第五話 アイみたいに普段大人しい人ほど、こういう時に怖い。

「キリキリ、アルケ!!」


「ガウガウ!!」


 ちくしょう、結局捕まっちまった。いや、これも作戦なんだけどな? うそじゃねぇ、ほんとだ。


「ケルヒ、忍び込むセンスない、にゃん」


 俺達は今、牙狼族、族長の元へと向かっている。予定通りにな!


「聞こえてないフリすんなにゃん」


 まぁちぃっと両手を縛られてるのがあれだが、概ね問題ない。最悪、これくらいの縄なら切れるだろう。


「おりゃ」


「いてぇだろ!何すんだよ!!」


「無視するからにゃん」


「そうです! 俺が下手くそだから失敗したんです!!」


「まぁまぁ。二人とも落ち着いて下さい。一応、結果的に牙狼族の族長様に会えるのですから、喧嘩しないで下さい、にゃん。それでも続けたければ……」


「「ごめんにゃん」」


 二人揃って慌てて頭を下げる。アイみたいに普段大人しい人ほど、こういう時に怖い。


 呆れた様子でこちらを見ている牙狼族によって、俺達は族長のところまで連行されている。暫くすると、丈夫そうな扉の前に止まった。ここが族長の部屋か?


「シンニュウシャ、ツレテキタ!」


「よし、入れろ」


「ガウ!!」


 扉を開けると一人のいかにも身体を鍛えたであろう、五十代位の男が椅子に気だるそうにしながら座っていた。おそらくこいつが族長か。


「……こやつらが侵入者か」


「ソウ! ネコゾク!!」


 あれ、族長は普通に話せるのな? ヴイはまだマシだったが、他の牙狼族は片言だった。知能にもあきらかな差がありそうだ。まぁ一番偉い人間は頭が良くねぇとやってられねぇからな。話しやすいと思えば悪い事じゃねぇ。


 勿論、俺達の頭脳担当は女性陣だ。俺もヴァンも肉体労働担当になっている。そんな余計な事を考えている内に、連行してきた牙狼族がいなくなってしまった。部屋には俺達だけ。不用心だな。俺達は侵入者なんだぞ……?


「スンスン、おぬしらは人間か」


「なっ!?」


 この国に来て、今まで俺達が変装してきたのがバレた事がなかった。なぜなら俺達がつけている猫耳に猫尻尾には獣人族特有の匂いがついているからだ。まぁ実際に匂いを嗅いでも俺達にはいまいちわからなかったが。


「他の者ならまだしも、ワシの鼻をごまかせると思ったか? して、何用で忍び込んだ?」


 鋭い眼光でこちらを睨み付けてくる。一瞬怯みそうになったが、なんとか踏みとどまる事は出来た。


 既に侵入に失敗して一歩目を踏み外してる気もするが、まだこのあと飛び立てばいい。問題はねぇはずだ、きっと。


「俺達はヴイを探しにきた。ここに戻ってきてないか? あと、俺達の仲間が蛇族に連れ去られた。今のこの国の状況を聞きたい」


 世間話なんてしてる場合じゃねぇ。ヴイと付き合っててわかったが、獣人族は回りくどくいうより、直球で聞いた方が印象にいいみたいだ。


「愚息が戻ってきてるだと? おい! 誰か、愚息が帰ってきてる報告を忘れてんのか!!」


 族長が大声を出すと慌てた様子で先程の牙狼族がやってきた。


「ホウコク、ナイ! ワカサマ、モドッテナイ!!」


「わかった、下がれ。報告ミスじゃなく、愚息は本当に戻ってないようだな。おぬしらの仲間の事だが、蛇族に連れ去られたと言っていたな?」


「ヴイは戻ってないか……。そうだ、蛇族に」「本当にヴァンさんがどこにいるかご存じないのですね!?」


「アイ!!」


 今回、ヴァンが抜けてから気持ち的に安定していない。その為に、今回は俺が交渉事を担当してる訳だが、やはりアイの様子があまり良くない。いつもならこんなところで口を挟んでこない筈だ。やっぱり俺だけの単独で動くべきだったか……?


「そこのお嬢さん、落ち着きなさい。確か、そのヴァンという子は帝国から同胞を奴隷から解放した英雄の事だな?」


「そうです。そして、わたし達の大切な仲間です!!」


「そして、その英雄を蛇族が連れ去ったと……」


 思った以上に話を聞いてくれるな。逆に怪しい気もする。どこまで信用していいんだ? 実はもう敵がこちらに来てるって事はないか?


