mudai

鯖の水煮大好き

第1話世界からの墜落、そして絶望に着く

後ろを見ては駄目だ。本能的にそう思った。

もし見てしまえば心が折れてしまいそうだから。

あの異形。頭の隅にこべりついて落ちない悍ましき肉片のような怪物。もう一度見てしまえば、もう前には進めない。恐怖で身も心も逃走を諦めてしまうだろうから。

今だって足が、身体が震えている。

必死になって地面を踏む。瓦礫がそこら辺に落ちていて

草木は枯れている。生命の存在が否定されている、そんな地面を。

後ろからは絶えず音が聞こえてくる。

人が出す足音ではない、そんなか弱い可愛らしいものではない。歩く度に地が揺れる、その暴力的な轟音に耳が穢される。間違いなく追いつけれたら破壊される。

この身すべてを。死が私を追いかけて、捉えようとしている。

何が悪かったのだろう、私はこんな目に遭わなければいけないようなことをしていたのだろうか。

いいや、そんなことはない。ただ普通に生きていたはずだ。

ごく一般的な高校生活を享受していたはずなのだ。

なのに、なのに何故?


帰り道、途中まで友達と一緒の帰り道を辿りそこから各々の家に帰るために別れた。

そうして5分も歩いていなかったはずだ。

ちゃんと歩いていた、歩きスマホはしていたかも知らないけど。ちゃんと歩道を歩いてもう少しで家に着くはずだった。

最後の曲がり角を曲がった、その瞬間嫌な風が吹いたんだ。

生ぬるい気持ちの悪い風。身体を舐めるようにそれが後ろに通っていて、あんまりに風が強いから目を瞑った。

風が止まない、けども和らいだ。だから目を開けた。

目の前は知らない大地、空だった。

怖かった。しかしまだ疑惑だった。幻惑を見ていると思った。ふと後ろを振り返った。特に意味は無かった。

脳が考えるのを止めた。理解を諦めた。

私の視界が映したのは巨大な怪物。

肉片に手足が生えた、異形な、その姿を認めてしまえば

もう日常には帰れない。

脊髄反射だった。脳みそが命令する前に身体が前に振り向いて足が前に出た。今までに無いほどに手を振った。


思い返しても理不尽でオカシイ。どうにかなっているし

どうにかなってしまいそうだ。

はやく帰りたい、悪夢なら直ぐに冷めて欲しい。

同じ作業、走ることを続けていたからか、余裕が出てしまった。考え事なんてしている場合ではないのに。

いやこれは現実逃避だろう。どうしようもない思考の迷路にはいってしまっていた。

だからどうしようもなかった。目の前の瓦礫に気がつけなかった。足が引っかかって転んだ。

立ち上がることはできなかった。限界が来ていた。

呼吸が体力的にも恐怖による精神的にもおかしくなっていた。足が痙攣している。結局時間の問題ということか。

地面の揺らぎが強くなっている。近くなっている、あの恐怖と破壊の象徴。日常の殺し屋が轟音とともに来ている。

なにを思ったのか顔を上げて後ろを見てしまった。

いつ来るか分からない恐怖に負けたのか。自分の死のタイミングを知りたかったのか。

瞳に映る化け物の姿が。

何かを囁いている?耳を澄まして聴こうとして後悔いした。

理解はできない、しかしそれは精神を犯してくる。

吐いた。余りにも悍ましくて。

再度顔を上げた頃にはもう私の身体は奴の影に埋もれていた。肉片の真ん中が裂けた。あれがこの化け物の口?

もう気を保っているのが奇跡だった。

声はよって、その異形によって精神が摩耗されて削り取られているのだ。

口が近づく。笑っているようにも見えるその異端な口が

大きく開く。牙が見えて死を感じた。

死を受け入れた影響か、一週廻って余裕が出来た。

とっくの前に濡れたのだろう、股の違和感に今更気づいた。目を敢えて背けなかった。

もう、生に縋る気はない、死と抱き合うつもりで

肉片の口の中に入って、私は・・・。


バラバラに砕け散った。

私ではない。怪物だ。さっきの姿が嘘のように

スライスされた。サイコロステーキのように細切れになった。

当然理解は出来ない。大分前に私の脳は職を辞めた。

考える器官はもう無かった。

意識が遠のいた。もう現実を見ることは出来なかった。



泥のような何かが身体にまとわりついてくる。

身体が動かなくなっていって気づけば目の前に

あの化け物の口が、あって、牙が見えて。

飛び上がるようにして身体を起こした。

夢を見ていたらしい。周囲を見渡したが見たことがある

景色ではない。あの体験は悪夢ではなかったらしい。

実際に、足が筋肉痛のような感じで痛む。

あの悪夢が頭でリフレインする、それを遮るように出鱈目に頭を振った。気づくと目の前に人がいた。

男の人が。引き続きの恐怖に後ろにたじろぐ。

もうただ知らない人というだけで恐怖だった。

その男はじっとこちらを見ていた。


「・・・私は貴方の命を救いました。なので貴方には

命一つ分私の役に立って貰います。いいですね?」


「!?」

脳がびっくりしている。あんなことがあって停止していた脳が驚愕の末に痙攣してしまっている・・・ような気がすす。

正論ではある。確かに。だが、いきなり言うものであろうか。しかし驚きは終わらない。


「まず貴方の命の価値を計ります。今から私は貴方の発言の悉くを疑いません。ですので貴方は

年齢、職業、育ち、資産、等の貴方の価値を形成する物を述べてください。」


「・・・。18歳、アルバイトとかは、特に。普通の家に生まれた普通の高校生。」


「他には?なにか無いのですか?貴方の価値を指し示す物は。・・・そうですか。わかりました。」

その男は手に持っているボードに文字を走らせてる。


「計算が終わりました。大体400点くらいですか。

分かりました。では貴方には400点分の仕事をしてもらいましょう。」

そう言って近くの窓際に掛かっていたカーテンを引いた。

そこには先ほどまで走っていた

生気が感じられない荒涼な大地が広がっていた。

そして、あの化け物。肉片がそこら中に点在していた。


「貴方はこれから私とともにあれらを殺す、要は化け物退治

です。その価値分働くまで死なないでくださいね。」


理不尽が潰えて見えなくなったと、そう思ったのに。


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レ○ル○さんのバイオ7とか見てたらなんとなく閃いた短編です。





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