不屈の行進
マサカーは常人とは比べ物にならぬ速度で立ち上がり、懐からサブアームの拳銃を抜き、三浦に発砲した。
どろりと濁ったように乾いた銃声が、マサカーの耳でスローがかったように響く。
サファイアは目を見開いた。
マサカーは彼女でもやっと追える程の速度で一連の動作を行ったのだ。
それが抹殺探偵マサカ・マサカーの
三浦の肉体に銃弾が到達すると共に、マサカーは彼の目前まで接近していた。
「なるほど」
三浦は銃弾を受けてもビクともせず、マサカーが繰り出した拳銃を用いた打撃を右手で捌き、逆のライフルを持った手で拳銃を弾き飛ばす。
マサカーは拳銃が弾き飛ばされたことを気にもせず、再び始動した加速する刻の勢いで地面を蹴り、空中で二度回し蹴りを三浦に叩き込んだ。
三浦はその回し蹴りを受け、たたらを踏んだ。
一瞬の木人拳のような一方的連続打撃は、マサカーが三浦の下顎を蹴り上げながらバック転し、間合いを取ったところで終わる。
「貴様、なかなかやる」
「何……」
三浦はズレた顎を手で強引に直し、赤い眼光でマサカーを見据える。
来音は咄嗟に拳銃を構えた。
あの一瞬の加速の勢いを用いた連続打撃は、言わばマサカーの必勝打撃コンボの一つであり、顎を蹴られた者はそのままの勢いで首を体から吹っ飛ばされ死ぬ。
だが三浦はそれで死んでいない。
「本物の探偵とお見受けする。そこの探偵と、少女の名は」
「……抹殺探偵、マサカ・マサカーだ」
「サファイア」
「抹殺探偵マサカ・マサカー。なるほど。我ら探偵の始祖。伝説の探偵。噂。恐ろしいおとぎ話」
三浦は仁王立ちのように、赤い眼光を光らせて三人を見据えていた。
乗客たちは隠れ、その様を見守り、あるいは震えている。
来音はマサカーのバッグを漁り、サファイアにサブマシンガンを投げ寄越した。
「だが同時に、時代遅れだ。何故この世界に戻った、抹殺探偵」
「……」
「所長……」
マサカーは押し黙った。
サファイアは不安げに彼を見つめたが、サブマシンガンを油断なく三浦に構える。
「では何故この場にいる。五木来音と行動を共にし、殺しを再開したのではないのか」
「私達はただ一緒に行動しているだけだよ。悪いか?兵隊気取り」
BLAMN!
来音は拳銃を発砲するが、三浦は拳銃から射出された銃弾を腕で受け、ただ一歩下がったのみであった。
三浦は大袈裟に手を広げ、冷たく言い放った。
「教えてやろう。五木来音。そして抹殺探偵マサカ・マサカー。それに、そのサファイアという少女」
「ほう、何を教えてくれる」
「貴様らが出る幕はない。抹殺探偵も、所詮は伝説。伝説とは、立ち枯れた過去の遺物だ。現代には敵わん。我らの行進を止める理由にもならぬ」
「なら止めて見せよう」
「そうそう。アンタの好きにはさせない」
「そう、です……!」
「良かろう。ならば我らは、行軍する」
三浦が一歩踏み出した。
BLAMN!BLAMN!BLAMN!BLAMN!BLAMN!
BRATATATATATATATATATATA!
それと同時に、来音とサファイアが容赦なく三浦に拳銃とサブマシンガンを連射し、彼を蜂の巣にした。
彼は銃弾の嵐を浴びながら死のダンスを踊り、列車の床にバタンと倒れた。
「……兵隊探偵三浦兵、か」
マサカーはその死体を一瞥し、ドカッと列車の椅子に座った。
加速する刻の連続行使が体に響いたのだ。
「終わり、ですか……?」
「耐久力、格闘術共に優れていた……けど、銃でアッサリやられる。信じがたいけど、終わったのかもね」
「いいや、まだだ。我らが
三人は咄嗟に声のした方向へ銃口を向けた。
声のした方向には、先程まで座って震えていた乗客しかいない。
だが、乗客の一人が立ち上がった。
一人が立ち上がると、この車両内にいる老若男女問わない乗客全員が立ち上がった。
いずれもただの民間人。
しかし、その眼光は三浦と同じく赤く光っており、底知れぬ狂気を孕んでいた。
この場の、三人以外の全員が。
「どういう、ことでしょうか……!?」
「来音、何か知ってるか!」
「いや、これは知らない……!」
乗客たちは懐へ手を入れ、そして出した。
いずれも、旧時代の拳銃をその手に握っていた。
乗客たちの顔面はいつしか逆光に隠されたように黒く塗りつぶされ、狂気を孕んだ赤い眼光のみが覗く。
そしていつの間にやら、乗客たち全員に三浦と同じような軍服が身に纏われていた。
「
女子高生であったものが、冷たい声で言い放った。
「我らは我らを定義する。民間人は
年老いた男であったものが、冷たい声で言い放った。
不屈の行進。
それは、兵隊探偵三浦兵が精神的なガードの薄い常人たちを己と定義することで、意識を乗っ取り更には肉体まで変貌させて己としてしまう恐るべき超能力であった。
三浦は
「乗客を人質に取ったか、外道め」
マサカーの怒りに燃える声は、サファイアも感じ取っていた。
三人は背中合わせになり、銃口を周囲に向け牽制する。
「アレだ、カスター。こういうのはきっと本体がいる」
「……そうだな。本体を殺すぞ」
「はい……!」
「鋭いな、女アサシン来音。だがそう簡単に事が進むとでも思うか?」
「進む。本体を見つけ、そして殺す」
マサカーは銃をホルスターに仕舞い、両手を構えた。
来音もそれを感じ取り、銃をベルトのホルスターに納める。
「サファイア。これは元は乗客だ。殺さず、慎重に行くぞ。そして本体を見つけたら、徹底的に殺る」
「わかり、ました。本体を……倒します」
「そうこなくっちゃ!」
サファイアはサブマシンガンを地面に置き、軍隊武術めいて洗練された構えを取る。
「何だと?抹殺探偵ともあろうものが、我らに銃を向けぬと?本体がいないかもしれぬというのにか」
「我ら、ではない。我、だろう。そしていくら誤魔化そうとも、お前はお前だ。お前だけを殺す」
「……事件関係者は加害者だろうが被害者だろうが全て抹殺するという噂話は嘘だったか。良かろう」
乗客たちが旧式の銃を構える。
「
BANBANBANBANBANG!
旧式の拳銃たちが戦いの始まりを告げ、三人は駆けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます