第6話 機械人間

【1.ロボットのともだち】

あるところに大きなお屋敷に住む少女が居ました。彼女の名前はロゼッタ。彼女には何でも話せるロボットのともだちが居ました。名前はセンド。彼女の膝丈くらいしか身長が無いセンドでしたが、彼女よりも良く物事を知っていて、何でも教えてくれるセンドが大好きでした。


いけない事をしたら注意され、良いことをすれば褒めてくれて、テストで100点を取れば、一緒になって大喜びしてくれます。


ロゼッタにとってセンドはとても大切な家族でした。


ですが、実の両親にとって、センドは唯のロボットにしか過ぎず、時々とても冷たく彼に当たる場面がありました。それがとても悲しくて、彼を慰めた後に「どうして、あんなことするの?」と尋ねました。


「アレは唯の機械、物だ。心何て無いから大丈夫だよ」


父はそう言いました。ロゼッタにはとてもそうは思えませんでしたが、あまりしつこく言うと父は激昂して手を上げる事があるので、それ以上は何も言いませんでした。


その様子をセンドが物陰からはらはらしながら見守っていました。


「ロゼッタ、ありがとう。でも、僕の事で旦那様に物を申すのはこれっきりにしておくれ」


「どうして?」


「君が分かってくれるだけで、十分だからだよ」


センドはニコッと笑いました。確かに機械で出来た体だけど、見た目が無機質なだけで、心はちゃんとあるとこの時、ロゼッタは強く思いました。


【2.誘拐】

ある夜、センドがロゼッタを揺すり起こしました。眠い目を擦り、起きたロゼッタの意識がまだ覚醒しないままに、

彼女を子供部屋から連れ出して、大きいお屋敷の中を走り出しました。彼女は何事かと尋ねましたが、センドは口元に指を立てて静かにする様に言いました。何か足音の様な物が聞こえて、二人は咄嗟に廊下にあった花瓶が置いてある棚の中に隠れました。


こつり。こつり。と足音は少しずつ近づいて来て、二人が隠れる棚の前迄やって来ました。


「ばあ!!」


男は勢い良く、棚の戸を開けました。

前歯が抜けてガタガタになった口からはドブの様な悪臭がしました。

大きくぎょろぎょろとした目でロゼッタを見て、ニタニタと笑っています。

彼女は余りの恐ろしさにガタガタと震えて、粗相をしてしまいました。


「おやおや。おねしょかい? 新しいお洋服を用意しないとねえ? メイドさん?」


男はそう言いながら、手に持った金髪の先にある頭部に話し掛けました。

首から下は無く、その頭部は目を見開いたまま、じっと男を見据えて居ます。

切り口からぽたぽたと滴る赤い血が床に落ちるのを最後に、ロゼッタは気を失ってしまいました。


【3.皆、順番に良い子で待ちましょう。】

目が覚めると、ロゼッタは白い寝間着を着せられて、ふかふかのベットの上にいました。彼女を覗き込んだのはセンドでした。


「きゃ!」

「しー!!」


センドは指を立てて、静かにするように言いました。

周りを見渡すと等間隔に同じベットの上に彼女と同じ寝間着を着た子供達が寝かせられていました。


(ここは、何処なの?)

(わかりません)

二人は小声で掛ふとんに包まりながら話ました。


(お父様とお母様は……)

(……わかりません)

(……ねえ、私が見た、金髪の)

最後迄言い切る前にセンドがその口を手でふさぎました。それ以上、言ってはならないと言わんばかりに首を左右に振りました。やはり、アレは夢では無く、現実だったのかと再び恐怖が湧き上がり、そして、両親には二度と会えないのだと思った途端、涙が頬を伝いました。その涙をセンドは指で拭ってやりました。


(ロゼッタ、君が此処に連れて来られてから既に三日経っているんだ)

(そんなに!?)

(しー! 声が大きいよ)

(あ、ごめんなさい)

(君が眠ってる間に此処について調べてみたんだけど、大した事は分からなかった。その代わりに僕達の味方を一人、見つけたよ)

(味方?)

