下校
秋の夕暮れ、家のベランダで洗濯物を干していると、下校中の小学生の騒がしい声が聞こえてくる。
赤や青などのカラフルな色のランドセルをボンボンと背中で激しく跳ねさせながら、歩道を走って帰っていく。
彼らの無邪気な笑い声も、その女にとっては煩わしいものでしか無かった。
女は、かつては無類の子供好きであった。
自分の娘を愛していた。
しかしながら一年前のあの事件以来、娘が小学校で起きた火事に巻き込まれて死んで以来、女は子供が嫌いになった。
娘と同じくらいの年頃の子供の声を聞くたびに、死んだ娘を思い出せずにはいられなかったからだ。
そこで女は策を練った。と言っても見た目は単純な脅しだったが。
女は正体が割れないように変装をし、夕方の薄暗い時間に東小学校の生徒が独りで帰ってくるのを待った。
そして生徒がやってくるや否や、
「下校中は静かにしろ」
と怒鳴りながら生徒のランドセルを掴み、左右に激しく、生徒の体ごと揺すった。
衝撃に耐えかねて生徒が転んだところで、女はそそくさとずらかった。
これを一週間続けた。
一週間後、女は東小学校の前にあるカフェで紅茶を飲みながら、校門を眺めていた。ちょうど生徒たちが下校する時間帯だった。
自分のやった行為が噂になり、小学校側も対策を講じていた。例えば下校路にはある程度の間隔をおいて先生が立っていた。
また、低学年の子や女の子に多かったのだが、彼らの片親が子供を迎えにきていた。
それからしばらく女は校門を眺め続けた。そしてある親子に目が止まった。母親とその娘だろう。
母親はタイトスカートのスーツ姿で化粧は薄め、髪は肩につくぐらいの長さで切りそろえられていた。彼女こそ、一年前のあの火事の時、娘の担任をしていた教師だった。
あの時、娘を見殺しにした女だった。
名前は佐藤と言った。佐藤は少女と手を繋いでいた。女はガラス越しにその少女をじっくりと観察した。その体型と特に顔を覚えるまで凝視した。
そして、女は顔に悪意に満ちた笑みを浮かべてこう言った。
「やっと見つけた」
そして女は冷めきった紅茶を一気に飲み干し、店を出て行った。
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以下作者コメント兼ネタバレ
いかがでしたでしょうか。
この母親が何故下校中の小学生を脅して回ったか、皆さんわかりましたか?
もちろん「下校中の生徒を黙らせるため……」
ではないですよ(^^)/
もし良ければ、クイズ感覚でこの母親の真意を今、立ち止まって考えてみてください!
下に答えを書いておきますね!
え〜突然ですが、皆さんの学生時代に同じクラスに同じ苗字の人っていましたか?
私のときはいましたね〜 鈴木っていう苗字の人が三人もいました!
ですので「鈴木さん」と呼んでも「どの?」って感じになっちゃってました!
あっちなみに日本で一番多い苗字は佐藤だそうです。
主人公の母親は娘を学校での火事で亡くしました。それが原因で当時の娘の担任の佐藤さんを逆恨みして、復讐しようと企てていました。
具体的には娘を奪ってやろうと考えたのですが、ここで問題が生じます。
佐藤さんの娘さんが通う小学校には複数の佐藤さんがいたのです。
よって誰が標的の佐藤かわからなかったんですね。
そこで、下校中の生徒を脅してわざと親に送り迎えさせ、娘を特定したというわけです……
いや〜なかなか頭が切れる母親ですね!
狂人の智慧 如月冬樹ーきさらぎふゆきー @kekentama
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