第3章の予告みたいなもの(出すかも不明ですが)。
……顔見知りがいると、こんなに居心地が悪いとは思わなかった。
今の俺の事を伝えると男は笑い声を上げる。そんなに笑わなくてもいいと思う……。
「ハハハハハ! そうかそうか! あの君が今じゃそんな風なのか!」
「……あんまり茶化さないでください」
「いやー、スマンスマン」
嫌々王都に来てみれば国一の大物との再会。護衛という建前で暇潰しに巻き込まれて、とうとう5日が経過した夜のことだ。お店からの帰り道を専用の馬車で乗させてもらっていた。
「す、すみません国王様。ヴィットとの食事会に私たちも御一緒してしまって……」
「気にするな気にするな! 私が無理矢理、君たちを誘ったんだから!」
アリサさんたちも同伴の食事会という名の飲み会に強制参加していた。
代表としてアリサさんが恐縮した様子で、国王───つまり国のトップに頭を下げているが、とうの国王は気にした風もなく笑って済ませた。
昔から気さくな人で親しみ溢れる人だから国民に人気が高い。
元騎士だったこともあり部下からの信頼も厚い。現に同伴している私服の護衛騎士たちも何も言わず、こんな我が儘にも付き合っていた。……さすがにお酒には付き合わなかったがな。
「にしても、あの堅物の子が……面白い成長をしたものだ」
「昔の彼ってどんな風だったんですか?」
「子供でも男児なら女に目を奪われるものだ。歳の差があるとはいえ、私の娘達のプロポーズを平気で蹴った」
などと全然軽くないネタバラシをされている最中であった。
真っ先に異変に気付いたのは俺だった。
「止まれ!」
「っ!?」
馬車を走らせていた御者を止めさせる。
そして、キィーという音と共に急停止した直後。道の先でこちらよりも大きな馬車が壁になるように出て来た。
***
「……バックしてくれ。───早くッ!」
荷台から出て来た覆面を被った複数の武装した集団。
さらに後方も黒い馬に乗った黒騎士が立ち塞がって来た。
「っ───後ろを任せる!」
「ああ!」
カインに後ろの黒騎士を任せて、俺は私服の護衛騎士2人と一緒に前方の敵の相手をする。
国王直属の精鋭部隊だけあって、2人とも冷静にかつ確実に倒していく。俺も遅れないように1人、また1人と倒していった。
カインも少々苦戦していたが、持ち前の剣術で黒騎士を圧倒。特にこちらの負傷は出ず相手の馬車も退散した。
しかし、戦いの最中に馬車の車輪を破壊されて、馬も負傷して身動きが取れなくなった。
***
王城までの道のり。なるべく広い道を進みたかったが、敵側が関係ない国民にも遠慮なく攻撃する可能性が捨てきれないと、国王自ら細道を選択。
護衛の騎士達は渋ったが、やむなく人気の少ないルートを選んでしまった。
察知能力が高い俺が前に出て、国王を誘導していると……。
「───来る!」
俺の呟きに全員に緊張が走ったのが分かった。
嫌な予感がビンビンしていたが、堂々と2人の敵が現れた。
どちらも細道でも振り回し易い鋭利な短剣を握っている。
ゆっくりと近づいて来る無駄のない動きから、こいつらも相当の殺し屋だと理解出来た。
「カイン……」
「……分かってる」
俺とカインは前に出る。
護衛騎士は4人いるが、不測の事態も想定すべきだ。うち1人はアリサさんたちのガードも頼んでいる。ここは俺たちがやらないと、と思ったが……。
「ぐっ!」
「がぁぁぁぁ!?」
目の前の敵に集中し過ぎていた所為で、闇に紛れて後方から近づいて来るもう1人の仲間に気付かなかった。
「お、お前たちっ!」
「退がってください!」
隠れていた奴に護衛騎士2人が負傷した。慌てて他の2人が国王を庇うが、黒い短剣を握り締めた相手は遠慮なく攻めて行く。
動きが他の奴らよりも速くて鋭い。視界が悪い夜ということもあって、残りの騎士2人の動きが悪く、徐々に追い詰められた。
必然的に守ってもらっているアリサさんたちも危ない状況に立たされていた。
「ッ!」
「邪魔だぁぁぁぁ!」
「カイン!?」
慌ててフォローに入ろうとする俺に、相手をしている奴が立ち塞がる。
その中、同じくフォローに駆け付けようとしたカインが敵を横薙ぎで振り払って強行突破した。
「姉さんと妹に、手を出すなぁぁぁぁぁッ!」
光の魔力を込めた剣撃が騎士達を襲っていた者に直撃。
衝撃を受けて吹き飛ばされたが、その者は寸前で魔法を発動していた。
無数の剣山のようなナイフが国王と、近くに居るいるアリサさん達に向けられた。
「ヤバっ───」
「ハァァァァ!」
俺が声を発するよりも速く、無数の障壁を纏ったカインが盾になった。
だが、貫通力もあったのか何枚もの障壁を破って、うち何本かが護衛達とカインに刺さっていた。
***
「済まない。精鋭と言われた我々が居ながら……なんて様だ」
「気にしたらダメだ。今はとにかく集中してくれ。僅かな余計な思考が命取りになる」
王城まであと少しのところで、護衛の騎士達3人を置いて行くことになった。いや、行くしかなかった。切断こそされていないが、足を斬られてはどうしようもない。
皆ちゃんと回復魔法や回復ポーションも持っていたが、敵のスキルか魔法、もしくはマジックアイテムの効果だろう。応急処置程度にしかならなかった。
「っ分かってる! 今は一刻も早く国王様を王城にお連れせねばならない!」
障壁を貫通したナイフから国王を守る為に、負傷した者達の隊長である彼女だが、部下を置いて行くのは酷なことだろう。
だが、今は時間が惜しい。同じく負傷しているカインは強化魔法が使えるアリサさんとリアナちゃんがカバー出来るが、残りの3人まで面倒は見れない。
「連中の狙いが国王なのは明らかだ! 置いて行った部下の方にまで戦力を注ぐとは考え難い! とにかく! 今は王城を目指すしかない!」
俺も国王に付き添いながら周囲を警戒しないといけないんだ。
ハッキリ言って負傷してロクに動けない奴らのフォローまで出来るほど、自分に自信なんて───考えている暇も、相手は与える気がないらしい。
「ッ」
「どうした!」
「走れ!」
「っ!?」
焦る国王の問いを怒鳴るように返してしまったが、一瞬で周囲を悪意が充満したこの空間の中では、もう余裕なんてあるわけがない。
今度は二台の馬車が俺たちの前と後ろ側を押さえるように現れた。
相変わらず全員顔を隠しており、黒いローブ御者の奴が合図を送ると、荷台の屋根によじ登った軽装備の黒い奴が肩に背負った大筒の先をこちらに向けて────ッ!?
