ディテクティブ・ダンス
BANG!BANG!
銃弾が飛び交う中、マサカーは加速した。
そして僅かな隙間を縫うようにすり抜け、元々乗客であった三浦の
時折銃弾が掠め、マサカーのコートにダメージを与える。
「殺す腕前も高ければ、生き残らせる腕前も高いか。伝説、伊達ではないな」
「殺し屋だからな」
「否。貴様は生粋の探偵」
赤い眼光を光らせる傀儡が強烈な回し蹴りを繰り出す。
傀儡は三浦の自我が薄くゾンビのようだが、稀にこのような重点的に意識を置かせている厄介な傀儡がいた。
マサカーはその回し蹴りを避け、身を捻りながら空中で一回転し首元に回し蹴りを繰り出す。
一瞬怯む三浦の傀儡であるが、そのまま懐から旧式拳銃を取り出し薙ぎ払うように発砲してきた。
「チィッ……!」
「我らは我ら。甘く見るな」
「甘く見てはいない!」
BANBANBANBANG!
マサカーのコートはこの旧式拳銃の銃弾を通さぬであろうが、防いだ際に走る激痛は致命的な隙を晒すことに繋がるため、回避に徹する。
回避に徹しながらも、マサカーは連続でチョップを叩き込む。
傀儡はその衝撃でバタンと地面に倒れた。
そこに別の傀儡がマサカーに鋭い回し蹴りを繰り出す。
マサカーは受け、怯んだ。
その威力は並のアサシンの繰り出す蹴り以上。
思わず血を吐く。
「がはっ!?」
「見事だが隙ありだ。抹殺探偵」
「はぁーッ!」
マサカーを狙う三浦の傀儡を、サファイアが飛び蹴りで吹っ飛ばす。
「助かった、サファイア」
「はい!」
一方の来音は先の車両へと先陣を切っていた。
予想通り先の車両、そしてまた先の車両も、乗客たちは三浦の傀儡となっている。
「っとお!」
来音は流れるように傀儡たちに気絶チョップや気絶パンチを叩き込み、黙らせていく。
傀儡たちの動きは映画に出てくるゾンビよりも遥かに優れているが、三浦という明確な自我の延長線に存在するため、こうした気絶戦法が可能だ。
来音は回し蹴りで牽制しながら、更に軸足で地を蹴り軸足変更回転キックを繰り出す。
彼女の格闘術も磨かれていた。
「来音!そっちはどうだ!」
「来音さん!」
マサカーとサファイアが来音のいる車両へと入ってきた。
「見ての通り!わんさか!」
BANG!BANG!
来音と飛来する弾丸の間に、
そこをサファイアが列車の壁を蹴りながら傀儡との間合いを詰め、回し蹴りで黙らせる。
「助かったよカスター!サファイアちゃん!」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫!」
「ここも片付け終わったな」
マサカーはその間にも流れるような打撃の応酬で傀儡たちを撃退していた。
「本体は、一番前の車両にいるのでしょうか……」
「そう見た方が良さそうだな。ともかく先を急ぐぞ。油断したら即命を取られかねん」
「よし、ここはショートカットしていこう!」
来音はパンチで列車の窓ガラスを割り、体操選手のように列車の外へと飛び出していった。
屋根に上ったのだ。
「サファイア、いけるか」
「もちろんです」
マサカーとサファイアも、その窓から屋根に飛び移った。
屋根から見ると、市街地が広がっていた。
南部はもう少し先のようだが、店の看板や雑居ビルなどが立ち並んでおり、西部からは離れたことがわかる。
三人は屋根を駆け、一番前の車両の窓を割り突入した。
一番車両には一人しかいなかった。
運転席には傀儡となった運転手が機械のように淡々と列車を運転している。
車両内で正座をし精神集中していた大正時代を思わせる軍服の男が、マサカーたちに気付き立ち上がった。
「なるほど。流石に数で押すにも無理があったか」
「外道。ここからは俺達とお前だけの時間だ」
「乗客を操るなんてどうかしてるね」
サファイアは軍隊武術のように洗練された構えを保っている。
「……良かろう。三対一。引き受けよう。我ら一人でも、そう甘くはないぞ」
三浦が言い終わった途端、サファイアが地面を蹴り彼との間合いを詰めた。
死の間合い。
三浦は赤い眼光を光らせ、サファイアの繰り出したサイドキックを迎撃し、カウンターの回し蹴りを繰り出す。
更にその勢いで流れるような上段へのハイキックを放った。
「んあッ!」
「サファイアちゃん!」
サファイアは防ぎ損ね、ハイキックを受け宙を舞う。
三浦はあえて追撃せず、向かってきたマサカーと来音の対処へと意識を回した。
加速する刻で瞬間加速したマサカーの動きは速い。
だが、三浦にとっては捉えられぬと言うまでの速度でもなかった。
まず三浦はトラップを置くように放ったミドルキックでマサカーを牽制、そして来音の繰り出した義手による怪力パンチをあえて拳で受け、骨を軋ませながらも防いだ。
