特別編 彼の始まりと魔法使いからのお誘いは船付き。

*作者コメント*

 初のスケベなキャラで、思うように書けたかは……微妙なラインでした(汗)。

 他の作品でももう少し色気かラッキーイベントがあってもいいと思うんですが、作者の力不足もあって中々上手くいきません。なるべく改善しつつ機会があったらそっち要素が多いのも目指したいです。……時間が全然取れませんが。


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 男の過去なんて語っても仕方ないと思う。

 ただのスケベな冒険者兼店員さんが俺にはちょうどいい。あとスケベと書いて紳士な奴だからそこは誤解しないでほしい。

 

 ようするに男の過去話ほどつまらない物ないという事だ。

 可愛い女の昔話ならウェルカムだが……残念ながらそうはいかないらしい。


 これから語るのは、ほんのちょっとした俺のつまらない話だ。

 エロい展開でもあったら妄想にふけれるんだが、生憎とそんな展開も皆無。果てしなくつまらないので、その辺りは了解の奴だけこの先を読むといい。──再度言うがマジでつまらない男の過去だ。経験した俺が言うんだからそこは保障しよう。






「ターゲットはコイツだ」


 黒のフードを被った男はそう言って、俺に紙切れを手渡す。

 マジックアイテムのカメラで撮った一枚の写真だ。写っている人物の目線がこちらに向いていないので隠し撮りのようだが……。


「あの国の国王だ。って来い」


 アバウト過ぎるだろうが、俺のような下っ端暗殺者なんて、本職のデータ取り程度にしか見られていない。


 しかも拒否権なんてないから俺はただ頷くしかなく、わざわざ高い転移のマジックアイテムを使ってまで、最短で王都へ到着した。……意外だったのは武器も移動費は組織からで気前がよく、着いた当初は観光気分で王都を見て回っていたが……。


、道連れ狙いか」

「武器に爆破物を仕込んでいたとは笑えんな」


 僅かにでも組織に感謝した自分を殴ってやりたい……!

 いざ、王都に張り込もうとしたら感知用の魔道具に引っ掛かってあっという間に捕まってしまった。それも用意された銃型の魔道具と思っていた大筒が、実は使用者すら粉々にする爆弾だった所為で!


「牢屋にでも入れておけ!」


 で、牢屋行きが決定する。一応組織の背景を問い質す為にと、手早く王城の牢屋へと送られたが……それこそが組織の狙いだった。


「しゅ、襲撃だぁぁぁぁ!」


 事件はその夜に起きた。

 どうやら内部にスパイがいて、回収された俺の爆弾を王城内部で使用してパニックを引き起こす。

 続けて組織の奇襲部隊が外側から襲撃。王城を占拠して国王と王族たちの首を取ろうとしたが……。


「ど、どうして貴方が私たちを……?」

「な、成り行き?」


 なんでか俺が国王の娘を守ってしまっている! え、理由って? この機に乗じて脱獄を企んでたら、うっかり遭遇してつい助けてしまった。裏切り行為でヤバいけど後悔はない!


「まぁまぁ、とりあえず逃げましょうや!」

「あの! ちょ、ちょっと!」


 捕まったら絶対に殺される。俺じゃなくて

 王族というだけあってスッゲー美人だ。そう美少女! 俺は下っ端暗殺者だが、美女だけは対象外としている。そこは絶対のルールと心に決めていた!


