「落とし物」
ペンが落ちた。
今日はやけに物を落とす日だ。そんな日、みんなはないだろうか。カシャン、と響くボールペンの特徴的な音は甲高くて鋭くて、沈黙を破るには不快な音だと思う。
(やっちゃったなあ)
周りへの迷惑を申し訳なく思いながら身を乗り出して拾う。遠くまで逃げ出した時には席を立たないといけないから面倒くさいんだけれど、今回はすぐそばにいた。たまに誰かの椅子の下に潜り込むこともあるが、あれは参る。迷惑度がグンと上がる上に、人によっては声をかけることに気兼ねする。加えて周囲の同情の視線やら思念やらが重い。
今回の幸運な落下点に安堵した時、ふっと影が落ちた。
(おやや?)
拾う前に軽く顔を上げると、隣の席の女子が僕を見ていた。いや、この表現は語弊があるか。気になったのか、僕を見下ろしていた。
(……あ)
彼女の「拾わないの?」という表情に気付き、そそくさと落とし物を回収する。
彼女は今回の席替えで改めて隣になった女子だった。以前も隣の席になったことがあり、席が近いこともちょくちょくあった。だから、自然と緊張はしなくなってきた……かもしれない。僕の異性への苦手意識は根強いものだから。
隣の席になった、といえば、僕は相当な醜態を晒していること思う。もはや今更過ぎて諦めたが、誰に引かれていても不思議じゃないのかもしれない。僕はよく寝てしまうからだ。もしかしたら彼女にも相当なことを思われているかもしれないあなーなんて思いながら、今日も秋が深まる窓に外を眺めている。
彼女がそんなことを思うような子じゃないことを周知の上で。
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