回想

「新入生のみなさん、入学おめでとうございます」


 新入生オリエンテーションなんて退屈だな、もう寝ちゃおうかな、なんてその声が聞こえる三秒前までは思っていた。校長先生の話、教頭先生の話、学年主任の話、教科主任の話。ああ、みんな話が長くて退屈。おまけに、体育館の床に体育座りをずっとしているからお尻が痛い。

 でもその爽やかな声は、そんな心のなかに溜まっていた不満を全部吹き飛ばしてくれた。


「僕は生徒会長の新田です。これからこの学校の生徒会活動についてお話します」


 顔を上げると、男子生徒が壇上に立っていた。すべてがバランスよく配置された、整った顔に細い銀縁眼鏡をかけている。


「あの人が会長なのか」


 文化祭や体育祭、生徒総会などの行事について話している会長は、楽しそうで、まるでよく晴れた今日の空のようだ。

 でも、どこかで見たことのあるような……。

 ああ、そうだ。今朝乗っていたバスだ。後から小さな子供を連れたお母さんが乗ってきたとき、席を譲っていた人だ。かっこいいなって思ったんだよな。そうか、生徒会長だったのか。


「生徒会に興味がある人は、二ヶ月後の生徒会選挙で次期役員を決めるのでそちらに参加していただきたい。一緒にこの学校をもっと楽しいところにしていきませんか」


 射抜かれた。その笑顔が眩しすぎて、心臓の動きが早くなる。開け放してあったドアからやわらかい風が吹き込み、会長の前髪を少しだけ揺らす。そのスローモーション模様に流れた一瞬が、瞼の裏で何度も再生される。


 近づきたいと思った。だから生徒会に入った。多分この生徒会役員内で一番単純な理由だ。

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