第27話

「う、嘘……どうして立っていられるの」


 驚愕の表情を浮かべる龍堂。彼女のそんな顔を見たのは初めてだった。


「これが、私の愛する人を、死に追いやった。そんなものに、負けてたまるか」


 そう言いながら、母は少しずつ進んでいく。母の形相は尋常ではない。匂いによる苦しみに耐えながら、負けたくないという一心で無理をしているのだろう。


「ぐぅっ!」


 しかし、力尽きてしまった。


「ふふ。なぁーんだ。びっくりした」


 ホッとしたように龍堂は言った。


「見てよ日継君。これが龍の力。誰もこの力に、抗うことはできない」


 楽しそうに、龍堂は両手を広げた。


 床に伏す母。久遠家は、結局この力に抗えないのか。そう思うと、何だかとても悔しい気持ちになった。


「母さん……」


 俺は母を呼ぶ。


「母さんっ!」


 起こす様に、俺は叫ぶ。


「起きてくれ、母さんっ!」


 手足をバタつかせ、拘束具をガチャガチャとかき鳴らす。母がこのまま起きなかったら、久遠家は敗北だ。そんなこと、あって良い訳がないんだ。


「父さんの仇を取るんだろっ!」


 すると、ピクリと身体を震わせた。



「久遠家は、無敵なんだろっ!」



 俺が言うと、母はもがくように地面に手をついた。そして必死に身体を起き上がらせようと、力を入れる。


「煩いわね。分かってるわよ」


 そう言いながら母は、なけなしの力で立ち上がった。


「嘘……何で立ち上がれるのよ!」


 狼狽える龍堂。そんな彼女に、母はフラフラと近づいて、そして肩に手を置いた。龍堂の肩に置かれた手は、プルプルと震えている。力んでいるのか、指先の一つ一つが肩の肉に食い込んでいる。


「嫌だ。やめて。龍堂家の野望が。長年の復讐が。全て無駄になっちゃう」


 敗北を悟ったのか、龍堂は泣きそうな声で言った。


「愛する人を失って、私たちは傷付いた。だから私たちは戦う。野望だか復讐だか知らないけれど、私たちの想いはそれを超える!」


 母はそう言って、龍堂を突き飛ばした。



「久遠家は、無敵なのよっ!」



 そして、龍堂の背後にあったレバーを引いたのだった。

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