第2話 異世界
戦闘服と一本のナイフ。確かにかっこいいけど、嫌な予感しかしない。キリエからもらった食事をとる。温かいスープで、中には肉に、キャベツ、玉ねぎなどが入っている。飲んでみると、おふくろの味というかなんというか、とても安心する味だった。
「こんな世界でも食べるものはあんまり変わらないんだな。」
またもや独り言がこぼれる。話し相手がいない以上、自然と独り言は出てくるものだ。まあしょうがない。一人なんだから。そして食事を済ませ、いよいよ、部屋の扉を開ける。扉を開けた瞬間、部屋との気圧差のせいなのか、涼しい風が扉の隙間から入ってきて俺の髪を揺らした。そして扉を開け切ると、そこには、どちらかというとヨーロッパに多い石造りのオシャレな家がいくつも立ち並んでおり、ちょうど扉を開けた前には広場があり、その中心に噴水が設置されていた。円形になっている噴水の淵は椅子のようになっていて、いかにも憩いの場という感じだった。そして、よく見るとそこにはアグネスが座っていた。彼が自分に気が付くと、
「お待ちしておりました!それにしてもよくお似合いだ。黒を基調とした戦闘型コーデとでも言いましょうか。よくお似合いですよ。」
「あぁ、あ、ありがとうございます。でもなんでこんな戦闘型の服を?」
「そりやぁ、マーロ様からこの服を持って行けと、指示をされたものですから。まああなたも大体察しはついていると思いますが、詳しいことは、二人そろってからお話いたします。」
そう言ってアグネスは少し足取りを速めた。そんなに重要なんだろうか。とりあえず早く光彦に会いたい。話は言われたとうり、後で聞けばいい。キリエの様子からみて光彦も命の危険があるというわけではなさそうだ。でも、どちらにしろ早く会いたい。そんな気持ちで、俺も足取りを速めた。
「到着しました。こちらです。」
アグネスが扉をける。だが、俺は言葉を失った。そこには一人の青年がベットに腰かけていた。髪は銀色で、瞳は鮮やかなグリーン。顔も整っていて、割とイケメンだ。服装はというと、真っ白なコートに、腰には革製のベルトがしてあって、そこには二本、長物のナイフを差している。柄は銀色で彫刻が施されている。
にしても、全くの別人だ。光彦の面影すらない。どういうことだかさっぱりわからなくなり、俺は少しパニックになった。しばらく俺が唖然としていると、銀髪の青年が口を開いた。
「えっと、こいつは?」
「あなたの親友です。あなたには訳の分からないことかもしれませんが、これ以上のことは、ここではお話できません。王宮に行き、マーロ様に会えばすべてがわかります。」
「は?どういうことだよ。」
アグネスは黙っている。
「ちょっと待ってくれ。俺たちのことについて何か知っているんですか?」
「はい。ですが今申したようにここではお話することができません。どうか、王宮へ行くまで我慢してください。」
「話すことができないというのは?」
「秘密事項ということです。こんな壁の薄い小屋で話していいことではありません。」
「わかりました。じゃあ早く王宮に行きましょう。俺もこの状況について、わからないことが多すぎる。王宮に行けば教えてくれるんですよね。」
「もちろん。」
俺が素直にアグネスの言うことを聞いたのには理由がある。秘密事項と言っている以上、王宮に使えている戦士が簡単に口を開くとは考えずらい。なら、指示に従って、王宮に行き、マーロ様に会って、今の状況について聞けば、ここで粘るよりも、少なからず早く情報を得られる。そう思ったからだ。
すると、青年も俺の考えと同じことを考えてたらしく、そう言うことならと、アグネスの指示にしたがった。
「ご理解していただき、ありがとうございます。外に飛竜を待たせていますので、それで移動を。」
