第6話 また、さんにん。その後…

いまだに俺の記憶を埋めてくれない空白。

埋めてくれた関係。

埋めてくれる存在。

俺の横にいる、鮮やかな色。

俺の手を握る、柔らかな未来。

俺にはまだ見えない、微かな光。

これを手放すって、アンタは人生損したな。

これを見る前に逝くなんて、アンタは生き急いだな。

俺は物言わない冷たい石の前で、空の果てのどこかに向かって、無言でそう呟く。

線香の細い煙の前で手を合わせていた艶やかな髪が揺れて、煌めきが俺を見上げる。

「何か言った?」

「ん~…俺のバカ親2匹に。孫見ないなんて、損したなって」

「2匹って。犬じゃないんだから」

「犬って母親社会だろ?雄っていなくなるんじゃなかったっけ?」

「それ、猫じゃない?まあ…どっちでもいいけど。うちには3匹、面倒見なきゃいけないのがいるし」

「うるせー。そのうち社長夫人で、暇がお釣りくるくらいにしてやらぁ」

「期待してるわ、『社長』さん。それまではアタシがアンタとうちの子くらい育ててあげるって」

豪快に笑う、彼女で妻で母親で。


ああ、愛してるよ。

お前も、俺も、息子も、冬に生れる娘も。

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その存在。 行枝ローザ @ikue-roza

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