「Re:mote」
有理
「Re:mote」
リモート飲み会をする男女。
佐藤翔真 :今週末彼女にフラれた男
(さとう しょうま)
潮見由実 :彼氏いない歴=年齢の女
(しおみ ゆみ)
(名前のみ登場)
今永貴之 :エリート物件
(いまなが たかゆき)
前田あや :浮気した元彼女
(まえだ あや)
…………………………………………
由実「もしもーし。」
翔真「もしもし。」
由実「お、久しぶりー」
翔真「そうでもないだろ。」
由実「いや久しぶりだよ、最後に会ったのいつだっけ?」
翔真「先月駅で見かけた。」
由実「一方的じゃん。それ会ったって言わないでしょ」
翔真「そう?じゃあこれもまだ会ってないんじゃない?」
由実「まあねー。このご時世だもん。気軽に会えなくなりましたねー。」
翔真「リモート飲み会とか俺はじめてやるわ。」
由実「え?そうなの?流行ってんのに!」
翔真「流行りにとりあえずのる誰かとは違うんでね。」
由実「とか言って下戸の翔真くんは何飲んでるのかな?」
翔真「タピオカだよ。流行ってんだろ。」
由実「あれれ?流行りにとりあえずのる誰と違うんだっけ?」
翔真「TakeEatsで半額だったんだよ。」
由実「現金な奴め。」
翔真「あれ?由実は何飲んでるの?」
由実「白ワイン!先週今永に貰ったの。」
翔真「今永って、貴之?」
由実「そうそう。職場隣なんだよねー。出社日に先月誕生日だったろーってくれたの。」
翔真「あ、誕生日だったの?」
由実「そうですー今年も無事に歳を重ねました。」
翔真「それはおめでとうございましたね」
由実「こりゃどうもー」
翔真「にしても今永マメだな。よく覚えてんね。」
由実「私もびっくりしたよ。」
翔真「気でもあるんじゃない?」
由実「は?誰に?」
翔真「お前にだろ。この話の流れからいってさ。」
由実「はーいやーそりゃないわ」
翔真「そういうもんかね。」
由実「そういうもんよ。」
翔真「お前、ラッパ飲みするのやめろよな」
由実「グラス出すの面倒じゃん。私しかいないんだし。」
翔真「俺見てるじゃん。」
由実「翔真じゃん。」
翔真「は?」
由実「まあまあ、今日は君を励ますために集まったわけだし!無礼講よ!」
翔真「いろいろ間違ってると思うぞ。」
由実「さあさあ!聞きましょうか!聞いてやりますとも!ほら吐き出してごらんなさい!」
翔真「懺悔室じゃないんだから。」
翔真「ったく。メッセージでも言ったろ。別れたんだよ。」
由実「だいぶ長く付き合ってたよね。6年?だっけ」
翔真「今年で8年な。来月で。迎えなかったけど。」
由実「はー長いわー。でもなんで?同棲するんだーって言ってたじゃん?私そのまま結婚するんだと思ってたよ。」
翔真「俺も。そう思ってたよ。」
由実「翔真がフラれた立場なのね。」
翔真「まあね。」
由実「んで?なんで?」
翔真「あや、浮気してたんだってさ。」
由実「わお」
翔真「俺全く気づかなかった。」
由実「いつから?」
翔真「なに?浮気が?」
由実「そう。」
翔真「驚くぞー。」
由実「勿体ぶるとこじゃないでしょーが。」
翔真「3年前からだそうだ」
由実「っ…」
翔真「な!驚くだろう!俺も絶句したよ」
由実「元カノにも引くけどあんたにも引いてるわ。そんなに長いこと気づかないもんなの?」
翔真「気づかなかったんだよなー。」
由実「冷め切ってたってわけじゃなかったんでしょ?」
翔真「俺はね。俺は思ってなかったよ。」
由実「それで?なんて言われてフラれたの?」
翔真「抉るねー。」
由実「吐いた方が楽になるんだって!」
翔真「何考えてるのかわかんない。」
由実「何?」
翔真「だから、何考えてるのかわかんないって言われたの。」
