ゼロ計画実行中 ~あばよ、モヒカン共! お前らはここで朽ちていけ~

郁美

Business tripper


 

 かつて、大きな抗争があった。

 一つの国が、国家が、土地が、ズタボロとなった。

 

 周辺各国の政治家間で再開発計画も囁かれたが、計画は一向に進まず。

 ただ、時間だけが無情にも過ぎていった。 



「ヒィィイィィハッハッハッハッハァァァッ!!

 どけどけ、一般ピーポー共ォォォォォ!!!!!」




 バイクに跨るモヒカンの男。

 これが今回の瞬殺枠……の一人である。

 世紀末感を出すための背景キャラである。

 ですので次の次の行くらいで死にます。


「んあ~~~? なんか踏んだか~~~~?」


 推定身長180mほどの男にバイクごと踏みつぶされた。

 山のようにドデカい男。

 ドコドコと超頭悪そうにどこかに歩いていく。

 この男も世紀末感を出すための背景キャラである。

 ですので次の次の行くらいで死にます。


「ありぃ~~? 毒沼~~~?」


 左足からずぶずぶと沈んでいき、身体がどんどんと毒に蝕まれていく。

 毒沼トラップである。

 そのトラップを仕掛けたと思われた男のメガネがキラリと光る。

 

「全て計算通りです」


 右手中指でメガネのブリッジをクイと上げる。

 と、同時に後ろから蹴り飛ばされて毒沼に沈んでいった。


「チッ……貴重な水になんてことしやがるんだよ」


 咥えていた残り僅かの煙草を沼の中に投げ捨てる。

 すると、毒沼は勢いよく炎上しはじめた。


「やべぇ水質になってるじゃねぇか……」


 この国は何かおかしい。

 男がこの街に来て一ヶ月目。

 まるでここが終末世界のように思えた。

 十日にニ十回くらいのペースで現れる世紀末ファッションのモヒカン。

 三日に一度くらいのペースで現れる大巨人。

 時々現れる科学者ぶった奴。


 襲ってくるモヒカンは殺す。

 危なっかしい巨人は隙を突いてぶっ殺す。

 危険そうな科学者はとりあえず、様子を見てから殺す。


 男が生き残るには『殺す』しかないのだ。


(ったくよぉ、上のお偉いさん方で何考えてるか、さっぱりわかんねぇわ)


 食べ物も現地調達だが、最低限の最低の物しかない。

 煙草も持ち込んだ分も今の一本で最後だ。

 空になった煙草の箱を投げ捨てる。

 

(新しい煙草は……期待できねぇな、禁煙すっかな……)


 男は『簡単な土壌調査の任務』とだけ聞かされた。

 だが、来てみればなんだ、ここは? 狂っていやがる。

 とりあえず、ここの水質は最悪だった。

 それどころではない。

 土壌も最悪。

 空気も最悪。

 治安も最悪。


(『再生計画のための調査』ってのは建前。

 ……俺を雇うってことは全てをゼロにした方が早いってか?

 ああ、嫌だね。そんなことを考える奴らも。

 ………そんな生き方しかできない自分も)


 そして、男が歩く。

 そのたびに襲われる。


「ヒャッハァ!!」「邪魔」

「金を寄越せぇぇ!」「邪魔」

「ありぃ?」「邪魔」

「ケッヒャヒャヒャ!」「邪魔」

「こ、殺さないで……」「よし」

「………と、みせかけて、どけ、オラァ!」「お前がどけ」

「あんたはここで」「おまえがここで死ね」


 襲われる度、男の鋼鉄ワイヤーで瞬時にコマ切れにする。

 躊躇はしない。甘さはない。

 もう何人殺したかは覚えていない。

 少なくとも両手両足の指の数では足りない。


「居たわね! 【来訪者】!!」


 そんな男の前ににここで会ったが100年目と言わんがばかりに男に突っかかってくる少女。

 だが、実際まだ出会って3週間くらいである。

 モヒカン共とは違い、律儀にも一日一度男の前に現れる。


「またお前か」

「今日こそ、アンタを倒す!」

「俺を倒すなら殺す気で来いと昨日も言ったが?」


 ワイヤーを飛ばす。

 縮地のような動きで躱される。

 相変わらず早い。

 早いが、たったそれだけ、だ。


 少女の両足を昨日と同じように斬り飛ばす。

 だが、瞬時にまた新しい足が生えてくる。


(頭を破壊しようが、心臓を潰そうが、即再生する肉体。

 ……一昨日は全身を細切れにしても再生したからなぁ……

 殺すのも面倒な奴は放っておくべきだが、殺しておかないと俺が死ぬからな。

 殺してやれないのは可哀想だが、仕方ないな)



「人殺しの【来訪者】にはGo to hellキャンペーンよ!!」

「生憎、俺は仕事でここに来ているんでな、キャンペーン対象外だ」

 

 

 まあ、一言で言えば殺しても死なない面倒な奴だ。

 あくまでも男の仕事は調査が第一。戦いは二の次。


「残念ながら今日はこれでお開きだ」

「なっ!?」


 ワイヤーを廃墟に向かって飛ばしてぶっ壊す。

 廃墟の残骸を使い、圧倒的な重量と物量で少女の動きを物理的に止める。

 

「あばよ」


 どうせ生き返るならまたすぐに死に続ける状況を作ればいい。

 だが、彼女は非常に律儀だ。

 明日また男の前に現れるだろう。



「へっへっへ、なんたる幸運!

 この新薬を投与したタイミングで噂の【来訪者】さんと出会えるなんてなぁ!!

 しかも、あの化け物と戦闘直後! なら、私の勝率は10000%ほどに……」

「うるせぇ」


 瞬時にワイヤーで首と胴体を切断した。

 どうやら彼女のような超再生能力は持っていなかったようだ。

 あなたは何しにきたの?



 ――――ああ、それにしても馴染みの煙草で一服したい。



 男に禁煙は無理そうだ。

 そして、男はまた歩いていく。

 

 未だ仕事は終わりそうにない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゼロ計画実行中 ~あばよ、モヒカン共! お前らはここで朽ちていけ~ 郁美 @Iku3M44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