第8話 先日の敵は今後の友

 「そういえば制服のサイズってどうやって学校側は知ったんだ?」

「え?知らないと思うわよ?」

「は?でもこれから制服を受け取りに行くんだよな?」

「そうよ?」


馬車の中で小規模な女子会が開かれそうな空気が流れ始めたので唯一の男子である俺最後と抵抗として先日からの疑問をヘシセルにぶつけてみた。

 彼女曰くこの世界での服は基本的に魔物が出した糸で作り、「体に合わせて服を作る」ではなく、「作った服が体に合わせて伸縮する」らしい。朱音は「フリーサイズなんだねー」とか言ってるが俺は到底理解できない。俺の頭が固いのだろうか?


「採寸して服を作るなんてそれこそ貴族の道楽よ。しかも魔物の糸を使っていない服なんて洗ってるうちにダメになっちゃうんでしょ?もったいないじゃない」

「俺の価値観だと服がボロボロになる前にサイズ的に入らなくなるんだが」

「服なんて買ったら最後一生着るなんて普通よ?」

「そうなんだ……」


朱音は大して興味が無かったのか俺たちのことは完全に無視で外を眺めていた。もう少し興味を持ってもいいと思うんですがそこは……。

 結局女子会の開催を阻止することはできず、移動の三分の二は空気と過ごすことになった。

 学院に到着すると合格者らしき人達が正門を少し入ったところで列を作っていた。

 王族だから列になんて並ばないのかと思ったがためらいもなく列の一番後ろに並びたまたま前に並んでいた平民出身の合格者と簡単に挨拶していた。

 列は教師が数人入ったテントを先頭に出来ており、順番が回ってくると制服や教材が入っていると思われる木箱を受け取っていた。

 俺たちも木箱を受け取ると無言で女子たちは俺の箱に綺麗に積み重ねて校舎内の自由探索に行ってしまった。


「……。『収納ボックス』」


逃げるように校舎に入っていった2人を追いかける気力は湧かなかったので大人しく収納魔法に三人分の箱を放り込んで1人で花壇の淵に座って趣味である人間観察を始めた。「趣味:人間観察」って隠しきれない陰キャオーラを纏ってるよな……。

 かわいそうな人を見る視線が若干痛いが気にすることなく観察をしていると屈強な男性が近寄ってきた。


「――お前が蒼か?」

「そうだが、貴方は?」

「自分はドアレス・フォン・ヘルモルトという。貴方が実技試験で下した奴の兄であり、朱音殿に敗北したものだ」

「ああ、朱音を久々に怒らせた……」

「やはりあれは怒っていたのか……。きょ、今日も来てる、よな……」


実技試験の時はもっとガキ大将感があったがボコボコにされて丸くなったのだろうか?めっちゃ朱音にビビっててシンパシー感じるな!


「来てはいるが今は王女殿下と校舎を見て回っているよ。妹さんはどうしたんだ?」

「あいつも俺に荷物を押し付けて校舎に走って消えて行った。迷子になってしまえばいいのにと思っているところだ」

「(ああ、こいつとは友達に慣れそうな気がする……)」


 せっかくなので世間話でもと思いとなりにドアレス君を座らせて、日頃の不満やモヤモヤをぶつけ合った。


「――そうなんだよ。あいつらは報連相がなってない!」

「まったくだ!しかもその責任が自分まで回ってくるのだからやってられん!」

「ドアレス!」

「蒼!」

「「友よ‼」」

「「「何してんの……」」」


熱く語り合い、この世界に来て初めてできた同年代の男子の友達と熱い抱擁を交わしていると空気読めない女子たちがそろって帰ってきた。


「王女殿下‼お久しぶりでございます」

「そう堅苦しくしないでいいわ。蒼とも仲良くなったようだし」


そうだ、シュテファン嬢が貴族で、そのお兄ちゃんなんだからドアレスも貴族か。気にしてなかったけど後で絞められたりしないよな……。


「蒼様もお久しぶりです」

「シュテファン嬢こそ、合格おめでとうございます」

「シュテファンで結構ですよ」


兄同様、実技試験の時とは別人のようだがこっちの方が普段の感じなのかな?それとも丸くなった?

 個人的にドアレスが朱里に今度こそ肉骨粉にされないかドキドキだったが朱里はドアレスにあまり関心が内容で淑女風な対応をしていた。命拾いしたな、ドアレス。


 「そういえば蒼と朱里殿も宮殿宴会に参加されるのか?」

「おうきゅうえんかい?」

「合格者が王城近くの宮殿に呼ばれて顔合わせするのよね」

「断られたら面倒くさいから蒼には伏せておいた。馬車で引きずってでも参加させるが、どうかしたか?」

(神よ、度々俺だけはぶられるのは嫌われているのでしょうか……)


無言の悲しみを全身で表現する俺をドアレスは見て見ぬふりして話をつづけた。


「いえ、今回の入学生は主席・次席が貴族ではない上に異邦人である2人であるため一部の子息から反感を買っているのではないかと……」

「なるほどね」


ドアレスなりの優しさだが、


「まあ、大丈夫だろ」

「そうね。私たちには王家の後ろ盾があるし、私たちに危害を加えられる人なんていないでしょ」

「「お、おっしゃる通りかと」」


俺たちに完膚なきまで叩きのめされた兄妹は朱里の不敵な笑みに震え上がってしまった。俺も震えたね。どうしてヘシセルが大丈夫なのか俺には分からん……。

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