Ending
ニューワールド
「ほら、団長、もっと飲みな!」
「もう飲めないよ、僕はお酒が苦手って知ってるだろ?」
「ああん!? あたいの注いだ酒が飲めないっていうのか!?」
「楓さん、妹さんからお祝いのメッセージが届いてますよ!」
「何だかんだ言いつつ、紅葉ちゃんと仲いいですよ――ぬぇっ!?」
「馬鹿なこといってんじゃない!」
「楓さん、ジョッキは投げちゃだめですってば!」
要塞都市アブソリュートを出立する直前、臥竜が慌ただしく準備していたのは、このサプライズ宴会を行うための物資だったそうだ。
何も知らないプレイヤーからすれば、一日でLv.99のワールドボスを二体撃破、しかも犠牲者なしとなれば、羽目を外さずには居られなかった。
「嘘……、栞ちゃん……、オートマタだったの!? すごーい!」
「可愛いです~、本物のオートマタさんです~!」
栞は勇気を振り絞って、穂波と天音に自身がオートマタであることを打ち明けた。
結果は見ての通り、栞に対して奇異な目を向ける素振りすらなかった。
「な? 話しても大丈夫だっただろ?」
「一安心」
ちなみに、リーリアは「覚えていやがれです!」と捨て台詞を残して、ぷつんとその場で消えてしまった。
またそのうちひょっこりと現れそうで不安だが、目下の危機は去ったと考えて良さそうだった。
「栞ちゃんの創造主は誰なの?」
「不明」
「他にもオートマタさんの知り合いは居るんです~?」
「私はずっと一人だった」
栞が質問攻めに遭っているので、俺は集団から少し距離を取った位置で腰掛けていた愛花と有希の元へと向かった。
「これで、一応一件落着なのか?」
「まだなの。さっきもいったけど、この世界は致命的なバグを抱えているから、作り直さないといけないの」
「ちょうどそのことで、愛花と話していたところです」
二人の深刻な表情から察するに、まだ何も解決していないのだろう。
「作り直すって、みんなの記憶はどうするんだ?」
「まさしく、そのことについて話していたの。終生お兄ちゃんは、みんなとの思い出を忘れるのは嫌なの?」
「望めるなら、忘れたくはないな」
自分が消えることよりも、みんなの中から自分が居なくなる方が辛いかも知れなかった。
「一つの意見として、記録の中に留めておくなの」
「そうそう、白銀さんに一つ聞きたかったんですが、こっちの世界が魅力的だといっていたけれど、具体的に」
「、その前に一つ聞きたかったんだけど、有希は外の世界の記憶を持っているのか?」
「はい。それがどうしましたか?」
「ほら、さっきいってただろ、こっちの世界が魅力的だって。具体的にどう魅力的なのかって気になっただけだ」
「凉城殿には想像しにくいかも知れませんが、技術の発展により、人間は刺激を得られなくなってしまいました。食べる喜び、人との出会い、体を動かす快感、冒険する高揚感、狩りをした達成感、そういったものが欠如した世界と思ってもらえれば差し支えないでしょう」
「機械の箱の中より、機械的な生活をしてるってことですか?」
「くすくす。そうですね」
「確かに、そんな世界に帰りたくないと思うのは当然かも知れないな。教えてくれてありがとう。――それで、この世界を作り直すとかいっていたような気がするけど、本当にそんな事ができるのか?」
「作り直すための条件は、愛花とこの世界の接続を一時的に切り離す必要があったの。だけど、愛花にはどうすることもできなかったの。でも、今、その条件が整っている状態なの」
「まさかとは思うけど、最初からそれが目的で、俺と接触したのか……?」
「賭けだったけど、上手くいったの」
愛花はにっこりと笑った。
一歩どころか半歩間違えれば全てが消滅していたかも知れないのに、愛花は俺と栞がこの世界のために戦ってくれると自信を持って信じていたのだ。
「はは……、末恐ろしい子だな」
「次はきっと、もっともっといい世界にするの! でも、作り直すには、みんなの接続を切らないといけないの」
「そうか……、つまり、俺は機械の箱とやらの中に戻るわけだな。いや、まぁ、別に後悔はしていないぞ。この世界を守りたいと決めたのは、俺の心だからな」俺はぎこちなく白い歯を見せる。
「凉城お兄ちゃん、言い残したことは本当にそれで全部なの?」
アイは全てを見透かした上で、俺がこの世界に心残りないように、そう聞いてくれたのかも知れなかった。
「俺はもっと冒険したかった! 外の世界のことなんて知らないで、この世界で気の向くままに冒険したかった! 綺麗な景色を見ながら、ギュウを食べたかった! まだ見ぬ強敵の眠るダンジョンを攻略したかった! また栞たちと一緒に冒険したかった!」
俺は心の限りそう叫び終えると、果てしなく広がる世界を仰いで、大粒の涙を流した。
次に意識が戻った時、俺は見慣れた宿のベッドの上で横になっていた。両脇には栞、穂波、天音、そして、愛花も一緒に穏やかな寝息を立てていた。
ゲームの始まり方としては珍しい、斬新なシチュエーションだ。
そして、俺はここがファンタジー・イン・リアリティという一つの世界の中だということを知識として持っていた。
けれども、この世界で生きていくことになった経緯、その肝心なところはかなり曖昧な記憶しか残っていなかった。
とはいえ、俺は自ら望んでこの世界で生きていくと決めたことだけは、しっかりと覚えていた。
「さてと、今日もダンジョンを攻略しに行くか」
最弱だった俺がランキング1位になるまでの軌跡~仲間の女の子がみんなチートすぎる件について~ しんみつ @sinmitu64
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