第2話「プロローグ②」
「ご機嫌よう、お兄様。只今帰りました」
これまた勝手に領土の拡張に励むもう一人の方が帰還の挨拶にきたようだ。
「お帰りマリー、ご苦労様」
そんな彼女に私はとりあえず労いの言葉を掛けた。
彼女の名前はマリー=テレーズ=ルボン。
歳は13歳で美しい金髪に可愛らしい顔立ちの美少女、そして私の義妹。
因みにマリーは、本当は従妹なのだが、諸事情により当家に引き取られた経緯がある。
あと、とても私を慕ってくれるので可愛くて仕方ない……のだが、少しだけ欠点があったりする。
例えば……と、ここでマリーが私の元までやってきて微笑んだ。
「お兄様、実はお見せしたいものがありますの」
「へぇ、何だい?」
まるで庭の片隅で綺麗な花でも見つけたかのように言うマリーに、何気なく答える私だが……正直、嫌な予感しかしない。
「さあ、こちらへ」
そしてマリーに手を引かれ、私はバルコニーに出た。
そこでマリーが、
「あちらをご覧下さいませ、お兄様」
笑顔でそう言うと庭の一角を指差した。
「えーと……」
私は言われたその方向に視線を向けたのだが、そこにあったのはやはり綺麗な花などではなかった。
そこには手足を縛られ、猿ぐつわをされた老若男女が十人ほど転がされていた。
「……これは?」
凄く聞きたくないが、話が進まないので仕方なくマリーに問う。
「はい!先日お兄様を裏切ってルビオン側についた隣のゴーティエ子爵とその一族ですわ!」
マリーは何故か嬉しそうに答え、
「昨日、私が一応説得を兼ねてお話をしに行ったところ、あろうことか愚かにもお兄様のことを愚弄した上、私を人質にしようとしましたの」
「なにっ!?それで?」
え?大丈夫だったの?お兄ちゃん心配……。
「で、逆に屋敷に居た子爵以下、一族全員を捉えて参りました!」
でも無かった。
「そ、そうかい。それは大変だったね……」
「労いのお言葉、ありがとうございますお兄様!……と、それと、どうですか?この眺めは?」
「え?と言うと?」
え?どういう意味?
「はい、裏切り者達が縛られて地面でピチピチと跳ねる姿がまるでお魚のようで面白かったのでお見せしたのですが……お気に召さなかったようですわね……しゅん」
「あ、いや……」
この状況で、しゅんっておかしいだろう!?
やっぱりこの義妹ヤバイって!
絶対サイコパスだよ!
するとマリーは、
「ごめんなさい、お兄様。すぐに処分致しますわね!」
「え!?処分!?」
すると、マリーはその愛らしく無邪気な表情を、急にゾッとするほど恐ろしく冷たい表情に変えた。
そして、おもむろにクイっと顎をしゃくった。
次の瞬間、庭の一角ではマリーの部下達が一斉に……。
以下、自主規制。
私はその光景に思わず戦慄した。
「マ、マリー……何てことを……」
というか、敵対勢力のボスとその家族を誘拐した上で皆殺しとか、どこの麻薬カルテルだよ!?怖すぎるよ!?
ヤ○ザですら家族には手を出さないという暗黙の了解があるらしいのに、この義妹ときたら……幾ら戦国時代でもヤバくない!?
そんなことを考えていると、
「さあ、お兄様!ゴミの処分も終わりましたし、お部屋に戻りましょう」
マリーが平然と言った。
「ああ……」
「あと、お願いがあるのですが……」
と、そこで初めてマリーが年相応な可愛い感じでおねだりしてきた。
「何だい?」
「マリーはお兄様の為にいっぱい働いたので、ご褒美を頂きたいのですが……?」
ああ、いつものやつか。
「うん、わかった。おいで」
もう、なんでもいいや……。
「わぁ、ありがとうございますお兄様!」
そう言うが早いからマリーが私の胸に飛び込んできた。
そして、私はそんな彼女を抱きしめて頭をなでなでしてやる。
「ああ、幸せです」
「そ、それはよかった……」
と、年相応の無邪気な顔を見せながらマリーは心ゆくまでご褒美を楽しむと、
「さて、名残惜しいのですが、充電も完了したので次の敵を滅ぼしに行かないと」
そう言うマリーは私から離れ、
「では、ご機嫌よう。お兄様。次はもっともっと頑張りますね!」
去って行った。
いや、これ以上頑張らなくていいよ?
と、そこでメイドのレイニーが入れ替わるように入ってきた。
「大変お待たせ致しました、旦那様。こちらがメニューを変更した魚料理で、シャケの……」
そして、彼女は丁寧に料理の説明を始めた、しかし。
私は既に色々な意味でお腹いっぱいだったので、残念ながら返事は決まっていた。
「……いらない」
「ですよね……」
とまあ、プロローグはこんな感じでございます。
さあ、若き貴族とイカれたヒロイン達のイカれた物語の始まり始まり。
そうだ、王子辞めよう!外伝『ランス王国物語 ヒロイン達が勝手に国を統一します!?』 にゃんパンダ @nyanpanda
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