由実「まあ、翔真顔に出にくいからね。」
翔真「そうかな。でも8年だろ?もっと言うタイミングあっただろうし、今更って感じだったよ。」
由実「そりゃあね。」
翔真「まあ、もういいんだ。」
由実「翔真がそれでいいならいいけどさー。揉めなかったの?」
翔真「揉めなかったねー。」
由実「はー。大人だね。」
翔真「大人子供っていうか。もう怒りもしないよ。情けなくてさ。」
由実「え?情けない?」
翔真「情けないだろ。8年も一緒にいて、その内3年間は俺のこと見てなかったんだよ。それに全く気付かなかったなんてさ。」
由実「うーん。」
翔真「自信なくすって。」
由実「前田ロス。」
翔真「おい。真剣に言ってんのに。」
由実「たしかにさ見直すことは必要なのかもしれないよ。でもさ、自信なくすことはないじゃん。」
翔真「浮気されたことよりさ、気付かなかったことがショックなんだよ。」
由実「浮気ってさバレないようにするのが前提でしょ。」
翔真「お前まじか。」
由実「え、いや、私はしないよ!」
翔真「今ぞっとした。女性不信なりそうだった。」
由実「私前田さんのことよく知らないしさ、私と同じ考えなのかはわかんないけどさ。刺激が欲しかったんじゃないの?最初は。ほんの出来心で。」
翔真「出来心ねー。」
由実「そしたらさ。つい、ついよ。戻れないとこまでいっちゃったっていうか。でも長く付き合ってるからこそ翔真にも愛着あってさ、言えなくて悩んでたんじゃないかな。」
翔真「遊びが本気になった的な?」
由実「私にとっての浮気の定義ね。実際したことないから分かんないけどさ。」
翔真「あーあ。俺、結婚するって思ってたのになー。次のクリスマスにでもプロポーズしようかとか妄想してたのになー。」
由実「意外とロマンチストなんだね。」
翔真「そりゃあ。8年の責任もあるからね。」
由実「元気出せとは言わないけどさ、落ち込みすぎないことよ。」
翔真「ショックだけど終わったのにいつまでも引きずってんのもね。ダサいよな。」
由実「ダサいとかじゃなくて!何事も前向きよ!たまに俯くのはいいけどさ、後ろ見たまんまじゃ事故っちゃうでしょ。」
翔真「もう事故ったんだって。満身創痍。」
由実「そうだったわ。」
翔真「にしても、お前。浮いた噂ひとつ聞かないな。」
由実「浮く噂がないもん。」
翔真「いないの?彼氏」
由実「いないね、彼氏」
翔真「作る気がないわけ?」
由実「うーん。」
翔真「それこそさ、今永は?よく交流あるなら近場にしてはいい物件だろ。」
由実「まあねー。大手企業で若くして部長補佐よ。駅前徒歩5分、2LDK新築家賃4万くらいの高物件よ。今永は。」
翔真「狙ったら?狙われてんだし。」
由実「狙われてないって。」
翔真「でもさ、茶化してるとかじゃなくて普通そんなに仲良くもない女の誕生日なんて覚えないと思うぞ。」
由実「そういう男心は知らないけど。あんな高物件怖くて手は出せません。」
翔真「悪い噂聞かないし、いいんじゃないの?いい歳だし俺ら。お試しでーってさ。」
由実「いいって言ってんじゃん。」
翔真「ムキになんなよなー。」
由実「ムキになってるとかじゃないよ。」
由実「あー。私さ、好きな人いるんだわ。」
翔真「へー。初耳。」
由実「言ったことないもん。」
翔真「恋愛興味ないもんだと思ってた。」
由実「ずーっと片思いしてんの。こう見えて。」
翔真「そりゃあ、尚更意外だわ。」
由実「ずーっとよ。ずーっと。中学の時から。」
翔真「…純愛だね。」
由実「でしょ。」
翔真「…告白しないの?」
由実「…今更って感じよ。タイミングない。」
翔真「憧れの人って感じ?」