流れるような打撃の応酬が続く。
「がァッ!」
「グゥ……ッ!?」
マサカーと三浦の拳が両者の顔面に命中し、怯む。
そこに来音が義手を展開し、内蔵されたレールガンを起動しようとする。
しかしそれを察知した三浦はマサカーを盾にするように立ち回り、回し蹴りで牽制。
防いだところを更に変則的な回し蹴りで怯ませる。
三浦は次々と防御ではなく攻撃を繰り出し、相手に攻撃を封じていた。
狂気的な格闘は三者にとっても脅威であり、油断すれば命取りである。
「我らが数の暴力を受ける番か……!」
しかし、三浦も多対一は流石に不利であった。
そして相手の一人は伝説とはいえ凄腕であることが確証されているマサカ・マサカー。
五木来音も相当の腕前。
サファイアという少女も未熟ではあるが、そこらのアサシン並かそれ以上。
三浦は赤い眼光を光らせ、更に
マサカーは牽制を受けながらも、身を捻り上段への回し蹴りを放つ。
三浦はそれを屈みながら躱し、足払いで来音のミドルキックも捌きながら牽制を行った。
当然の行動であろう。
マサカーはそこに勝機を見出す。
ハイキックの勢いで身を捻り、そのまま踵落としを繰り出したのだ。
「効かぬ!」
三浦は地面を転がりそれを紙一重で回避するが、そこにはサファイアがいた。
「サファイア!」
「はい!」
サファイアは転がり起き上がろうとしていた三浦の顔面に、掌打を繰り出した。
掌打は、衝撃波を体内に満遍なく叩き込むことが可能だ。
軽い脳震盪を起こした三浦は怯んだ。
「だてでは……なかったか……!」
「終わりだ!」
そこにマサカーが、居合道の一閃のような鋭い回し蹴りを繰り出した。
素早い、竹をも斬るような蹴り。
蹴りは命中し、三浦の首を720度回転させた。
完全に即死だ。
だが、三浦は執念故か徐々に首を戻していき、抹殺探偵をその狂気孕む赤い眼光で睨んだ。
「おも……しろい……な……!マサ……カー……!貴様は……何のために戦う……!その力で……その仲間たちと……何を為す……!」
「……やることは決まっている」
サファイアは所長の瞳を見る。
マサカーの目には炎が宿っていた。
三浦は大袈裟に手を広げ、地面に這いつくばった。
「フフフ……また再び戦場で見えることに……なろうぞ。貴様の帰還を歓迎しよう!抹殺探偵、マサカ・マサカー!」
マサカーは三浦の頭部を踏み砕き、沈黙させた。
「帰還を歓迎、か」
マサカーは足を三浦からどけ、二人を見た。
サファイアは心配そうな表情で見つめていたが、来音は彼と肩を組んだ。
「何とかなったね、カスター!」
「ああ、何とかなったな」
「み、皆さんは元に戻るのでしょうか……」
「きっともとに戻るさ。定義した者がいなくなったんだ。定義が終われば自由になるはずだよ」
サファイアが後方車両を見ると、軍服に身を纏っていた乗客たちが、いつの間にか元の姿に戻っていた。
運転席の方を見ると、運転手は戸惑いながらも操縦を続けていた。
「ホントだ……戻って、ます」
「良かった良かった!」
「だが俺達の騒ぎが、ケインのヤツらにバレていたら面倒だ。静寂探偵サイレンスのバイタルサインも途絶えただろうしな」
「そうだね。とりあえずは、駅に着くまで座っていよう」
「わかり、ました」
「ああ、そうだな」
来音は疲れたようにドカッと椅子に座った。
マサカーも同様だ。
数年のブランクがあるというのに、超能力を短期間のうちに連続使用してしまった。
肉体への負荷は相当なものだろう。
そしてそれは、マサカーの予想以上に響いていた。
彼はふらっと倒れ、サファイアに支えられた。
「わっ!?……大丈夫ですか、所長!」
「カスター!?」
「スマン……ブランクと相まって予想以上に響いて……る……」
マサカーは眩暈がした。
だが彼に気絶は許されなかった。
それはかつて鍛えたことの名残りか、決して夢を見させぬという神の悪戯か。
マサカーはサファイアにもたれかかった。
「所長、今は休んでください……もう少しで、また殺しです……けど」
「すまん、サファイア……」
「ほら、カスター。椅子に横たわってた方が良いよ」
「あ……」
サファイアにもたれかかっていたマサカーを来音は担ぎ、列車の椅子で横たわらせた。
サファイアは少し寂しそうな表情を浮かべ、マサカーの頭の隣に座った。
南部の駅が近づいてくる。
そうすれば、また殺しだ。
だが、ケイン・ギルフォードを殺せば目的は達成する。
その後は、何をしようか。
ふとマサカーはサファイアと目が合った。
サファイアがぎこちなく微笑んだので、マサカーもぎこちなく笑みを浮かべた。
抹殺探偵マサカ・マサカー たみねた @T_G
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