  くそ、俺じゃ読み合いまで出来ねぇ。


「ふむ。少なからず、ワシの知らないところで事態が動いているみたいだな。そして愚息もここに向かっている筈なんだな?」


「あぁ、もうヴイがこっちに向かうと言ってから十日は経っている。そして俺達はヴイが戻ってこないからここまでやってきた」


 族長が思案顔で俯いている。アイが何かいいたそうにしてるが、何とかリスが抑えてくれている。ここで話がこじれる訳にはいかねぇからな。リスには何とか頑張ってもらいたい。


 それにしてもここまでアイが心を乱し続けるとは思わなかった。それほどまでにヴァンが大事なんだろうな。本人がどこまで自覚してるかわからないがこれはもう仲間を想う気持ちをとっくに超えているだろう。


 その気持ちは場合によってプラスになったりマイナスになったりしてしまう。今までヴァンの為に頑張ろうとした時にはきっとプラスになっていただろうが、今回は残念ながらマイナスだ。気持ちが逸り過ぎている。俺だけだったらどうにも出来なかったな。リスに感謝だ。まぁそんな事をもし直接いってもリスには当たり前だとバカにされるだけなんだろうけどな。


 考え事をしていると不意に族長が前を向いていた。


「お主らの全てを信じる事は出来ない。だが、全てを嘘だと断言するには早計すぎるな。制限はさせていただくが、何かわかるまでここで泊まっていくがよい。そこのお嬢さんもその方が安心するだろう?」


 予想以上の結果にこちらが驚いてしまう。


「えっと、俺が言うのもあれだが、いいのか? 俺達は人間だぞ?」


「フン、人間を信用した訳ではない。おぬしらならば、多少は信じてやってもいいと思っただけだ。ワシの嘘を見抜く眼を舐めるでないぞ」


「正直、助かる。あんたみたいに個人を見てくれるやつって中々いないからな」


「ハハッ、若造が図に乗るでないぞ? まだ信用しきっておる訳ではないからな。では愚息に関してはこちらでも調べよう。ではあと、もう一つの質問についてだな」


「あぁ、この国はどうなっているんだ? 盗賊なんかじゃともかく、正規の軍があらかじめ通達してあった使者の一人を攫うって普通じゃねぇぞ」


 帝国に宣戦布告してると取られてもおかしくない所業だ。それがわかっているのか苦い顔している族長が重い口を開いた。


「……であるな。そこに関しては長老が変わってから様子がこちらに見えてこなくなったのだ。まぁおそらく何らかの干渉があったのであろう。元々、獣人族はそれぞれの部族が集まった群れだ。他の部族が何をしようと、この国によほどの不利益を被らぬ限りは干渉はせぬ。それが今回は裏目に出た恐れがある」


「俺達の国とは全然違うんだな……」


「そうだ、それがこの国の在り方で、それぞれの誇りを尊重した生き方をしている。ただ、蛇族は長老である獅子族に近い部族だ。長老が絡んでいる事は間違いないだろう」


 獣人族は国とは名乗っててもそれぞれの群れの考え方で行動してるって事なんだな。だからこうやって他の部族が行動した時に気付きにくく、今回はその隙を狙われた可能性が高いな。牙狼族がこんな感じじゃ他の部族もそんなに詳しくはなさそうだ。


「……今夜は疲れたであろう? 寝床を用意する。そこで休まれよ。お互い、考える時間が必要だ」


「そうだな。ご厚意、感謝するよ。助かる」


 ぶっちゃけ疲れた。大体さ、こういう時の話ってヴァンがいつもやるから俺ってどっか向いてあとで確認すればいいやってポジションじゃん? それがこんなに表に立って交渉するとかきついわ。まぁ予想以上に話が進んで結果的にはよかったんだが、逆に順調すぎて、ちょっと驚いてる。まぁそこは考えすぎても仕方ないから、よしとしよう。日頃の行いが良かったって事だ、きっと。


 アイの事もあるし、まだやらなきゃいけねぇ事はたくさんある。


 さっき案内してくれた牙狼族がやってきて、寝るところに案内してくれる事になった。なんだかんだ、この牙狼族は面倒見がいいみたいで、結構こちらを気にしてくれてる。


 ……明日からも忙しい。俺が頑張らねぇとな。


――――――――――――――


 最新話まで読んでいただき、ありがとうございます! とても嬉しいです。


 他のキャラの活躍もたまにはいいよね!! ヴァンがどうなったか気になる! 少しでも応援していいかな? って思っていただけた方、評価☆、フォローをよろしくお願いします。それを励みに頑張りたいと思います。

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