「それ」が衰退している理由

@HasumiChouji

「それ」が衰退している理由

「あのさぁ……スマホの製造メーカーが3社続けて事業から撤退したのはスマホの売り上げが落ちてるから、ってのは馬鹿でも判るよ。『何故か?』まで書かないと、お前の記事を誰も読んでくれないよ」

 編集長は、俺の原稿を読み終ると、そう言った。

「判りました……。何とか締切までには書き直します」

 とは言え、その「何故か?」が簡単に判れば苦労はしない。


 俺はニュースサイトの記者だ……。と言っても、ずっと、政府・企業・団体の公式発表と……あとはネット上の情報を元に記事を書いてきたので……と言うか、それだけで書ける記事しか書いてこなかったので、恥かしながら、一〇年近く、この稼業をやってきながら、取材のコネもノウハウも無い。

 どうしたものかねぇ……と思いながらネット上から情報を集めてる内に、気付いた時には、職場のPCを使いながらSNSを眺め……。

「おい、仕事しろ」

 背後から編集長の声がした。

「すいません……」

「しっかしさぁ……ここのユーザーを奪うようなサービスも中々出ねぇなぁ……」

 編集長の言う「ここ」とは、俺が見ていたSNSの事らしい。

「いや……でも……」

「こことF……が流行り出した途端に、国産SNSが、あっと云う間に衰退したんだけど……『次』が中々出ないんだよなぁ……」


「あのさぁ……『ここ何年かキラーアプリが出てないせいでスマホの売り上げが落ちてる』までは良いけど、その理由は何だよ?」

「いや……ええっと……」

「はい、やりなおし」

 記事の原稿の第2稿でもOKはもらえなかった。

「やれやれ……」

 あわよくば、パクってやろうと、他社のニュースを見てみる。

 アメリカの大統領が、例によって、また訳の判んない理由で、聞き慣れないが、どうやら若者の間で流行っているらしいWEBサービスの事業認可を取り消そうとしているらし……ん? いや、流石にそれは無いか……。


「何だ、それは?」

「はい。都市部の若者の間で流行し始めている新しいSNSです。これまでに無い特徴としましては……」

「下らん事はいい。一番肝心な事を説明しろ」

 アメリカ大統領は、連邦政府の職員の回答を遮った。

「え……えっと……」

「そのナントカとやらが、この前の反政府デモの呼び掛けに使われたんだな?」

「は……はい、その通りです」

「判った。適当な理由を付けて、事業認可を取り消せ」

「えっと……その……」

「何をしている。さっさとやれ」

 その時、大統領のスマホから着信音がした。

「何だ?」

「大統領、そろそろ、在米中国大使との商談のお時間です」

「判った。今日の商談は何だったかな?」

「ええ、何でも……中国で使われている『金盾』なるシステムが、我が国でも需要が有るのでは無いか? との事で……」

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