無人島

ぼんぞう

無人島

 ある客船が、海で沈没してしまい、辛うじて3人の男達だけが無人島に流れ着いて命拾いをした。一人は、ハーバード大学の教授であるクリス、一人はコンピューター関連会社の社長をしているロバート。もう一人は駐車場の管理人をしているポールだ。


 3人は、船や飛行機が通りかかる度に、大声を上げて手を振ったり、火をおこし煙を出すなどして何とか助けを求めてみたものの、何の効果もなかった。

 それでも、男3人喧嘩をすることもなく仲良く暮らしていた。食料は、島に生息する木の実や果物が豊富にあったので、それを食べたり、時々魚を捕まえたりもしていたので不自由はなかった。いつしか3人は、自分達のいる島が楽園のように思えて、家へ帰るより一生ここで暮らすのも悪くは無いとさえ感じ始めていた。


 そんなとき、3人は砂浜にビンがうちあげられているのを見つけた、ロバートがそれを拾い上げ中を覗くと小さなメモ用紙が入っていて、そこに、あなたの願いが叶います。と書かれてあるのが見えた。ロバートは、舌打ちして「誰だ!つまらんイタズラしやがって」といって、そのビンを海へ投げ捨てようとしたそのとき、クリスがその手を反射的に掴んで、「まー待て、イタズラに付き合うのも悪くないじゃないか」と、ロバートの手からビンをするっと抜き取り、もう一度あらためて中を確かめるように日の光にかざして見たあと、ゆっくりと栓を抜いた。するとメモ以外に、何も無いと思われていたビンの中から、黒い煙がモクモクと出てきたではないか。クリスはびっくりして持っていたびんを手から離してしまい、ビンは煙を噴き出しながら、砂浜に落ちた。次の瞬間、黒い煙は大きな魔人の姿に変わった。


 3人はあまりの恐ろしさに、その場にへたり込んでしまったが、以外にも、魔人はとても丁寧な物腰と落ち着いた聞き取りやすい声で、こう言った。「あなたがたは、大変幸運です。なぜなら、私が、今からあなたがた一人ひとりの願いを一つだけ叶えてあげるからです。不可能なことはありません。どんな願いでも叶えて差し上げますよ。ただし、一人一つだけです」そう言うと3人の返事を促すように両手を広げてみせた。

 すると気を取り直したクリスが、すかさず「ハイ、私を自分の家に帰らせてください」と、そんなに大声を出さなくても聞こえるだろうというような声で叫んだ。すると魔人は子供に風船を渡すピエロのような優しい笑顔で「お安い御用です」といって指先で宙に円を描くようにしてみせた。すると、クリスの姿が一瞬にして消えてなくなった。これを見たロバートも「ハイ、ハイ、私も自分の家に帰してください。お願いします。」と興奮して叫ぶと、魔人は、先ほどと同じように手を動かした。するとまたもや、ロバートの姿も消えてしまった。そして、魔人は、一人残ったポールを見ると、「さあ、残りはあなただけです。何が望みですか。どんなことでもあなたの望むことをおっしゃってください。私が、叶えてあげましょう。」ポールは数秒考えてから魔人に、こう言った。「一人ぼっちで、ここに暮らすには、あまりにも淋しいので今消えていった二人の友達を返してください。」

 魔人は、またニコやかに「ハーイ、お安い御用でございます。」と言って同じように手を動かすと、先ほど消えていなくなっていたクリスとロバートがもとに戻ってきた。

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無人島 ぼんぞう @hioki5963

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