「教材販売」

 物品販売はなぜか戦場さながらだ。

 急ぐ理由はわからないが、恐らく混むからだろう。僕の友人含め、四時間目終了のチャイムがなるや否や、流れるように封筒を取り出し、競歩のように教室を立ち去っていく。

 呆気に取られていたら「行こ?」と声をがかかった。僕はすっかり教材販売の存在を忘れていたため、理解が追いつかないままに、それでも周りを見て封筒を取り出した。


「そっか、教材販売だったけね」


「うん」


 不機嫌なわけではないのだろうが、長年の(とは言っても高校に入ってからの部活メイトだが)付き合いがなかったら怒っているのかと誤解している雰囲気だ。


「何でみんなこんな急いでるんだろうね?」


「んね。知らない」


 同意は返ってきたが、やはり口調がつっけんどんな気がするのは僕が過敏なだけなんだろうか。

「こういうものだ」「こういう人だ」と割り切ることが僕には難しい。結局心理を探ってしまうのは個人的に、生きにくい悪い癖だと思う。

 体育館に入った。今回の教材販売は一回の、通称一体いちたいだったから広々としている。一から六組まで列が分かれていて、三分の一ほどの占領で間に合っていた。

 大人しく五組の列につく。周りでは「封筒からお金出して待ってろよー」と学年の先生たちが叫んでいる。教師というのはどこまでいっても大変な職業だなと改めて思う。

 話は戻るが、真顔というものにもっと免疫とつけないといけないとつくづく思う。誰もが笑顔で対応しようと心がけているわけでもないことは理解している。しかし穏やかで優しい雰囲気の人と話す方が格段に気持ちが楽なのも事実で、真顔だと心中穏やかでない可能性を探ってしまう。

 生き上手に、世渡り上手になりたいといつも思いつつ、どこかでめんどくさい自分を容認しているような気持ちを乗せて列は進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

山田花織の日常。 雪猫なえ @Hosiyukinyannko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