飛竜だって?そんなの転生物のラノベでしか聞いたことがない。まあとりあえず、見た方が早いだろう。そして、アグネスと青年と一緒に部屋を出た。そして小屋の裏へまわると、・・・いた。黒い体には、足が四本生えていて、鋭いかぎ爪が生えている。翼は大きく、羽をたたんでる状態でも、片方だけで5メートルはある。広げたら、10メートルはありそうだ。
「では、お乗りください。王宮までお運びいたします。」
背中には鞍がついていて、最大で4人は乗れそうだった。まずアグネスが最初に乗り、俺と青年は、アグネスの手をつかみ、後ろの鞍に乗った。飛竜翼を広げたかと思うと、「バサッ!」とはばたく音がして、俺たちは一気に飛び上がった。こうしてみて見ると、かなり大きな町だ。それだけ栄えているということなんだろう。町だけでもこんなにでかいのに、国を創るマーロ様は一体何者なんだろう。いや、今は自分の問題に集中しよう。
「もう少しで着きますよ。ほら、あそこに見えるのが、わが国ディルへビアの王宮です。」
見るとそこには、上空から見ても十分大きな白い城があった。一番上の屋根には、何かのシンボルがあり、太陽の光を浴びて、白く輝いていた。周りには円形の湖があり、城をかこっている。おそらく城の安全を考慮してのことなんだろう。船はわたっているものの、他に町と城をつなぐ道はなく、船と飛竜のみが王宮へ行ける唯一の手段となっていた。
「さ、着きましたよ。どうでしたか?空の旅は。」
「ええ。とても気持ちよかったです。ありがとうございました。」
銀髪の青年も、
「ああ、最高だったぜ!空飛んだのなんて初めてだったしな。」
「それはよかったです。いずれお二人もご自分で飛竜に乗る日がくるので、そうすれば、いつでも乗れますよ。」
自分で乗る日が来るだって?どんな前提で話をしているんだこの人は。まったく、さっきからわけのわからないことばかりだ。そんなことを思いながら、城の中層部についている、なんというか・・・、ヘリポートの飛竜版みたいなところに、飛竜を鎖でつなぎ、俺たちは扉へ向かった、廊下をしばらく歩いていくらしいが、廊下のまた豪華なことで。まあ城だから当たり前なのかもしれないが、天井からはシャンデリアが垂れていて、壁には数々の彫刻が彫られており、どうも、戦っている様子を描いたもののようだ。そして、床には真っ赤なじゅうたんが引かれており、扉に向かって一直線に伸びている。そして、扉の前まできた。扉もかなり豪華で、白い扉に金の装飾が施されている。そして、アグネスが扉を開けた。開けた先には、体育館くらいの空間が広がっており、赤いじゅうたんが奥まで続いていた。そして、そのじゅうたんの行く先には、大きな王座のようなものがり、そこには、大きさ間違えたんじゃない?と思うほどの、小さな少女がちょこんと座っていた。
「まさか、あれがマーロ様ですか?」
「なんだ。ちびっこじゃ・・・」
銀髪の青年が言葉を発し終わる前にアグナスが彼の口に指をあて、首を横に振った。どうやら、口を慎めと言いたいようだ。この銀髪、案外顔とは裏腹になかなかワイルドな性格らしい。そして、アグネスが、スタスタと歩いていき、少し遅れて、俺たちも後をついていく。
「マーロ様、御二人が到着いたしました。」
アグネスは膝をつき深々と頭を下げてそう言った。
「面を上げなさい。あなたはもう下がっていいわ。」
「御意」
アグネスはそう言って、元来た扉へ歩いていった。一つ不思議なのは、国王ともなれば、お付きのものが、数名いるはずだが、どこを見わたしても人の姿はない。完全にこの小さな国王、マーロ様と銀髪と俺の三人だけだ。だが、これで今の状況について情報が手に入る。早く話が聞きたい。
「さて、まず最初に聞くわ。あなたち戦いは好き?」
「は?」
二人そろって返事をしてしまった。
「だから、戦いは好きかって聞いてるのよ。国王に向かって失礼ね。」
なんだこの国王。妙に生意気だし、体が小さいのもあって、なんというか、すごく生意気に見える。
「あの、俺はあんまり戦いは好きじゃないです。そもそも、殴り合いとかもしたことないですし。」