(そうだ。僕達と同じように此処に連れて来られた男の子だ。明日、その子とお話をしてくれるかい?)

(分かったわ)

(因みに、僕は此処では動かない只のロボットのおもちゃって事になってるから、くれぐれも人前で僕に話しかけちゃ駄目だよ)


センドが彼女と一緒に来れたのは、彼女が気絶しながらもセンドの手を離さなかったからでした。彼女を誘拐した男は、乗って来た車の後部座席に彼女とセンドを茣蓙袋ござぶくろに入れて乗せました。何回か信号がありましたが、男はブレーキを噛む事は無く、信号無視をしながら恐ろしい速度で車を走らせました。幸い、深夜だった事もあり、人通りは無く、大きな事故は起こりませんでした。只、袋の中でセンドは男の狂気に震えていました。


その話を聞いて、ロゼッタも心底凍りつく思いでした。それに、何故センドは動かないフリをするのかも教えてくれました。本来、おもちゃは動かない。動いても、それはカクカクとしたぎこちない動き方で、自分の様にスムーズに動作をするロボットは民間人・・・の手には広まって居ないのだと言いました。


(僕は旦那様のご友人である、研究者に作られたんだよ。ロゼッタにとって、旦那様がお父さんで有るように、僕にとっての父さんさ)


センドは研究者の友人に人の心を学ばせる為にと旦那様に託されました。良く分からないけど、君の頼みなら。と旦那様はセンドを引き取りました。友人の説明は小難しくて、よく理解しておらず、旦那様も奥様もセンドの事を只の機械仕掛けの人形だと思っておいででした。


(だから、旦那様や奥様が僕を理解出来ずにいたのは自然な事だったんだ)

(そうだった。ねえ、あなたは一体何?)

(それはまだ、秘密だよ。ほら、もう眠いだろう。おやすみ)

ロゼッタはセンドに優しく頭を撫でられて、安心したのか眠りに落ちました。

あくる朝、ロゼッタはけたたましいベルの音で目が覚めました。

何事かと飛び上がると、入り口に割烹着を着た肉付きの良い中年の女性が腰に手をやって険しい顔をしながら立っていました。全員が起き出した事を確認すると、女性は後ろで鳴るベルを止めました。そして、着替えを終えた者から順番に、彼女の後に続いて部屋を出て行きました。


「おい、早くしないと、朝ご飯を食いっぱぐれるぞ」

気が付くと、行列を見送るロゼッタの前に、遮る様に彼女とそれ程変わらない年頃の少年が立っていました。

着替えはベットに備え付けられた小さなテーブルの上に用意されていました。

それにいそいそと着替え始めると、少年は背中を向けて、彼女が着替え終わるのを待って居ました。


「早く、行くぞ」

少年に手を引かれて、慌ててロゼッタはセンドを掴みました。ぎゅっと抱きしめる様子を少年は横目でちらりと見て、直ぐに目線を元に戻しました。


少年に案内されて到着したのは食堂でした。

先程の中年の女性が皆に食事を配っています。

二人もその列の最後に加わりました。


食事を貰う時に、中年の女性に「おもちゃを食事をする所に持ち込んではならない」とロゼッタが持っていたセンドを取り上げようとしました。彼女が咄嗟に嫌がる素振りを見せると、女性は激高して、平手を振り下ろしました。バシイ! と鋭い音が食堂に響き渡りました。


「どうして、お前が庇うのですか!」

「申し訳ありません。この子は昨日、入ったばかりで、ここの決まりを知りません。如何か、今日は僕に免じて頂けませんか?」

叩かれたのは少年でした。その姿を周りの子供達は只、虚ろな目で眺めていました。激高していた女性も「仕方ないですね。今日だけですよ」と急に平然とした態度に戻りました。


ロゼッタは驚きと恐怖で口をパクパクさせていました。

(行くぞ)

少年は小声でロゼッタの手を引っ張って、テーブルに着きました。


「それでは、皆さん。今日も、神に感謝して、美味し糧を頂きましょう」


中年の女性がそう号令を掛けると子供達は一斉に「美味し糧を」と唱えて、食事をし出しました。


(待て!)

