幼女のてのひらの上⑥
「なっ!? 外部装置との接続は切断してあるはずなのに、愛花、あなたの仕業ですね!?」
「愛花は何もしてないの。世界と遮断されているから何もできないの。あなたたちが終生お兄ちゃんを縛り付けていた偽りのユニークスキルがなくなって、本来のユニークスキル『トレーサー』が発現しただけなの」
「過去の自分のステータスを再現できるユニークスキルだったと記憶している」
「うん、そうなの」
本来であれば、トレーサーは魔法やスキルなどで一時的に強化したステータス状態を一人でも再現できる便利なユニークスキルという立ち位置なのだが、俺の場合は外部から操作された桁違いのステータスを再現していたので、凶悪なユニークスキルとなっていた。
「こんな偶然が起こっていいはずありません!」
リーリアは頭を抱えながらいった。
「この世界に偶然は存在しない」
「そんな、まさかです……! 愛花、あなた最初からこうなることを見越して、涼城様がログインした時に、このユニークスキルを仕込んでいたのですか!?」
「秘密なの」
愛花は手で口元を隠しながらいったが、声だけで笑っているのは伝わった。
「ふ、二人に増えたところで、この戦力差は覆りません!」
リーリアの計算では、これでもまだ界滅龍の優位に変わりはなかったが、かなり詰められたというのは確かだった。
そんなリーリアの計算は、容易く打ち砕かれることとなった。
隔絶されていたはずのドアがバタンッと勢い良く開け放たれたのだ。
「終生君、栞ちゃん、助勢にきたよ!」
「たたた助けに、きたです~」
「あれだけ威勢良く突入した割に、随分と苦戦してるようじゃないか、孤高の戦姫?」
ドアの向こうから、穂波や天音、楓、その他大勢のプレイヤーがぞろぞろと突入してきた。
「どうして臥竜さんまでここに?」
思いがけない人物の乱入に、俺は驚いた。
「何だか妙な胸騒ぎを覚えて、僕たちもクライシスの古城を目指していてね、そしたら君たちが魔王討伐に向かったと聞いて驚いたよ」
サポートメンバーはダンジョン攻略組に比べて戦闘能力では劣るが、とにかく数が多かった。
手数が必要な界滅龍に対して、数は力だった。
「なななっ!? どどど、どうやってドアを開けたですか!?」
この展開は流石に予想していなかったのだろう、リーリアの取り乱し様は実に滑稽だった。
「アンロッカー、複雑で時間を要した」
それで答えになったかと、栞はリーリアに視線を送った。
「どうして、静川様はこの世界と自身の消滅を望んでいたはずでしたよね!?」
「気が変わった」
「はぁっ!? 何ですかそれは!?」
「ダンジョンを攻略している時、私は自分のことを忘れられた。だから、私はもっと終生たちとダンジョンを攻略したいと思った」
栞はあっけからんといった。
「おう、もっと一緒にダンジョンを攻略しようぜ!」
「私たちも一緒に付いて行くからね!」
「ずっと一緒です~!」
まだ決着がついたわけではなかったが、みんなが揃えば不思議と何とかなるような気がした。
「界滅龍、まずは数を減らしなさい!」
リーリアが命じ、界滅龍が鼻から大きく息を吸い込んだ。
ドラゴンが大きく息を吸い込む理由は、一つしか考えられなかった。灼熱の炎を吐く予備動作だ。
「でかい攻撃が来るぞ、構えろ!」
他のプレイヤーも、それは当然わかっていた。
「世界を紡ぐ黄金の糸よ。神々でさえ断ち切ることのできない神々しき糸よ。今、汝の力を貸し与え賜え、ヤーン・アラクネー!」
栞の詠唱と同時に、光り輝く糸が大地を割って生えた。
黄金の糸は、まるで口輪のように、界滅龍の上顎と下顎をがっちりと固定した。これでは炎を吐くことなどできなかった。
「栞、でかした!」
「相変わらず、栞ちゃんの魔法は凄いね」
「綺麗です~」
「むきー、どこまでも邪魔をするつもりですか!? 雑魚を相手にヘルファイアブレスなんて必要ないです、全員ぶっ飛ばしちゃうです!」
リーリアは吠えたが、それは完全に負け犬の遠吠えだった。
「よっしゃ、行くぜ野郎共! 右腕はあいつらに任せて、あたいたちは左腕に張り付くぜ!」
楓の号令と共に、近接部隊が一斉に斬りかかった。
「僕たちは前衛の邪魔にならない後ろ足を狙うんだ!」
臥竜の号令と共に、無数の矢と魔法が界滅龍に打ち込まれた。
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