第3話
ナランハが後ろを向いた時には今にも大蛇に食べられそうだった。
『コード0623:根の剣山』
その瞬間、大蛇の体に何本もの根の剣山が下から突き上げた。
開けた口も根に刺され閉じてしまった。
「お前ら儂の獲物に手を出してんじゃねぇよ」
薙ぎ倒された木々を吹き飛ばして出てきたのはアフダルだった。
「なんだ…!?あのムキムキな爺さんは!?」
「…師範」
「ヴェルデか。人1人助けられないようじゃお前もまだまだだな」
アフダルは2人の前に立った。
彼はヴェルデの師匠であった。
初代アルコバレーノNo.2として新世代のヴェルデに戦闘技術を鍛え込んだのは他でもなく彼であった。
「あ!!ありがとうございます!!であります!!」
ナランハもよろけながらアフダルに向けて感謝した。
「あいつは政府の人間か?」
「…」
ヴェルデはうなづいた。
「…そうか。まぁいい、お前らの帰りを待ってる連中が海岸沿いにいるぞ」
「さっさと合流して帰れ」
アフダルはそう言って、殺した大蛇を持ち去っていった。
「…とりあえず、あいつらと合流するか」
「…」
「そうであります!!自分はもうこんな島ゴリゴリであります!!」
3人は気を取り直し、ヴェルデのマップ機能を使いロート達と合流する事ができた。
「よぅ、ただいまみんな。心配かけたな」
「…!!ネロ!!また勝手にどっか行って!!」
「…すまねぇ」
前と同様、涙目のロートに弱パンチで叩かれていた。
しかし、今回ネロはヴィオレの前までゆっくり歩き、目の前で止まった。
「ごめんなさい。俺はこの作戦について甘く考えてました。今後は軽く他言したり自分勝手に行動しないようにします」
ネロは真剣に正直に謝罪した。
「…私も悪かった。あんな足手まといなんて言って」
ヴィオレも言い過ぎたと思ったのか、ネロに謝り返した。
「…いや、そう強く言ってくれたから俺も考える事が出来たんだ。ありがとう」
「後、みんな。こんな事に巻き込んで…ごめんなさい」
ヴィオレに感謝を伝えた後、次は周りにも謝罪した。
「ガッハッハ!!なんだネロ!!らしくないな!!」
「ネロくんだけじゃないよ!!シィも悪いことしたよ!!」
カルコスとシーニーは笑顔で許してくれたようだ。
「ロートにはいつも心配かけてるな、本当ごめん」
「ネロ…。ううん、ボクも何も出来ないから何も言える資格ないよ…」
ロートは許し紛れに自分の非力さを悔しんだ。
「…彼らはなんか、この島で絆が深まったようだね」
「…」
「ナッハッハ!!自分もあんなチームに入ってみたいであります!!」
アズラクやヴェルデ、ナランハもネロ達を見て何か感銘を受けたようだった。
「みんな!ちょっと言うの遅れちゃったんだけど、今日の昼には帰りの船が来るよ!」
「ブラウさんの船でね」
アズラクはどうやらネロ一行に気を利かせ、公共やオール社の船ではなく、ブラウ漁港組合に連絡していたようだ。
「そういう理由で帰りの船が遅かった!!ということでありますね!!」
本来なら島へ遭難した時点で特急船を呼べば、すぐ帰れたのだった。
「なぁみんな!もうちょっとこの島にいないか!」
ネロが突然皆に何かを伝え始めた。
「この島でどれだけ俺が弱いのかが分かった」
「ヴェルデやアフダルのおっさんを見て、あんな奴らを相手にするならまだまだ力が足りねぇんだ」
「だから、アルコバレーノの人に鍛えてほしいんだ!!」
「ヌゥ!!確かにそうだ!ワシとネロはそのリングとやらの能力は使えん!!ならば、より体術を鍛える必要があるな!」
「ボクも賛成だよ!…せっかくルージュさんの力を引き継いだなら…、それを活かせるようにしたい!」
ネロに感化され、村出身の2人はやる気のようだ。
「はーい!!シィも強くなりたーい!みんなで悪い人倒すんでしょー!」
シーニーもやる気を出していた。
もはやこの島にいる人達には計画を曝け出しても良さそうだ。
「シーニー!巻き込んで悪いが、正式に俺達の仲間になってくれないか?」
「えー?もう仲間だと思ってたよー!よろしくね!みんな!」
今更ながらシーニーも世間に一味の仲間と認知されてしまった。
仲間にする他なかった。
そして4人がヴィオレに顔を向けた。
「…そうね。私たちはまだ弱いと思うわ。ネロの言う通りよ」
そして4人は笑顔になった。
「ただし!時間が限られている中、ただでさえ時間を食ってしまった」
「鍛える期間は2週間よ。その間に精一杯、みんな強くなりましょう」
「「おー!!」」
5人が一致団結し始めたところ、アズラクは申し訳なさそうに口を挟んだ。
「あの…、水を差して悪いんだけど…、僕ら活動もあるし…学校もあるから…」
「戻らないといけないのであります!!」
(自分は何故か無視されてましたが!!)