ロゼッタが食べ物を口に運ぼうとした時でした。少年は周囲を見渡しながら、その手を止めました。ロゼッタも彼と一緒に周囲を密かに見渡しました。すると、スープを飲んだ子供達の口元が一瞬だけぴくぴくと動きました。それを見た少年は小さく「今日はスープか」と呟きました。


(良いか。今日のスープは二口だけ飲んで、後は残すんだ)

(どうして?)

(良いから、言う通りにしろ)

言われた通りに、ロゼッタはスープを二口だけ飲みました。とても甘くて美味しいコーンポタージュだったので、本当は全部飲み干してしまいたかったのだけれど、膝の上に置いていたセンドも周囲に分からない様に彼女を諫めました。

「ここは何不自由なく暮らせるが、外に出る事は出来ない。出れば確実に死ぬだろうし、捕まってしまうだろう。自我を失う迄、思う存分好きな事だけ出来る場所さ。それに、ここでは食事を残しても誰にも文句は言われないし、怒られない」

「どうして? 従わせる為には全部の食事を食べさせた方が良いじゃない」

「子供はいくらでも、から攫って来れるから良いんだよ。それに、あいつ等は僕が薬に感づいてる事に気付いてるけど、今の所何もしてこない。僕が他の奴に触れ回るつもりが無い事やそれをしても意味が無い事を奴等は知ってるからだ」

「どうして、意味が無いの?」

「最初に薬入りの食事を全部食べてしまった子はそれが良くない物だと知っていても、依存して食べてしまうんだよ」

ロゼッタは少年に言われて、あのコーンポタージュの事を思い出しました。確かに、物凄く美味しくて、二人が止めてくれなければ全部食べていたに違いありません。


「ねえ、外には出られないって、どういう事? どうにかして、隙を見つけられたら、外に出られるんじゃないの?」

その質問に少年は指を差しました。その方向には門が有ります。


「ここは広大な土地に見えるかも知れないけど、そうじゃない。ここは亀の背中の上にあるんだよ」

「え?? か、亀?」

「そうだ。あの門の先はね、海があるんだ。海には巨大なナマズが住んでる」

「何を言ってるの? ナマズは河に居る魚よ」

ロゼッタは少年がからかっているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい事に気付きました。

「ようやく気付いたかい? 此処は僕達が居た世界じゃないんだよ」

少年がそう言うとお昼の時間だと先程の中年の女性が皆を呼びに来ました。

あっと言う間に一日が終わり、ロゼッタは何時の間にか、自分が攫われて来た恐怖を忘れていました。と、言いますか。それを考えない様に、怖い事に蓋をしていました。


少年から、様々な事を教えてもらいながら、無事に生き延びて来たロゼッタは施設に来て、そろそろ一年が経過していました。


「そろそろ、君も“順番”を見学した方が良いだろう」

「順番を見学?」

「そうだ」


そう言って、少年は朝ご飯を食べ終えてから白い寝間着に着替えて来る様に言いました。少年も同じように白い寝間着に着替えていました。私服に着替えて芝生に遊びに行く子達の姿が見えました。


「ねえ、何処に行くの?」

「しっ。今から、声を掛けてはダメだ。出来るだけ、ぼーっとするんだよ」

言われた通りにロゼッタは無表情で体の力を抜きました。すると、同じように白い寝間着を来た子供達の列がありました。その後ろに二人は並びました。


「さあ、怖くないわよ。順番に進んでね」

入り口にはメイド服を来た若い女性が子供達を迎え入れていました。


「あら、あなた。やっと、お薬が効いたのね」

メイドは少年の顔を撫でるとぎゅっと抱き寄せて、頭を撫でました。その光景を彼の後ろで見ていたロゼッタは思わず、お母様が自分を撫でてくれた時の事を思い出しました。


二人は部屋の中に入りました。すると、部屋は体育館程の広さがありました。その中で、綺麗に10程の列がありました。その先は何があるのかロゼッタからは見えませんでした。少しずつ、列が進む度にガタンと言う何かが落ちる音が聞こえました。その音が何なのか、ロゼッタが理解した時、心底心が凍りました。その音は子供達が首を吊る音だったのです。首を吊った子供達の遺体は素早く縄から外されて、下に開けられた穴に次々に落とされて行きます。


