【第二章】人格


……



妙に重たい身体と、ついつい目を瞑ってしまう眩しい朝日。悪夢から飛び起きたかのような目覚めだ。実際、久しぶりに最悪な夢を見たのだが。

ご飯を食べ終わって直ぐ、ベットまで行かずに寝てしまったようだ。身体が痛い…。


母におはよう、と一言。


「とりあえずお風呂…。」


ベタつく髪と冷や汗に気付き、ため息をひとつ。そして時計へと視線をずらした。6時。大丈夫…と、安堵したのも束の間、今からお風呂に入らなければならないのはとてつもない時間ロスなのだ。家から5キロ離れた学校に自転車で行くとなると7時半に家を出てもギリギリ。

挙句の果てに寝てしまった為、課題が出来てない。学校でクラスメイトの手を借りよう…。

そして、化粧や髪をセットする時間が無いので今日は薄化粧にし、髪は下ろしたままになる。

因みに、朝ごはんは毎日食べていない。母のお弁当を楽しみに学校に行くのだ。


ダッシュでお風呂と学校の準備をする。


「慌ただしい朝だな。」


私は、ふと昨日のことを思い出し、自傷気味に笑う。女としてのそれを失った大きさに、交わした約束への恐怖に、幸せな時間がいつまで続くかどうかという疑問に対して我ながら馬鹿らしくて笑ってしまった。


そんなことより、お弁当を作るためにいつも私より早く起きていた母を尊敬する。低血圧で朝が弱い私はいつも10時頃まで少し体調が悪い。


両親は共働きをしている。家事を何もしない父に代わって何でもこなしてしまう母がかっこよくて仕方がなかった。そして私は家族が大好きだ。2人の妹と両親。


大好きだった。



……



ダッシュでお風呂をあがり、準備をする。


「あー!!もう早くそこ、どいて!?」


「まやの方こそ他のことやったらいいじゃん!」


妹と洗面台の奪い合い。妹の準備が遅れると私も遅刻。「もう!」と、母に少し八つ当たりしてしまった。それを見兼ねたいつもより機嫌の悪い父に謝れと言われ、怒鳴られた。

怒鳴られ、物を投げられるような「いつものこと」に慣れてしまう。「まやのお父さんは毒親だ。」とよく言われるがそうかもしれない。実際、中学の時にカウンセリングを受けたこともあった。暴力も受けた。門限は6時半だった。1分過ぎただけで怒られたこともあった。友達との外食で怒られたこともあった。家出してしまおうと思ったこともあった。それは「私」にとってはもうどうでもいいことなのだが。


両親に謝り、妹にも頭を下げ、7時40分頃家を出る。時間がやばい。


「ダッシュ、ダッシュ〜!!」


イライラを抑える為に、イヤホンガンガンで音楽を流す。私は某ボーカ○イドが大大大好きだ。中でも、鏡○レンくんが好きだ。レンくんの曲を聴きながら、猛ダッシュで自転車を漕ぐ。私は、オタクであって、人生を損したと思わない。寧ろオタクであることを誇りに思っている。それを疎まれたり、軽蔑されることはあるが、そいつらがおかしいと思っているレベルだ。小学校の卒業論文にはボーカ○イドを創った北海道にある会社に勤めたいと書いたくらい、人生と愛とお金をかけている。バイト代でライブにも行くし、イベントにも足を運ぶ。


音楽は私の、唯一の趣味。沢山のジャンルを知っているが、ズバ抜けてしまっている。関係のない話をしてしまったが、気を紛らわせたい。先程から自転車の漕ぎすぎで足が痛い。


「…っ!足痛い無理死ぬ……。」


私の自転車のスピードは30キロを超えていた。



……



語っている内に学校に着いた。


「…はぁ、はァ…。」


息を切らしながら、時間を見る。残り5分で遅刻だった…。危ない…。

今日は久しぶりの部活。演劇部と茶道部を掛け持ちしているが、演劇の方はバイトと被ることが多く、中々顔を出せずにいる。もう少しで私の初公演となる、近所の幼稚園での発表会だ。練習に励むとしよう…。

部活から、ふと思い出す。今日は月曜日だ。


「えっ、1限英語…??」

「課題っ!!!」


教室までの階段をかけ上る。先程の自転車に加え、4階まで階段をダッシュしたので足が限界に達していた。


…あれ。目眩がする。低血圧に加え、最悪な体調の中、急な腹痛に襲われた。昔からお腹が弱い。少し異変を感じ、トイレに行く。


(生理だ…)


生理痛が酷い私は課題など忘れ、保健室に足を運んだ。

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涙痕を残したい 佳月 舞耶 @maya___3

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