第一章23 話題の場所
(2874年7月31日)
結局ゴースキンはオレと共に旅に出ることとなった。
「それでは、しばらくお暇をいただきます。ジェンさん」
「ああ、達者でな。ゴースキン」
ゴースキンは研究所の面々にしばらくの別れを告げた。
オレはゴースキンの車に乗せてもらい、研究所を後にした。
「しっかし、それにしてもゴースキンの運転は上手いよな」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
「それにしてももう少しキー村を観光したいなぁ……」
「それでは私のとっておきの場所に連れて行ってあげましょうか?」
「おおっ! 是非案内してくれ」
「わかりました。それじゃあちょっとカーナビ設定しますね」
ゴースキンは路上に停車し、おもむろにカーナビの設定をし始めた。
「えっ、ゴースキン場所分からないの?」
「は、はい。実はこの前SNSで見つけて、写真見ただけなので……」
「それって、とっておきの場所って言うのか?」
「ま、まあいいじゃないですか。細かいことは……」
痛いところを突かれたゴースキンは露骨に話を逸らそうとする。
「実はあそこのアイスクリーム屋さん人気なんですよー」
「そ、そうか」
必死に外に指をさしながら、無かったことにしようとするゴースキンであったので、オレもそれに乗っかり、これ以上の追求はやめた。
オレたちはカーナビの音声案内を聞きながら車に揺られていた。
『500m先、信号を右方向…… ここから先、15キロ道なりです……』
「15キロも道なりなのか…… 大丈夫? このカーナビ壊れてない?」
「多分大丈夫だと思います。割と新型モデルなんで」
「そうか。ところでオレたちはどこに向かっているんだ?」
「そういえばまだ言っていませんでしたね。今から私たちが向かう場所は『グラントリアス大聖堂』です」
「大聖堂に行くのか、オレ初めてかも」
「神秘的な所で、心が洗われますよ」
「って、行ったことないんだろ?」
「ええ、まあそうですけど……」
道なりに車を走らせていると、辺りの景色は高層ビルの都市的な風景から、田舎の風景に逆戻りしたようだった。なんでもゴースキン曰く『グラントリアス大聖堂』はキー村の外れにあり、最北端に位置しているという。
「うわぁ、あれか」
そこには草原や山といった緑に囲まれながらも、1つポツリとたくましく聳え立つ建物があった。
「はい。おそらくあれです」
ここ『グラントリアス大聖堂』はその内装の美しさからSNSで今話題沸騰となり、多くの観光客の姿が見られた。田舎の辺境にあるため、駐車場などはなく、車はみんな路上に駐車している。
「ちょっと待ってくださいね。駐車するところ探しますから」
オレたちの車は辺りをゆっくり巡回していた。その間にオレは車窓から外をぼんやりと眺めていた。
すると、どうやらここには建物が2つあるみたいだ。片方は多くの観光客で賑わう、まあ言わば本館といった所で、もう片方はこじんまりと本館の陰に隠れた形で、言わば別館が存在している。
なんとかゴースキンは駐車スペースを見つけ、そこに駐車を試みる。
「多分免許取って以来初めてですよ。縦列駐車するの」
「にしては、上手いなぁ。センスあるよ、ゴースキン」
「褒めても何も出ませんよ」
露骨に嬉しそうな顔を見せる。ゴースキンという人間は思ったよりわかりやすい人間なのかもしれない。まあ、今の段階で結論づけるのは尚早か。
駐車は無事終わり、オレたちは車から降りた。
「それにしても、結構な人だなぁ」
オレたち以外にも40人ほどの人がいた。人数的にはそれほど多くはないが、大聖堂1つに対してでは割と圧迫感があるものである。
「大聖堂の前で写真撮りませんか?」
「ま、まあいいけど」
陰キャのオレと違って、どうやらゴースキンはSNSたるものに精通しているらしい。
ゴースキンはこの大聖堂の職員と思われる女性に声をかけた。
「ちょっとすいません。写真撮ってもらえませんか?」
「あっ、いいですよ」
女性は快く頼みを受け入れてくれた。
「いきまーす! はい、チーズ!」
『パシャ』というシャッター音と共に、まだ昼だというのにフラッシュが光った。
「あっ、すいません! もう1枚撮りまーす。はい、チーズ!」
今度は普通に撮れているようだった。
職員の女性は写真を撮りなれているようであった。というよりもこうした頼みを聞きなれているようであった。
「どうも、ありがとうございます」
「中もゆっくり見ていって下さいね」
ついにオレたちは大聖堂の中へと足を踏み入れた。
「うわぁ」
目の前には美しい西洋風の建築が広がっている。またフレームに収まりきらないほどの巨大な柱が中央の大通路を挟んで、左右に並んでいる。手前には何列にも亘って、横長のイスが広がり、物凄い奥行きである。一番奥には美しい光で包まれた祭壇らしき建造物が輝いている。
この神聖な場所で、ある人は祈りを捧げ、ある人は景色に見とれ、ある人は居眠りをしている。
「私たちも座りましょうか」
「そうだな」
オレは比較的奥の方のイスに座り、ぼーっと目の前に広がる景色に見とれていた。するとかなり前の方に1人ポツリと座っている少女の後姿が目に入って来た。
少女は全体的に少しみすぼらしい格好をしており、なにより不思議なのが、1人だったということである。オレはしばらくの間、少女の後姿を眺めていた。決してそういう目では見ていない。
すると少女のもとに1人の牧師と思われる人が近づいていった。
「ノア、時間です。こちらに来なさい」
静かな大聖堂の中で微かに聞こえた牧師の声。
その後、少女は牧師について行った。その表情はどこか暗かった。
牧師の娘なのか? 誘拐、監禁の類か?
いろいろな憶測が頭の中を駆け巡る。
オレはそう心配しつつも、目を閉じて再び自分の世界へと入った。
しかし目を閉じていても、少女のあの表情が頭から離れない。
昔ならまだしも、今なら力がある……
少女を救うことができるかもしれない……
その後もオレの妄想は尽きることはなかった。
「そろそろ行きますか。ソウタさん」
オレの妄想タイムは終わりを告げた。
凡人の外来王《アウェイキング》 権兵衛 @gombe
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