鯖江さんにはお見通し
佐倉島こみかん
鯖江さんにはお見通し
ああ、眼鏡! それは掛けるタイプの魔法! 曲線と直線のフォルムによる顔の印象の違いはその種類によって千変万化!
レンズ、色、形、素材、どの組み合わせを選んだかに表れる、その人がなりたい印象や、趣味や、こだわりを眺めることが、私の趣味である。
例えば、図書委員の森さんの華奢なピンクゴールドの金属フレームはネジの横がレースのような飾りになっていて、控えめな彼女の小さな美学が窺えて好き。ムードメーカーで陽気な佐藤くんの真っ青なセルフレームの太縁眼鏡が、実はアニメコラボのものだと知っている人はたぶん少ない。世界史の吉野先生の、レンズの大きい遠近両用のレトロな鼈甲フレームなんて絶対高校生ではお目に掛かれない代物で、歴史が感じらる。
両眼2.0で眼鏡とは無縁の人生を送ってきた私にとって、眼鏡はたまらなく魅力的なフェティッシュなのだ。そしてそれを公言しているため、クラス全員、私の眼鏡好きを知っている。
「おい、鯖江。いくら眼鏡が好きだからって、人の顔ジロジロ見るのは止めろって言ってんだろ」
隣の席の三好くんが三白眼でギロリとこちらを睨み、ドスの効いた声で言ってくる。
ラグビー部主将をしていた三好くんは受験勉強で視力が落ちたらしく、最近、眼鏡になった。やや小さめの楕円形のレンズのオーバル眼鏡は細身の銀縁。身長189cmでガタイもよく学校一の強面と名高い顔にその眼鏡は、控えめに言ってもインテリヤクザみたい。さらに分厚い近視用レンズで目が小さく見える関係で、全体のバランスとしてはオーバルフレームでもどうにもならない人相の悪さ。
「あら、ごめんなさい! 私、三好くんの眼鏡姿が好きで、つい」
「お前なあ、そういうこと恥ずかしげもなく言うの、どうかと思うぞ」
笑って返せば、三好くんは言い辛そうにしかめっ面で嘆息した。
「だって三好くん、吊り目で三白眼の目元を、ちょっとでも緩和させようと丸いフレームにしたんでしょう? そういう、人を怖がらせないようにしようとしてる気遣いが、優しいなと思って」
私が言えば、三好くんは見る間に顔を真っ赤にした。
「は、なんで、知ってっ!?」
「眼鏡好きだから、分かるの」
私は彼の厚さ8mmの分厚いレンズの壁に隔てられた三白眼を真っ直ぐ見て微笑む。
「……本当に、あまり勘違いさせるようなことを言わない方がいいぞ」
短髪を掻いてそう言う三好くん自身が好きなんだけど、たぶん信じてもらえないから、まだ、言わない。
鯖江さんにはお見通し 佐倉島こみかん @sanagi_iganas
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