「俺は好きだぜ!男ならやっぱ強くねーとな!」
「そこの銀髪。戦いが好きなのは結構だけど、その態度を何とかなさい。消すわよ。」
よく見れば、先まで膝をついて、話を聞いていたと思ったら、膝を崩して胡坐をかいている。困ったものだと思うが、今はとりあえず話を聞こう。
「それで、まあ、あなた達が戦いが好きだろうが、好きじゃなかろうが、私の命令には従ってもらうんだけどね。」
「強制ということですか?」
「そのとうりよ。まあ、あなたたちの服装で少しは察しがついてるとは思うけど、あなたたちにはディルへビアの戦士として働いてもらうわ。でも、ひとつ勘違いしないでほしいの。戦士と言えども、自ら戦争を起こすのではなく、あくまでも、他国からの攻撃を防ぐための防衛よ。自ら戦争を起こしたりすれば、私が140年間平和を維持している意味がなくなってしまう。わかるわよね?」
「はい。」
「おう。」
この銀髪は相変わらずだ。だが、国王の方は、ただの生意気な少女というわけではなさそうだ。しっかりと国の安全を考えているし、言葉一つ一つに執念のようなものを感じる。俺に魔眼のようなものは当然備わってないが、なんとなく凄いのはわかる。銀髪も態度は変わっていないが、それなりに話は聞いているようだ。
「実際断れば、あなたたちはそのままお陀仏よ。あなたたち事故の時の記憶はあるかしら?どうやら銀髪には記憶がないようだけど。」
なんだって?記憶がない?ということは、この銀髪が光彦の可能性も十分にあるということだ。確かアグネスさんは俺から少し離れたところに倒れていたと言っていた。あの事故の時、光彦も巻き込まれていたとしたら、... あり得る。
「そろそろ。気づいたかしら?」
俺はマーロ様の目を見た。マーロ様も俺の言いたいことはわかったらしく、軽く頷いた。
「そう。銀髪にはわからないだろうけど、あなたの察しのとうり ”転生” したのよ。」
うすうすそれしかないと思っていたが、やはり他人から言われると実感がわく。でもどういう理由なんだろう。
「あの、なんで俺らを転生させたんですか?」
「それはあなた達がかなりの魔力を秘めているからよ。私は、この魔眼で別次元の世界を見ることができる。もとからあなたたちのことはマークしてたけど、死なないと当然転生はできない。でも不幸中の幸いで、あなたたちが事故にあい、死んだから、この世界に転生させてあげたってわけ。魔力に関しては、人間界では覚醒しないだけで、この世界では、自然と魔力は表に出てくるわ。あと、すぐにあなた達を使いたかったから、年齢は16歳くらいにして、町の川沿いに放っておいたのよ。まああなた達の実年齢もほぼ同じだから大差ないわよね。」
なるほどね。戦士にならなきゃ、お陀仏という意味も、要は転生させなければ文字どうりお陀仏なのだから。まあ死ぬくらいなら、この世界で生きたい。なんたってまだ16年しか生きてないのだ。こんなところで終わってはさすがにまずい。
「ということで、あなたたちの名前は確か・・・、あ、篠影悠と酒倉光彦、だったわね。でもさすがにこの世界じゃその名前は合わないわ。そうね・・・決めたわ。まず、あなた。
「俺か!」
「銀髪、あんたじゃないわよ。」
「そう、あなたの名前は、ネークス=コルライド。そして、銀髪は、ラークス=ハルラード。あなたたちはこれから一生この名前を使いなさい。名誉なことよ~。この国王に命名してもらったんだからね。感謝なさい♪」
さて、今後どうなるかはわかったもんじゃないが、とりあえず言っておこう。
俺、篠影悠ことネースク=コルライド、酒倉光彦ことラークス=ハルラードは16歳にして、転生しました ━。
突然転生したら異世界の戦士に!?主人公二人の異世界バトル冒険物語 マナル @tktk3765
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