いの放出を行う器官は年齢と共に衰え、高齢の龍人達は殆ど匂いを出さないそうだ。しかし殺人によって若い頃に死んでしまうと、その器官によって匂いが大量に漏れてしまう。それが『龍人を殺害すると呪いが発生する』のカラクリであった。


 呪いに関する対応に、龍人であった東雲家が買って出てくれた。実は龍人のほとんどが、龍堂の意思に賛同していなかったという。


 そしてそれは、龍堂家も例外ではなかった。龍堂尊は取り調べにて、両親の殺害を認めている。彼女が語っていた野望やら復讐やらについて、彼女の両親はとっくに割り切っていた。


 崎守家はそのことを知っていた。警察に把握している龍人を教えなかったのは、情けを掛けていたからだったのかもしれない。


 しかし龍人の憎悪をズルズルと引きずっていた彼女は、両親を殺害してしまった。龍人でも龍堂家の総意でもなく、実は龍堂尊という女性の独りよがりだったという訳だ。


「でもさ。両親でさえどうでもよくなった事を、娘がここまで必死になってやるなんて」


 車の助手席に座る俺は、運転席に座る母に言った。


「そうね。彼女が語らないから分からないけど、例えば祖母が強く教え込んだとか」


 母は言った。しかし俺は納得できない。それでも長らく一緒に居たはずの両親の言葉に、耳を傾けないなんてことがあるのだろうか。


 そんなことを考えながら、俺は車窓から外の景色を眺めていた。


 車道を走る自動車。信号機。歩道橋。薄汚れたアパートやマンション。古ぼけた喫茶店。そして墓地が見えてきた。


 駐車場に車を停車した。線香や花、水を汲んだ桶を持って墓地を縫い進む。


 やがて、久遠家の墓に辿り着いた。父が眠っている墓だ。


 水を掛け、花と線香を供えて、俺と母は手を合わせた。



 お父さん。全て終わったよ。お父さんの死を、無駄にしなかった。お父さんを死に追いやった何もかもを突き止めた。親友の死の真相も。



 父が教えてくれた通り、真相の究明で沢山の人が救われた。俺は龍堂とは違う。両親の言葉には、きちんと耳を傾ける。これからも、ずっと。


 俺は祈りを終えて、母に目をやった。母も同じく祈りを終えたようで、こちらを見ていた。


「久遠家は、無敵ね」


 母は、穏やかに笑っていた。


「うん。久遠家は、無敵だ」


 俺は、花笑みを浮かべてそう言った。

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