今やカクヨムSF界、期待の星となった十三不塔さんが10年前に書かれた作品。1話だけでも読む価値ありです。繊細でありながらユーモアに富んだ文体は、既にこの頃から健在だったようですね。日常の描写が凄く面白い。このセンスは是非まねしていきたい所。
さて、本文中の印象的なシーンで登場する「バニヤンの木」ですが、これは菩提樹のことです。釈迦はこの木の下で悟りを開いたと言われており、くたびれた平凡な中年を思わせる主人公が、人生を俯瞰する切っ掛けの示唆ともなっています。しばしば超人のように描かれる釈迦ですが、実際には悟りのようなことが我々の中にも起こり得る普遍的なことなのでは無いかと、この不思議な話を読んだ後には自身を重ねて見ることができるかも知れません。
印象的と言えば、十三不塔さんが群像で賞を取ったデビュー作にもストーリーの劇的な転換にテニスボールが使われていました。"テニス"ではなく"テニスボール"なのです。壺がこの作品にとってストーリーを牽引するマクガフィンだとすれば、テニスボールはフラグと言えます。今後、私はテニスボールを見たら重要なプロットデバイスなのだな? と勝手に解釈することでしょう。
このようなレビュー・タイトルは、恐らくご本人にしてみれば大変こそばゆかろうとは思うのですが、これを見て恥ずかしがっているといいなぁと期待しつつ筆を置きます。
(レビュー消されるかもしれない……!🥺)