(あの穴は、この亀の胃袋に繋がってるんだ)


少年が小声でそう言いました。そして、少年はロゼッタにこう問いました。

(君はこれが正しい事だと思うかい?)


「……ない。思わない! こんなの、間違ってる!!」

ロゼッタがそう叫ぶと並んでいた子供達は一斉に自我を取り戻しました。

突然の事に子供達はパニックになり、逃げ惑い、大混乱しました。慌てて、大人達が子供達を捕まえては穴の中に放り込んで行きます。混乱して泣き叫ぶ子供達の波に紛れて、二人もその部屋から逃げ出しました。


逃げ出した子供達は芝生にもなだれ込みました。大人達が「捕まえろ!」と叫びながら追いかけて来ます。ロゼッタと少年は門に向かい一目散に走り出しました。


門を潜ると其処には一艘の小さな船が在りました。少年が船のエンジンを掛けて、二人は亀の島から逃げ出しました。徐々に遠ざかる島を見て、ようやくロゼッタはあれが生き物で有る事を認識しました。


「あの亀の島は、定期的に人の子供を食わせる事で維持されていたんだ。君の声は良く通るから、皆の催眠が解けると思っていた」

「だったら、どうして、彼等を助けなかったの!?」

ロゼッタは目に涙を溜めて、少年に猛抗議しました。それをセンドが諫めました。

「どうして、あなたは彼の味方をするの!?」

「落ち着いて、ロゼッタ。彼は何も無計画だったわけでも、自分達だけ助かろうとしたんじゃないんだ」

「どういう事?」

「もうすぐだよ」

そう言うと、センドが指さす空に長い紐の様な物が幾つも垂れ下がり始めました。

「彼等は機械海月きかいくらげと言う名前の警備ロボットだよ」

少年がそう説明していると、その長い紐がベタベタと船を触り始めました。その紐には吸盤が付いていて、近くで見るとぶるぶるとした透明な物体の中にいくつも赤く光る電球の様なものが入っていました。見上げると巨大な海月の頭がふわふわと上下に波打ちながら浮かんでいました。


「彼等はこの海の安全を見回って、迷子の子供達を安全な場所まで連れて行ってくれるんだ。只、警備する巡回が決まっていてね。彼等が通るのが、今日だったって訳さ」


少年はロゼッタにウィンクしました。今まで何もしなかったのは、ある一定の声質の者が否定する事でその効果が消える事が分かっており、それがロゼッタの声だと気づくまでに少々時間が掛かったからだと言いました。


【4.ナマズ】

そうこうしている間に海月が巡回する期間が過ぎてしまい、彼等が再び巡回するのを待つ羽目になったのでした。亀の島で逃げまどう子供達は機械海月達によって、安全な場所に運ばれるだろうと少年は言いました。実際、船の周りにも沢山の機械海月達が寄り添うように浮かんでいました。


ひと際大きな海月がずっと船に張り付いて、離れようとしません。それは、この船を危険から守り、又、仲間の海月に位置を知らせる為なのだと言って居ました。


「あの島の大人達はどうなるの?」

「多分、海月や亀に食べられると思う。海月は悪い大人は助けないからね」

その時でした、突然、船が何かにぶつかり、大きく揺れました。機械海月達も一斉に集まり、チカチカと激しく光り始めました。


「まずい、アイツが現れたんだ!」

少年がそう叫ぶと、海の中から巨大なナマズが現れました。

空を飛ぶ海月達と同じくらいの大きな姿をしたナマズはむしゃむしゃと海月を食べ始めました。大きな海月が船を引っ張り、何とか誘導しようとしますがナマズが起こす波に阻まれて上手く行きません。その内に、船室の窓が破られ、長い舌の様な物が船の中を激しく弄りました。三人は避ける事に精いっぱいです。