「だ、大丈夫!」

「っ……何が!?」


 大したスキルや魔法なんてないが、俺は王女へ告げる。


「君は絶対に守r──『見つけたぞ! 王女だぁぁぁあ!』ギャァァァアア!」

「……(ジト目)」


 悲鳴を上げながら必死に逃げたら、その間に王城の騎士たちが奇襲部隊を制圧してくれた。

 一応王女を守った事になって、俺の罪は帳消しとなったが……情けない姿を見せたのに王女は気が向いたらしい。


「はぁ、このまま放置なんてできませんね。我が国、最強の騎士団に入って、そのヘタレを少しくらいは治してください。そしたらきっと父も……」


 いや鬼じゃん。騎士団長まで興が乗ったか、ほぼ強制的に騎士団の中に放り込まれた。やっぱり鬼しかいなかった。


「でもおっさん。ヘタレ解消の為だけによくこの団に入れたよな? お姫さんのお願いだからって、ちょっと理解できないぜ?」

「今は何も知らんでいいのさ若造。国王がなんと言うか分からんが、姫様は相当変わり者だな……」


 言って意味を理解するのに、何年もかかった。……最後はほぼネタバラシで、気付いた時には───。





「あれ? 気付いたら話が親父たちの馴れ初め話になってる……」

「オレから一番遠いよな!? ていうかそれを聞かされたオレはなんて答えたらいいんだよ!」

「俺の出生って……意外とファンタジー?」

「なるほどなるほど……ってツッコミ切れるかァァァァァ!」


 場所は変わってとある船の内部。

 外は海ではなくトンネルのような光の空間。

 こうして乗るまで俺も半信半疑であったが、どうやらこれで異世界に飛べるらしい。


「たく、外の景色に飽きたから話に付き合ってくれって言うから付き合ったのに……」

「普通の船みたいに操縦してるだけだろう?」

「壁に当たるとヤバいんだよ! こっちには空間系の魔法使いは居ないんだ! 打つかったらアウト!」


 憤慨するのはトオル・ミヤモト。

 以前別世界で一緒に協力した別世界の剣士だ。


「つうか、なんでこんな大きいのしか用意してないんだよ! 乗るのはたった数人なのに、なんで百人以上乗れるデカいヤツを用意するのかな! アイツは!」


 アイツとはこの船を造った人……かもしれない別世界の神サマな魔法使いだろう。


「だから前振りしたんだよ。つまらないって」

「そもそもお前の過去ですらない! 父親の過去を振り返ってどうすんだ!」

「……俺はどちらかと言うと母親似だったらしい。女好きな部分は父のを受け継いでるけど」

「そこだけで既に致命的だ! あとどの辺に母親要素があった!?」

「驚きっぱなしだけど操縦はしっかりなのは流石だ」

「全然嬉しくないわ! アホ!」


 まぁ、そんな感じで異なる身分との間に生まれた異端人が俺だった。

 しかも、生まれながらに魔力が無く『ゼロ』と呼ばれる体質者であった。魔法以外の要素はしっかり覚えたが、いつしか王都の中に俺の居場所はないと悟ってしまった。


「で、家出気分で旅している最中にアリサたちの親と出会った。彼女たちの親は研究者で、話が意外と合ってな。最終的に彼女たちの街と彼女たちの店を紹介してくれた。出会った当初はすっごい距離を取られたけどな」


 ああ、思い出すは懐かしき出会いの風景。

 幼いながらもアリサさんは姉として弟と妹を庇うように俺を拒絶して、リアナちゃんは人見知りが酷くて、泣きそうな顔には何度も心が折れるかと思った。


「あー、そりゃ警戒されそうだな。……出会った時からスケべだったのか?」

「失敬な! 出会った時からジェントルマンだよ!」


 まぁ、色々と障害はあった。危機的な状況にも追いやられたが、身に付けていた異能と気の一種である煌気でなんとか危機を乗り越えていった。そして……。


「この世界の女神たちと出会った事で、俺の運命もまた大きく変わった」

「四神使い―――守護者になったってことか」


 四人の女神と二人の天使と堕天使にこの世界の秘密を聞かされる。

 あの子たちを失いたくない一心から守護者を選んだが、果たしてそれが正解だったのか、今でも正直分からない。


「正解かどうかはこれからでも証明出来るだろう? 最も彼女たちの中では正解以外の答えはないようだが……」


 そう言って視線を横に移すトオルの先では、今回は同行している太陽のようなオレンジ髪のアリサさんと水色の髪をしたリアナちゃんがいるのだが……。


『ムゥゥゥゥ! いい加減に耳を離さんかァァァ! 無礼者どもめぇぇぇぇ!』

「可愛いわ! ああ、なんて可愛いの!」

「もふもふ天国……! 最高……!」

『こ、此奴ら! 守護獣であるワシが怖くないのか!?』


 クマみたいなデカいのに捕まえて、耳やお腹をモフモフしている。絵面だけなら捕食者と小動物であるが、襲われてるのはどう見ても捕食者の方だよな……。


「なぁトオル。アレってなんだ?」

「そういえばもう一人来るかもって言ってた奴はいいのか? 折角の異世界からの招待だが?」

「同時の妊娠騒動を起こして命が危ない奴の安否とか知るか! というか視線を向けたのに知らんフリするな! もしかして最新の着ぐるみかと思ったけど、アレってどう見ても魔物だよな!? いいのかアレっ!!」


 トオルは何にも見えてない風で、露骨に話題を逸らしやがった。あのクマ、あなたの関係者でしょう!


「ま、まぁアレでも守護獣だし。無闇に人を襲ったりは…………………しない…………よ?」


 間が長過ぎんぞコラ! 目が泳ぐくらい危ないならなんで連れて来たの!


「たく、招待に応じてみたらこんな扱いかよ! これで混浴じゃなかったら絶対に覗いてやるっ!」

「混浴なわけあるか。悪いこと言わないから覗くのは止めておけ。一瞬であの世行きだぞ。……あと前半オレみたいに不満そうな言い方すんな」


 チッ無いのか。僅かな希望がたった今消えてしまった。


「露骨に落ち込むとオレも引くんだけど」

「平然と希望を潰すお前らには分からないのさ。この男の欲望を満たしたいと望む俺のようなヒーローの事なんか!」

「知りたくもないわ!」


 仕方ないので俺もアリサさんたちに混ざることにする。

 勿論クマとハグする趣味はないので、それを利用してあの二人のタワワな部位にハグを目指して……───と思ったら突然


「ん、なんだ? もう着いたのか?」

「え、いや、そんな予定の時間じゃ、まだ……」


 と首を傾げている俺たちであったが、その刹那で俺たちの緩んでいた気持ちが一気に締め付けられた。

 

「「っ……!?」」


 視線を感じた途端、心臓を握り潰されそうな圧力がのし掛かる。

 アリサさんたちも異変を感じて、俺たちに声を掛けてくるが、俺もトオルもそれに応えている余裕がなかった。


「この視線はどこ……か、ら」


 集中して視線の気配を探っていると、自然と気配がある上空を見上げて───思考が止まった。


「……は?」


 上空に居たのは、この巨大な船が小船に見るくらいの巨大過ぎる


『───』


 その背には要塞のような巨大な城を乗せており、ドラゴンは静かにこちらの船を……いや、俺たちを覗き込んでいた。



 物語は『?????? 破滅の序章』に続く。


*作者コメント*

 予定していた主人公の過去話が自然と親の話に変化しました。一応出生の秘密解禁となります。

 残念ですが、こちらも進めそうないのでこれで終わりとなります。続きは多分無理なので別物語に続くようにしました。いつも通りです!


 あと出て来るのはまだ先ですが、それよりも前に『弟子の魔法使い』でヴィットさんも登場予定です。こちらも来年の一月くらいになりそうですが、こちらの作品もよかったらどうぞ!

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居候人は冒険者で店員さん ルド @Urudo

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