第四話 ヴァンが女装する時の気持ちが漸くわかった気がするぜ

「暑いぜ、にゃん」


「うるさい……にゃん」


「暑いですね、にゃん」


 獣国暑すぎねぇか……? 隣を歩くアイとリスもだるそうに歩いている。


 獣国に入って一週間。まだ成果は出ていない。周囲は獣人だらけで逆に俺達みたいな普通の人間の姿は全く見えない。


 それなら何で俺達が目立たないのかって? にゃんといってるからさ!! いや、違うんだけどな? 獣人ってのはさ、身体の一部が獣である場合が多いんだ。ヴイは犬(狼)の耳と尻尾があるし、若干毛深い。あの蛇の野郎にいたっては半分蛇だった。そして『にゃん』といったら猫だろ?


 そうだ! 猫耳に尻尾だ!! ……こういうテンションって俺のやることじゃねぇんだけどな。やっぱヴァンの存在って偉大だなってこういう時に思うぜ。


 といった感じで獣人国に潜入してみた。この猫耳に尻尾はとある趣味を持った変態が作り出した変態な品だ。けどまぁ……隣を歩いている二人を見ていると悪くねぇなぁって思う……いや、やっぱこれ以上はやめとくぜ。リスの視線が怖いからな。


 獣人にも色々な種類がいて、最初に会ったヴイのような牙狼族。ヴァンを連れ去った蛇族。ここの王様? 長老が獅子族っていってたな。まだ他にもいるがそれはまた出会った時にでもってやつだな。そして俺達が変装してるのが猫族だ。牙狼族の猫版だ。猫耳に尻尾、語尾に『にゃん』ってつくのが特徴らしい。


 必要な事なのはわかってるんだが、これがまた恥ずかしい。ヴァンが女装する時の気持ちが漸くわかった気がするぜ。


 そして獣国だが、とにかく昼間は暑くて、夜が寒い。家は土を塗り固めたような壁で出来ている家が多く、雨が少ないせいか地面が砂っぽいな。強風が吹くと目も開けられねぇ程に砂が舞って正直結構きちい。


 どうやらこの国は、オアシスっていう水辺を中心に国を作ったらしい。飯は抜けても水は飲まねぇと死んじまうからな。そしてこの長老? ってのが俺達でいう王様なんだけど、その基準が各部族の強さで決まるらしい。今は獅子族らしいが、何年か前まではヴイのとこがやってたらしいぜ。何年か一度に各部族の長が集まって代表者同士で戦ってきめるんだとよ。そして中央にある巨大な砦に長老がいて、それを囲むように各部族が暮らしているみたいだ。


 今俺達がいるのは牙狼族の拠点だ。周りはヴイみたいに犬耳と犬の尻尾が生えてて、若干毛深い。ヴイは割と普通に喋れたが、この部族はあまり喋るのが得意じゃねぇらしくって片言になっちまうから会話が中々うまくいかねぇ……。


 おそらくヴイはここにいると思うんだがなぁ……。ヴァンの事もあるし、さっさとヴイと合流して救出に向かいたいんだが、焦りすぎてもいけねぇし、じれってぇ。


「あちぃしよ、ちょっとあそこで休なねぇか、にゃん」


「そうですね……、にゃん」


「にゃん」


 ……この喋り方も早く慣れねぇとな。


 この国はとにかくあちぃ。だからか、所々にヤシ? の実から取れるジュースが売っているんだ。これがまた中々美味くって最近マイブームになっている。あんまり飲みすぎると腹が痛くなるんだけどな。とまぁそんなこんなで一杯飲みながら周囲の会話に聞き耳を立てるんだ。最初に族長に相談してくるってヴイはいってたし、ここに戻ってきてる筈だ。それなら全くその姿を見た奴がいないなんて事はあり得ねぇ。


「あり得ねぇ筈なのに、何でヴイの情報が全くねぇんだ……にゃん」


「謎にゃん」


「ここまで辿り着けなかったんですかね……? にゃん」


「ヴイ程の実力ならそう簡単に捕まるとは思えねぇんだがなにゃん。人がいない夜中に戻ったのかにゃん」


「それでも一人も見てないなんておかしいにゃん。巡回してる警備員に聞いても知らなそうな感じだしにゃん」


「ヴァンさんみたいに既に捕まってる可能性も高いですねにゃん」


「まぁ十中八九ヴイも捕まってるだろうなにゃん。けど、ヴァンの時と違って、ヴイはしっかり警戒してる筈だにゃん。奇襲を受けたとしてもそう簡単にやられる奴じゃねぇぜにゃん」


「だから謎にゃん」


「「「ハァ~~……」」」


 三人揃って溜め息をついてしまった。そろそろ聞き込みだけじゃ情報を得るのは不可能じゃねぇかと思っている。そうなると次は牙狼族の族長のところに直接行くしかねぇんだよな……。だけど、俺達だけで大丈夫なのか? 出来りゃ、ヴイと合流して族長のところに行くのが助かるんだがな。けどこのままじゃダメだよなぁ。


「明日、族長のとこに行ってみねぇか? にゃん」


「やっぱそれしかないですよねにゃん」


「仕方ないにゃん」


 その後、聞き込みを続けたが、やはりヴイの情報はどこにも出てこなかった。日が暮れて、今度は逆に寒くなってきた。こうなると獣人族達はそれぞれの家へと帰っていく。残っているのは飲み屋に行くような酔っ払いばかりだ。


「俺達も宿に戻ろうにゃん」


「はいにゃん」


「にゃん」


 宿に向かいながらも今後の事を考える。ここまで来て、何も情報が無いんだ。残る手段は族長のとこに行くしかないか。あとはどうやって族長のところまで行くかだな。これについては流石に人通りが減ったとはいえ、こんな街中で喋っていい事じゃない。


 宿に付いたらすぐに話し合うか。そうとなったらすぐにでも宿に戻るぞ。ぶっちゃけ寒いしな。この温度差は結構きちぃ……。


 冷える身体をさすりながら、俺達は宿へと向かっていった。

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