「本当にナマズなの!? ウミヘビじゃないの!?」

「僕は、ナマズだって聞いたんだよ!」

「どっちだって、いいですよ!」


転がって来た瓶に足を取られたロゼッタが大きく転んでしまい、それに気付いたナマズが舌を伸ばしました。咄嗟にセンドが彼女の前に躍り出ました。舌はセンドを巻き取ると外にある口へと運びました。


「嫌! センド!!」

外に出るロゼッタを少年が船の縁に掴まりながら、押さえます。センドは舌に巻かれながら、最後までロゼッタの事を見ていました。そして、ナマズの口の中に運ばれた時、不思議な光景を見ました。センドの体は機械の筈なのに、噛み千切られるセンドの体は正に人のそれと同じように見えました。完全に彼が消失した時、ナマズの口から強い閃光が発せられました。


「そうか、そうだったのか!」

少年の方を見ると、彼は涙を流していました。

「彼は僕だ!」

「え?」

「彼は僕だったんだ! 僕の名前はセンドだ! 送る者と言う意味さ!」

彼はそう叫ぶと両手を天高く広げました。それに反応した海月が彼を包み込むとまるで、羽衣の様に見えました。海月の沢山の触手を少年がナマズに巻き付けると、強い稲光を生み出しました。丸焦げになったナマズは海の藻屑となって沈んで行きました。海月の足でロゼッタを持ち上げると少年は彼女の事もその中へ招き入れました。


「僕はずっと記憶を失っていたんだ。だから、君にも名前を名乗らなかっただろう?」

「え、ええ。何となく、聞いちゃいけない気がして、私も聞けなかった」

少年は海月の中でロゼッタに軽くキスしました。


「この世界は僕が生み出してしまった世界なんだ」

「どういう事?」

少年はその問に微笑みだけを返しました。

二人は海月と共に雄大な空を飛び、大きな太陽に似た光の中へ飛び込んで行きました。


「タ、ロゼッタ!」

誰かに揺すり起こされて、ロゼッタは目を覚ましました。

「お母様?」

目の前には、亡くなった筈の奥様がおりました。その隣には旦那様もおいででした。


「ああ、良かった! 本当に良かった!」

奥様はロゼッタをぎゅっと抱きしめました。安心した彼女はそこでわんわん泣きました。散々泣いて、落ち着いた頃でした、其処に知らせを受けた主治医の先生が現れました。


「ヒッ!」

ロゼッタは思わず、恐怖しました。白衣を着て現れたのは、あの夜、メイドを殺した誘拐犯だったのです。恐れおののく彼女に奥様は「あなたは相変わらず、センド先生の事が苦手なのね」と言いました。


「え? センド? 彼はロボットで、私を助けてくれた海月遣いの男の子よ」

ロゼッタの言葉にご両親はきょとんとされました。


「そうだよ。ロゼッタ。僕が君を助けたんだ! だって、僕の名前は“送る者”って意味だからね!」


そう言って誘拐犯もとい、主治医の先生はロボットの形をした人形を彼女に渡しました。


後に彼女は自分が精神を病んでいた事を知らされました。その原因が何だったのかは、両親も主治医の先生も教えてくれませんでした。

只、先生はこう言いました。


「君はきちんと自分の気持ちに向き合って、克服したんだ! もう、大丈夫。君はこの世界が怖い事ばかりじゃない事を知った筈だ」


退院して、地面を歩いた時、此処は本当に亀の上じゃないのか不安だった。でも、そんな不安は隣にいる両親がかき消してくれました。振り返れば、主治医のセンド先生がにこやかに手を振って見送ってくれていました。


ロゼッタの胸には海月のブローチが、太陽の光を浴びてきらきらと輝いていました。

おわり

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短編 夢夜 雨汰湖 @utaco526

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