第9話 案の定の問題
ヘルモント兄妹と共に一度屋敷に帰り、貰ったばかりの制服に袖を通して宮殿に向かった。
会場に向かう馬車の中ではヘシセルが宮殿がどれだけ歴史があって素晴らしいものなのかを熱心に教えてくれていたがあまり聞いていなかった。初代国王が住んでいたというところまでは聞いていた。
厳重に警備がされている建物の前で馬車が停まると、外から扉が開けられて執事風の男性が会場となっている2階の部屋までエスコートしてくれた。俺が女子なら惚れたね。男でもキュンとしたから。保身のために新しい扉は開いていないと神に誓おう。
部屋の中には美味しそうな料理が並び、同じ格好をした男女が飲み物片手に話し合っていた。
「(酸素濃度が低い……気がする……)」
「(落ち着け。最低限のマナーさえ守っておけば酸素マスクが配給されるはずだ……)」
「「「小声で何言ってんの?」」」
お金持ちのきらびやかな空気に中てられて戸惑っていると金持ち代表みたいな家柄の3人がまっすぐに部屋の真ん中に向かって歩き出した。
1つ大きく息を吸い、覚悟を決めてヘシセルに続くとあっという間に知らない人たちに四方を囲まれた。
(ああああ……陰キャに対する拷問か……人海戦術ってやつか……)
色々な方向から「婚約者はいるんですか?」とか「婚約者はいるんですの?」とか「どこの出身ですか?」とか質問を滝のように浴びせられていたが、男の声がするとピタッと止まって人海が割れてイケメンが立っていた。
「貴方が月森蒼ですね」
「そうです。貴方は?」
「そちらの貴方が神野朱里さんですね」
「……名前を言えよ。蒼が聞いてるでしょう?」
一瞬イケメンに無視されてイラッとしたが次の瞬間にはイケメンが肉塊になって無いか心配になってしまった。
イケメンは肉塊にはなっていなかったが朱里の剣幕に若干引いた様子でヘシセルに向き直った。
「お久しぶりです。王女殿下、この2匹が新しいおもちゃですか」
「場をわきまえなさいウォルス。この2人は私の友人よ」
「そうでしたか。ペットのしつけは王女であろうとすべきだと思いますよ。では、失礼します」
散々失礼なことだけ言ってウォルスなるイケメンは部屋を去った。彼が出て行ったあとの部屋の空気は最悪で、アンチ・ウォルスが大半を占めている感じだった。
「彼は?」
「ウォルス・フォン――」
「ドアレス!彼はすでに貴族ではないでしょう。彼はただのウォルスよ」
「失礼しました。気をつけます」
ヘシセルがあんなにイライラしているのは初めて見たが何となく事情は察した。彼は貴族だったが何らかの理由で除籍されたのだろう。そして除籍の理由は噂程度かもしれないがかなり広まっているのだろう。
「空気が悪いわね。蒼なんか面白いことしなさい」
「なるほど、朱里の鍵を無くした話なんてどうだろうか」
「言ってもいいけど……こr」
「よし!ここは蒼の魔術師こと月森蒼が面白いことをしましょうね‼」
あの子いまストレートに「〇す」って言いかけなかった?怖すぎるでしょう……。
かなり悪い空気の中だったが、王女が俺に無茶振りをして、俺がグラスに入った水を花にして一輪挿しもどきを作ったところで雰囲気の換気は成功した。
最初こそごたごたしたが宴会そのものは順調に進み、美味しいご飯と同じクラスになるという数人の男子と仲良くなった。ドアレスがいなかったらボッチだったな……あぶねえ……。
「ういー。食べたたべた」
夜風に当たりにバルコニーに出ると下の方でコソコソと話す声が聞こえてきた。
いつもの俺ならそそくさと部屋に戻ったろうが今回は魔術で死霊を呼び出していた。
下の林の中で話していたのは2人の男で、1人はフード、もう1人は案の定ウォルスだった。
残念なことに死霊は魔力が込められた音以外は聞くことが出来ないので何を言っているかは分からなかったがしばらくすると2人は解散していった。
(不穏だねえ……)
どうも英雄という言葉には厄介事を引き込む魔力が込められているようだ。
紅の剣士と蒼の魔術師の異世界生活 詩た猫 @utataneco
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