「…」
アルコバレーノの2人は活動、ましてや学生である為カエルレウムに帰らなければならないのである。
ナランハも同様、政府の仕事がある。
「ヌゥ…!3人がいれば鍛えることも出来たんだが…!!」
「カルコス、大丈夫だ。この島にはアフダルっていう強ぇー爺さんがいるんだよ!」
「アフダルさんに鍛えてもらえるなら申し分ないわね、恐らく地獄のような日々になるけど…」
そんな話をしているうちに、救助船でブラウがやってきた。
「お父さん!!シィ、お父さんの大事な船壊しちゃった!!ごめんなさい!!」
「おう!シーニー!気にすんな!あんなボロ船なんか気にしちゃいねぇ!」
どうやらブラウ漁港組合の従業員が念の為、もう一隻船を運転来ていたようだ。
残りの一隻はネロ達がネグロ火山まで行けるよう、島に残しておく事になった。
「すみません、ブラウさん。私達のためにここまでしていただいて」
「いいってことよ、だけどなヴィオレさんよ。俺の大事な娘だけは守ってくれよ」
ブラウも既にアズラクから事情は聞いていた。
自分の娘も大変なことに巻き込まれている事を。
ブラウたちも危険な立場になってしまったが、彼は会社を守る必要がある。
ならば、娘を代わりに守ってくれるのは必然的にヴィオレ達となっていた。
「はい、必ず…」
ヴィオレはまた責務が増えた。
返答はしたが、手を強く握りしめていた。
その手にロートが小さな手を重ねた。
(ヴィオレさん、もう1人で責任持たなくていいんだよ)
ロートはこっそりヴィオレに伝えた。
そしてネロ達の方へ向いた。
(今はもうみんながいるんだから)
ヴィオレはそれを聞き、微笑んだ。
「ありがとう、ロート。みんな頼りにしてるわ」
いよいよブラウの船はローゼオ港へ向かおうとしていた。
ヴェルデ、アズラク、ナランハがそれぞれ船に乗ろうとしていた。
(ヴィオレさん…実はボク、ヴィオレさんに伝えなきゃいけないことが…)
「おーい!!アズラク!!ちょっと待ってくれ!」
ロートがヴィオレに何か伝えようとした瞬間、ネロの声でかき消された。
「?なんだい、ネロくん」
「そういや俺、お前のアルコバレーノとしての強さ見てなかったんだ」
「だからさ、最後にお前の強さ見せてくれよ!」
アズラクは少し考えた後、答えた。
「分かったよ。でも能力者は他人にそう簡単に力を見せちゃいけないからね、特別だよ?」
そう言ってアズラクはコードを唱えた。
『コード0480:水静栓(すいせいせん)』
しかしアズラクは何も態勢を変えていない。
何も起こっていない。
しばらくすると島の木々奥で地響きするほどの轟音が聞こえた。
「おい!アズラク!?何したんだ!?」
カルコスが急いで音の鳴った場所まで見に行くと、残り1匹の大蛇が泡を吹いて死んでいた。
「僕の能力は水を扱う能力。ヴェルデみたいに迫力のある技は使えないけど」
「静かにターゲットを殺ることはできるよ」
優しかったアズラクが少し怖い顔をした。
しかし、これで分かった。
アルコバレーノというのはNo.4でも相当な化け物だと言うことが。
「あ!!そういえばロート殿!!自分、海沿いを歩いていたらロート殿の荷物を見つけたのであります!!」
続いてナランハが気付いたように、ぼろぼろになった鞄をロートに向けて投げた。
「あっ、ありがとうございます。ナランハさん!」
「良かったわね、ところでロート。さっきは何を言おうとしたの?」
「あ、その…。ごめんなさい、やっぱりなんでもないや」
ロートは結局ヴィオレには何も伝えなかった。
「そう…別に良いけど、助けが必要な事は隠しても意味ないわよ」
「誰かさんの受け売りだけどね」
そして、とうとうヴェルデ達を乗せた船は動き始めた。
5人はカエルレウムに帰る彼らに手を振った。
「みんなー!ありがとう!頑張ってー!」
アズラクは笑顔で彼らを応援した。
「皆様!!ガルセクを倒せるよう祈っておりますぞ!!」
続けてナランハも応援した。
「…」
相変わらずヴェルデは無言である。
しかし、ネロは笑顔でヴェルデを見送った。
彼女は無愛想ではあるが、芯のある強い心を持っている事を知っていたから。
彼らを乗せる船はもう見えなくなっていった。
「さて!みんな!ここからは自分の命を守る為、仲間の命を守る為、強くなるぞ!」
「「おー!」」
Or rings ーオール リングスー 思後 的世(シアト マトヨ) @siato_matoyo
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