第28話 シンの告白

『シンくん。朗報だ』

『なんですか?』


 ここはシンの部屋ではなく、ロックの部屋だった。そして、目の前に彼がいる。つまり今の会話はロックにだだ漏れということだ。


『例の件だがね。うまくいきそうだよ。近々、進退を決する会議が開かれる。そこでやつを呼び出す予定だ』

『そうですか…。わかりました。今後、私のやることはなんですか?』

『君はなにもしなくていい。黙ってくれることが仕事だ。給与は振り込んでおこう。それでおいしいものでも食べたまえ』

『ありがとうございます』


 プツッ。


「…と、いうことだ」


 シンはこれまでのことを全て包み隠さず話した。ロックを辞めさせるためにゲオルグと協力していたこと、姫の訪問日に自分が案内できないことになること、事前にメディという子が来るのを知っていたことなど、全てだ。


 そのあと、テレパシーの宝珠を使って、ゲオルグと連絡をした。その行為はゲオルグと通じているという証拠を示すかのようだった。


 さっきのあいつ、うまくいきそうだとか言ってたな。つまり、メディが撮った僕とクリームさんの写真がゲオルグの手に渡ったということか。


「ロック。どうするつもりだ?」

「ううん…。会議かあ。ってことは本部に行かなきゃいけないんだな。面倒くさいなあ」

「こんなことになって、すまないと思っている」

「いや、いいですよ別に。そのことは」

「え? いいのか?」

「正直に話してくれたので、もう忘れました」

「…そ、そうか」


 シンは少し戸惑った表情を浮かべた。

 というか、予想どおりだしね。シンさんがマジメだから態度に出てわかりやすかった。


「大丈夫です。そのことは反撃できますんで。シンさんはもうなにも考えなくてもいいですよ」

「本当に大丈夫か?」

「はい。今後、手伝ってもらいたいことがあれば、声をかけますんで。そのときはよろしくお願いしますね」

「わかった。なんでも言ってくれ」

「わかりました。それと、会議が開かれるとき、僕が呼ばれると思うんですけど、クリームさんも一緒に行くので」

「クリームが? なぜだ?」

「彼女の証言がいるからですよ」

「?」

「まあまあ、このことは僕に一任してください」

「あ、ああ。じゃあ俺はこれで」


 立ち上がったところで、思い出したかのようにロックは声をあげた。


「あっ」

「なんだ?」

「シンさん。一つお願いがあるんですけど。お金、もらえません?」


 ニコニコ顔のロックがそこにいた。貸してくれではなく、くれという発言に、シンは一瞬言葉を失った。


「…それは今回、ゲオルグからもらう給与のことか?」

「そうですそうです。これからやることで、いくらかお金がかかるので」

「わかった。どうせ汚い金だ」


 シンは納得し、部屋から出ていった。

 一の矢がきかない場合の対策をしないといけないな。あっちにはいくらでも解雇理由をでっちあげることができる。あとは…。

 ロックは机の引き出しから名刺を取り出した。それはメディの名刺だった。


 ***


 社長室。赤のレディーススーツでばっちりきめた社長リリスは、革張りのイスに座ってゲオルグからの報告を聞いていた。


「ロックを呼び出すのか?」

「はい。彼はスカムですから」

「スカム…か」


 リリスは茶封筒の中から取り出した写真を見ていた。そこに写っているのは、ロックと若い女子。ベッドの上でなにやらいかがわしいことをこれからしようとする証拠写真だった。


「ロックくんはよくやってくれているので、私としてもなんとかしたいという思いはあります。が、しかし、このようなことが発覚した社員となると、もはや解雇はまぬがれないかと。どうお思いですか? 社長」

「そうだな…」


 このデブータめ。わざわざ写真を撮ってこさせたのか? そんなことをする手間、お金があったらもっと別なことをしろっての。ダイエットとか。


「この写真は、匿名でポストに入っていたんだな?」

「どうやらそのようで」


 いや、お前が撮らせたんだろ。

 …まあ、いいか。証拠はないしな。それに、この写真。なにやら撮ってやった感がある。ということはロックのやつ、逆に引っ掛けるつもりなのか?


「ロックに話を聞くんだろう? いつ会議を開く?」

「準備ができしだいすぐにでも」

「わかった。私も立ち会おう」

「社長自らですか? お言葉ですが、このようなスカム一匹の進退に関わるほどのことではないかあと思いますが」

「私が入社を決めたやつだからな。特別な思い入れがあるのさ」

「わかりました。でしたら、追って日時のほうをお伝えします」

「頼むぞ」

「失礼しました」


 ゲオルグは大きな腹を揺らしながら歩き、部屋から出ていった。

 頼むぞ…。ロック。こんなところで終わらないでくれよ。

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