由実「いやー。もう近すぎるっていうか。結構連絡とったりとか、会ったりとかすんのよね。だから今更って感じなの。」
翔真「言わないつもりなんだ。」
由実「言わない、つもり。かな。うん。」
翔真「あのさ…そいつって、もしかして…」
由実「なに?」
翔真「…俺、だったり、する?」
由実「…は?」
翔真「いや、だってその、お前とは中学から一緒だし、連絡も結構とってる方だしさ。」
由実「…。」
翔真「今更…って、感じだろ。」
由実「…自惚れだぞ。」
翔真「へ?」
由実「あー。たしかにね。でも、そっか。話の流れからいったら。そうね、そうなるか。普通。」
翔真「待って俺、今すっごい恥ずかしいことしたじゃん。」
由実「いや、普通はそうだわ。ごめんごめん。私翔真以上に連絡とってる中学からの仲良い男いないわ。」
翔真「あーあ。泣きっ面に蜂。」
由実「あー。その多分普通じゃないからさ、私」
翔真「普通ってなに。」
由実「普通この流れからいって、あんたが好きですーって終わるのがよくある美談でしょ。」
翔真「まあね。」
由実「…私さ、女の子が好きなんだよね。」
翔真「え。…そうなの?」
由実「うん。」
翔真「…初耳。」
由実「そりゃそうだよ。初めて他人に言った。親も知らないんだから。」
翔真「…俺に言ってよかったわけ?」
由実「だって、あんたがあんまりにも落ち込むからさ。言っちゃったよ。つい。出来心。」
翔真「…あー。でも、まじか。びっくりだわ。」
由実「ひいた?」
翔真「いや、ひかないけど。」
由実「ふふ。」
由実「私さ、その子とめちゃくちゃ仲良いの。こんなご時世になる前はさ毎月会って、ただダラダラ喋ってお茶してさ。」
翔真「辛くないの?」
由実「辛いっていうか、結婚してるんだよね。彼女。もう本当に。本当に今更って感じ。一周回って笑えるよね。」
翔真「強がんなよ。」
由実「なんだよ。私まで失恋会に入れるなよ。」
翔真「だってさ。」
由実「でもね、私さ。前向いてんの!ちゃんと。さっきあんたにも言ったけどさ。たまには思い出して俯いちゃうけど、前向いて付き合ってんのよ。」
翔真「…強いな。お前。」
由実「強いよ。どんだけ長い片思いしてると思ってんだ。」
翔真「あー。でもなんか。びっくりして、あやのこと一瞬飛んでったわ。」
由実「あ、やっと笑った。」
翔真「おかげさまで。」
由実「その笑顔のためだと思えば、まさかのカミングアウトした甲斐があったよ。」
翔真「そりゃあ、高物件に目が眩まないわけだ。」
由実「駅まで徒歩30分、築30年1Kの恋愛で満足してんのさ。」
翔真「なんてとこ住んでんだよ。」
由実「味があるってもんよ。」
翔真「はは、お前らしいか。」
由実「はー。言う気なかったのにな。」
翔真「お互い、失ったな。」
由実「一緒にするな。重みが違う。」
翔真「俺のが重いって?」
由実「いや、私のでしょ。」
翔真「これは、会って飲んでたら会計ジャンケンしてたな。」
由実「ふふ、たしかに。」
翔真「落ち着いたら、また飲みに行こうな。」
由実「駅前の焼き鳥屋!ビール半額デーに行こう。」
翔真「いいよ。」
由実「ん。」
由実「じゃあ、縁もたけなわではー」
翔真「いいからそれ。」
由実「なによー。じゃあ、もう一本…」
翔真「今日はとことん付き合ってやるよ。」
由実「お?じゃあお言葉に甘えて!」
翔真「ほら、二次会な。乾杯。」
由実「まだ飲んでないの。タピオカ。」
翔真「腹にたまる。」
由実「なんだそりゃ。あい、かんぱーい!」
end
「Re:mote」 有理 @lily000
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