拾遺
Willie & Arthur
「ぼく、は、ウィリー、ウィリアム。ユアネーム?」
「こっちは、喜久子、俺は、篤久」
「キクコ。アチュシシャ」
「篤久」
「アチュチサ」
「あ・つ・ひ・さ」
「…………アーサー!」
「何でだよ!」
妹・喜久子とその夫であり友人のウィリアム・シーゲンターラーの突然の訃報を耳にしたのは、二人の娘である謠子を預かり相手をしながら浄円寺邸で留守番をしていた日中のことだった。アビューザーに襲撃され殺されたのだという。
喜久子は銃殺され、ウィリアムは顔の判別もつかない程の黒焦げの焼死。二人が違う殺され方をしているという点がとても不自然ではあったが、焼死体の方は所持品と鑑定によりウィリアムであると証明された為、二人の葬儀を執り行い、ウィリアムには身内がいないということで謠子は浄円寺家に引き取られ、キャプターの任務に加え家業である情報売買業と多忙な浄円寺清海・叶恵夫妻に代わり、篤久が身の回りの世話をするようになった。
それから三年後に、謠子がギフトを発現、施設送りになり、更に三年後に清海と叶恵も殺害された。屋敷に一人残された篤久は、総帥不在のままの浄円寺データバンクで事業縮小しながらも黙々と業務をこなしつつ、清海・叶恵殺害事件についての調査をしていたが、決定的な証拠を掴めないまま過ごしていた。そしていっそキャプターになり内部から探ろうかと考え始めた矢先に、謠子がキャプターとなり、浄円寺家に帰還する。
そんなこんなで、謠子の身の回りのことや仕事のサポートをするようになり、一年と少しが経過した頃。
友人の戸谷秀平を屋敷に呼び、謠子のことを任せて外出した先で、友人にそっくりな男を見かける。
死んだはずだ、と思った。
不可解だった死因。
見間違えるはずもない美しい色彩。
死んでから十年近く経った。年の頃も一致している。
追い掛けたが見失い、呆然としていると、後ろから声がかかった。
「アーサー、机をよく調べて」
記憶にある呼び名、声に振り返るが、既に男の姿はなかった。
その日の夜、自室のデスクを調べると、引き出しの裏側に一通の手紙が貼り付けられているのを見つけた。
親愛なる僕の友人
きみがこれを見つける頃には僕は死んでいるだろう。
もしかしたら、喜久子を道連れにしてしまっているかもしれない。
きみの大事な妹を奪ってしまってごめん。
きみに謠子を押し付けてしまって、
そんな重責を与えてしまってごめん。
でもきみになら
お願いだ、どうか僕と喜久子の宝物を守って。
詳しいことは言えないけれど、僕にはそれができない、不可能なんだ。
せめてきみと謠子は、父さんと母さんと共に生きてくれ。
篤久、僕は悪い人間だ。
でも僕は、きみが仲良くしてくれたことは絶対に忘れないよ。
ありがとう。
Utako,Arthur
I love you.
William
篤久は、友人の生存と「帰れぬ理由」があることを知った。
解せなかった死因も納得できた。
彼は、こうすることで自分と謠子を守るしかなかったのだ。
再会の数日後、友人はあっさりと篤久の前に姿を現した。
「まさか、十年も気付かないだなんて思わなかったよ。相変わらず意外とアナログには弱いねアーサー」
「とりあえず一発殴らせろウィリー、全く舐めくさった真似しやがって」
「ヨリコに負け続けたきみが僕に勝てるとでも?」
周囲に人の目がないことを確認してから、篤久は使い捨てライターを取り出して点火した。一瞬、大きな火柱がウィリアムの顔の横すれすれに走る。
「ほんとに焼死体にしてやってもいいんだぞ」
「怖いなぁ」
言うと同時に踏み込んだウィリアムは、篤久の持つライターに触れた。バラバラに、崩れ落ちる。
しかし篤久は驚くこともなかった。寧ろそれは予想していた。
篤久の『火炎操作』。
ウィリアムの『分解』。
子どもの頃から互いに知っているギフト能力。
篤久の目の前に立ったウィリアムは、にこりと笑った。
かと思うと、
「会いたかったよアツヒサ。ずっとずっと、会いたかった」
ぎゅっと親友を抱き締める。
「今僕は以前とは違う組織にいる。それなりの地位も得たから、きみたちに危険が及ぶようなことはそうそうないけれど、それでも僕は、……アビューザーだからね」
「帰ってこれないんだな」
「ごめんね。ウタコに『愛しているよ』って伝えてくれる?」
「自分で言えバカ」
浄円寺篤久は平田篤久のまま。
ウィリアム・シーゲンターラーはウィル・シグルとなって。
二人は、再会した。
平田篤久の意義 J-record.3 半井幸矢 @nakyukya
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