第5話 高いクリーニング店

会社で使用していたシャツの襟の汚れがどうしても落ちないので、クリーニングに出す事にした。


最近、近所に出来た新店は周囲の評判が良かったので、それを利用する事にした。


中に入ると、クリーニング店と言うよりもオフィスのような感じだった。


あり得ない程、個人のスペースが狭い事に驚いた。パソコンも衣類を分ける箱も、兎に角人一人がギリギリ居れる幅しか設けられていない。


パソコンの前には入力しながら、電話を取る人達が座っており、数が足りないのか、一台のパソコンが開くと待ってましたとばかりに別の人が座っていた。


中は喧騒にまみれていたいたが、レジは比較的に早く進んでいた。


自分の番を待つ間、手にはシャツ三枚、コットンニ枚を入れた茶色い紙袋を握って居た。


未知の感染症が流行してから、衛生商品は優先的に病院に納品される様になった。


最近のコットンは両側がちゃんと縫われていて、繰り返し使える様に仕様が変更されている。その分、そう易々と取り替える事が難しいくらいに値段が高騰していた。


自分の番になって、それらを袋ごと渡した。


「手をかざしてください」


受付のお姉さんに言われるがまま、タブレットに手をかざした。どうやら、指紋認証でお客を判別しているらしい。


物の数秒で指紋の読み取りは終わった。

そこで渡された受取日の紙を手に店を後にした。


数日後。


受取日になったので、品物を取りに向かった。

受付には黒いスーツを着た男の人が立って待っていた。私に微笑みかけたので、そこに向かった。


受付の時にもらった紙を渡し、指紋認証を行った時だった。男性はとても言いづらそうな顔をしていた。


「お客様のお洋服は彼方ですよね?」


差し出された手の先にはまだ汚れが落ちていないシャツがパソコンの前に掛けられていた。いかにも邪魔そうである。


「コットンもお出しになりました?」


男性は嘲笑う様に口元を歪ませて言った。


「ええ」


特に受付で何も言われなかったし、何がいけないのかもよく分からない。兎に角、不快極まりない態度だった。


「いくらですか」

「あぁ、いえいえ、まだクリーニングはしておりません」

「は?」

「お客様のお洋服をクリーニングする為には21万7800円頂戴しないとなりません」


度肝を抜かれる金額だった。同じように説明を受けていた隣の人のパソコン画面には8万円と表示されていた。


「もう、結構です」


洋服を受け取って、その足で別のクリーニング店に行った。

正直、何故あの店が繁盛しているのか分からなかった。


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