「チッ!」
理解よりも直感が上回った。
腰に付けていた銀鎖の形状を鞭のように変化させると、大筒から赤い布で覆われた球が発射される。
俺たちを囲うように円状の鎖を振り回すと、発射された球を弾いた。
東方の地には空に打ち上げて爆破させる『ハナビ』という文化があると聞くが、きっとアレとは違う。
弾かれた球を中心に2メートル近い爆炎の球が発生する。凄まじい熱気と衝撃波が襲い掛かるが、銀鎖の形状を大盾にしてやり過ごす。……ていうかこの程度の熱気ならアリサさんのフライパンの方が上だ!
「ヴィット! こっちもヤバい!」
なんて冗談を言っている暇は当然ながらない。
俺が大筒の構えている馬車に注意していると、後方の馬車の連中が遠距離武器の魔法銃(ライフルタイプ)を構えていた。
何処から仕入れたのかと文句を言いたいが、それどころではない。
あの銃の数では、負傷中のカインと隊長の彼女だけではカバーし切れない。
絶対魔法使いの対策も込めた銃弾の筈だろうから、俺が対処するしかないが……とそこで、これまで黙って見ていた彼女が遂にキレた。
「いい加減にしなさい! “フレイム・グレネード”!!」
怒らせてたら絶対ダメなアリサさんの怒りの火炎弾が魔法銃を構えていた馬車を襲った。
咄嗟に魔法銃で迎撃しようとしたのもいたが、込めに込めていた魔力の質量が違い過ぎる。馬車が見えないくらいの弾幕のレベルに俺とカイン……ついでに国王が冷や汗を流していたところ……。
「させるかよ!」
俺はみんなの守りをやめて駆け出した。
何故ならこの隙にもう一度大筒を撃とうとしているマナーの悪い奴がいたからだ。
「っ!」
俺が気付いたことで今度は慌てて撃ったが、俺も今度は守るだけのつもりはない。
再び鞭のように銀鎖を伸ばして振るう。飛んで来た赤い球を空中で縛るようにキャッチする。そのまま馬車の方へ駆け出した。
「ほーら……よ!」
相手はきっとギョッとしたに違いない。
なんせ放った球が帰って来たのだから。
いち早く気付いた大筒持ちが慌てて屋根から降りて逃げようとしたが、時限式だったのだろう。
馬車に接触する直前で爆発を起こした赤い球。
その馬車を飲み込むように爆炎が逃げようとした奴も飲み込んでしまった。
「のは!?」
ついでに衝撃で近くにいた俺も飛ばされた。
するとちょうどもう一方の馬車の弾幕が収まった直後だった。
「あ」
「「「……っ!」」」
肩で息している馬車の連中と視線が合うと、一斉に魔法銃をこちらに向けた。
寝転がっている情けない体勢であるが、相手の者たちは容赦なし。
標的の国王よりも、まず邪魔で危険と判断した俺を狙ってきた。
「ちょ、ちょっと待───」
そして、まず一発目が。
「話を───」
倒れていたちょうど頭部があった地面に着弾。
跳ねるように起き上がると、続けて二発目、三発目を。
「交渉でも───」
横に避けてやり過ごした。
馬車の方へ駆け出すと四発目、五発目、六発目が。
【ウザい】
【いい加減、邪魔です】
平和的な解決の案はどうやら無理らしい。
不機嫌な二人の女神の紅蓮の炎と水の障壁が盾となった。
その時点で避けることを止めた俺は、銃弾を無視して構わず走り続ける。
「う、嘘だろう……!?」
「化け物か……!?」
そこから何発放っても結果は同じ。
撃っている連中から悲鳴にも似たそんな叫び声が聞こえたが、俺の基本的な射程範囲に入ったのでストップする。
銀鎖の形状を変化させて、弓と矢を生み出して慣れた感じで構えた。
ついでに最後の警告も添えておいた。
「さぁ、ラストチャンスだ。全員仲良く全滅するか、それとも大人しく両手を上げるか……好きな方を選ばせてあげるよ」
「「「…………」」」
向けられているのはたったの一本であるが、連中には無数の矢に見えたのかもしれない。確かに一本で十分だから連中の反応は間違っていない。
そして次第に奴らから闘争心が消えるのが視えると、ゆっくりと恐る恐るであるが、持っていた武器を捨てて潔く両手を上げた。
第3章【訳ありな店員さんの訳ありな王都帰省(仮)】
……の一部(予定)でした!!
こんな風になるかもとつい書いてしまいました! 反省はしてません!
多分無理だと思いますが、これはこれで面白い感じでした。
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